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【今日の読書】『星を賣る店』 クラフト・エヴィング商會

本日は、クラフト・エヴィング商會の『星を賣る店』にいたしましょう。

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クラフト・エヴィング商會は、ご夫婦による装幀ユニットです。ユニットとしても個人としても物語なんぞも書くようですが、そちら方面の活動をあまり知りませんので、私にとっては装幀家という位置づけです。

本の顔と言うべき装幀はかなり重要で、どんなに内容が良くても第一印象で手にとってもらわないと、内容の良さはわかりません。
書店来訪者に内容を想像させつつ内容には触れず、思わず手に取ってみたくなる、一種「だまし」の要件が装幀には必要そうです。

2014年の1月から3月、世田谷文学館でクラフト・エヴィング商會の「クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会」が催されました。

本書はその図録として編まれたものであり、商会の商品目録でもあります。
したがって、読む本というよりも見る本と言うべきでしょう。
内容はほとんど展覧会そのものです。

装幀家の展覧会ですから作品である装幀した書籍も展示場全体の三分の一程度を使って展示されていました。本書では約半分を占めています。

クラフト・エヴィング商會の仕事は装幀の請け負いだけではございません。
どこぞの得体の知れぬ商品を取り扱っております。

たとえば、商品番号5005番「稲妻の先のところ」は、“古ぼけた小袋に納められたら枝か犬の糞のようなもの”で、次のようにキャプションが打たれています。

「稲妻捕り」の名手によって捕獲された新鮮な稲妻の、その先のところ。命をとられない程度の甘い電気がジリジリと感じられ、体内の「嫌なもの」を焦がしてくれるとのこと。すさまじい夕立の後が仕入れどきです。


絶対にあり得ない「稲妻の先のところ」を、なんだかわからない物体に古色蒼然としたラッピングを施すことであたかも実在するように見せています。

商品番号8008番「とりあえずビール」
麒麟ならずシマウマをあしらった「TORIAEZU BEER」のラベルのビール瓶。
私たちが飲み屋で詠唱する「とりあえず、ビール!」はこんな形をしているかもしれません。

本書にある数々の商品は まさに「だまし」そのものです。
笑ってしまうような楽しい「だまし」です。

展覧会は残念ながら疾うに終了しましたが、普通の展覧会の図録と違って、一般書店で取り扱われる書籍の形で流通していることを幸いとしましょう。
(※ 本書は現在品切れのようです。)

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