《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード前編:ダーク・カンオケ・バトルシップ】
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3 ヒズ・サン・アンド・ヒズ・アプレンティス
「ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ……」
宇宙暖炉の奥に隠されたシークレット・パスウェイを駆け、ゲン・ハヤトは実家に程近い岩山の中腹に抜け出していた。
眼下に火柱が噴き上がる。超光速通信機に膨大なエネルギーを供給するジェネレーターが、実家の真下に広がる地下ドージョー空間もろとも自爆したのだ。敵を利する手掛かりなど微塵も残るまい。無論、家族の亡骸も。
「オヤジ……オフクロ……リオ……」
ハヤトは目を閉じて、父母と妹の死を悼んだ。しかしその間にも、ガバナス帝国のニンジャトルーパー達は、音もなくハヤトの周囲を取り囲みつつあったのだ。
上級トルーパー・アカヅラのハンドサインが、完璧な包囲態勢を形作る。フォーメーションを確認したアカヅラは満足げに頷き、「イヤーッ!」ハヤトの背中めがけて軍用クナイ・ダートを投擲した!
だが、血飛沫のかわりに飛び散ったのは、透明プラスチックめいた宇宙フラワーの花弁だった。「アイエッ!?」一枚一枚が陽光を反射し、宇宙ゴーグル越しにアカヅラの眼を射る! 既にハヤトの姿は地上に無い!
「イヤーッ!」
頭上よりカラテシャウト! 流麗な回転ジャンプで初撃をかわしたハヤトは、着地と同時に金属グリップのボタンを押した。グリップからスティック状の刃が飛び出し、ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀に変形!
姿を現したニンジャトルーパーの一団が、じりじりと包囲を縮める。身代わりに散った花束の残骸を投げ捨て、若き宇宙ニンジャは決断的にアイサツした。「ドーモ。ゲン・ハヤトです!」
アカヅラは片手を上げ、部下達を制した。アイサツされれば返さねばならない。それは宇宙ニンジャにとって絶対の掟だ。アンブッシュを仕掛けた当の相手であろうと、アイサツが完了するまで攻撃は許されぬ。
「ドーモ。ガバナス帝国ニンジャアーミー上級トルーパー、アカヅラです」
オジギ終了からコンマ5秒!「「イヤーッ!」」二人のカラテシャウトはほぼ同時だ!
身を伏せたハヤトの頭上を、アカヅラのクナイ・ダートが通過した。「イヤーッ!」ハヤトは鞭めいた足払いで、手近な無個性ニンジャの軸足を刈った。そのまま丸太めいて転がり、包囲を突破! ワーム・ムーブメント! 転がった先のニンジャトルーパーが反応するより早く、その腹部を地面から蹴り上げる!
「オゴーッ!」フルフェイスメンポから吐瀉物が漏れた。悶絶するトルーパーをハヤトは蹴り足で引き倒し、入れ替わりに立ち上がってニンジャ伸縮刀を構えた。その間わずか3秒。家族を皆殺しにされた怒りがハヤトのニューロンを駆け巡り、その血に受け継がれた潜在能力を呼び起こしつつあった。
「「「アイエッ……」」」トルーパーの数名が思わず後ずさった。
アカヅラは部下達を叱咤した。「怯むな! 消極的戦闘すなわちサボタージュ! 反逆罪に問われるぞ!」
「「イ……イヤーッ!」」その一言で自らを鼓舞した下級トルーパー二名が、ニンジャソードを構えて突撃!「イヤーッ!」ハヤトは二本のソードを伸縮刀で受け流し、すかさず敵の片方に斬りつけ……(斬れない!? バカな!)
幼き日の記憶がフラッシュバックした。亡き父ゲン・シンは、このカタナで木も石も鉄も宇宙バターの如く切り裂いて見せた。サンシタめいた無個性ニンジャの身体など、たやすく真っ二つにできるはずなのだ!
宇宙ニンジャアドレナリンが全身を駆け巡る。引き延ばされた主観時間の中、ハヤトは咄嗟に戦術を変更した。「イヤーッ!」アカヅラに狙いを定め、再度回転ジャンプ! 両腿で首を挟み、後頭部を地面に叩き付ける!「グワーッ!」
そのまま馬乗りになったハヤトは、敵の喉元に伸縮刀を突き付けた。斬れずとも力任せに刺すことはできる。上官の危機に、下級トルーパー達の動きが止まった。しかし。
「そこまでだ、小僧」
ハヤトの首筋に冷たい刃が触れた。
「ドーモ。はじめまして、ゲン・ハヤト=サン。ガバナス帝国ニンジャアーミー副長、イーガーです」
長身のニンジャソードで、イーガー副長はハヤトの頬をピタピタと叩いた。「ゆっくり立って、こっちを向け」
いつからこの場にいたのか。背後を取られるまで、気配すら感じ取れなかった。ウカツ。自分への怒りを押し殺しつつハヤトは立ち上がり、イーガーに向き合った。トルーパーの一人が抜かりなく伸縮刀を取り上げる。
将官めいたミリタリーニンジャ装束。角付き宇宙ニンジャヘルムには、ブラックメタルめいた鋭利かつ複雑かつ凶暴な意匠。惑星アナリスの乾いた風にオリーブドラブのマントをなびかせながら、イーガーは酷薄な笑いを浮かべた。
「超光速通信機はどうした」「爆破した。それがゲンニンジャ・クランの掟だ」「それが貴様らのクラン名か。構成員は何人だ? 所在は?」
「さあね。知ってても教えるもんか」反抗的態度!「吐かんか貴様! さもないと」イーガーがハヤトの胸倉を掴む!
「さもないと何だ! オヤジのように後ろから殺るか!」
ヤバレカバレな挑発が、プライドの傷口を抉った。
「後ろも前も! あるかーッ!」「グワーッ!」イーガーに頬桁を張られ、ハヤトはゴロゴロと地面を転がった。トルーパー達がすかさずその身体を引き起こし、リンチめいて拘束する。
「殺せェーッ!」血混じりの唾を吐き捨て、ハヤトは絶叫した。怒りが怒りに共鳴し、イーガーの目が血走った。
「いいだろう、望みどおりにしてやる!」「副長! それでは任務に支障が」「ダマラッシェー!」「グワーッ!」鉄拳を食らったアカヅラが地を這う!
「こんなカスどものクランなど我がアーミーには不要! 直ちにカイシャクせよ!」「ハイヨロコンデー!」激情のまま放たれた命令に盲従し、下級トルーパーが一斉に軍用ニンジャソードを構えた。その刹那。
「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」
ヤジリめいた形状の宇宙スリケンが、ニンジャトルーパー達の腕に次々と突き立った! 地面に落ちるニンジャソード! ハヤトを拘束していたトルーパーも、手首から緑色の血を噴き出して悶絶する!
「イイイヤアアーッ!」
ジュー・ウェア風ジャケットに身を包んだ男が、力強い回転ジャンプエントリーを果たした! 右手に握る金属グリップのボタンを押すと、スティック状の刃が飛び出し、ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀に変形!
「ドーモ、はじめまして。リュウです」
「ドーモ、はじめまして。イーガーです。イヤーッ!」
アイサツ終了から僅かコンマ2秒後、イーガーはリュウを袈裟懸けに斬りつけた。チュイイイン……飛び散る火花! イーガーの斬撃を受け止めたリュウの伸縮刀が、超振動で相手の刀身を削り取る!
「チィーッ! 貴様もか!」イーガーはバックフリップで退避!
「手間のかかるニュービーだぜ」リュウはハヤトと背中合わせに立ち、不敵に笑う。その手の伸縮刀をハヤトは見咎めた。「リュウ=サン! なんでアンタがそれを……」「なんで戻って来たかって? ハイジャック犯から慰謝料をふんだくるのを忘れたンでね!」
「クッ……かかれェーッ!」イーガーの命令一下、二人に殺到するニンジャトルーパー!「「「イヤーッ!」」」
「ナメるな! イイイヤアアーッ!」「「「アバーッ!」」」
次の瞬間、リュウは既にザンシンしていた。下級トルーパーの首が、3つ同時に宙を舞う!「「「サヨナラ!」」」爆発四散!
「ハッ! ニンジャアーミーってのも大したこたァねえな!」
爆発四散したトルーパーの一人は、ハヤトの宇宙ニンジャ伸縮刀を持っていた。空中に投げ出されたそれをキャッチしたハヤトは、「イヤーッ!」リュウに負けじと手近な敵に斬りつけた。だがやはり、彼のカタナは全く斬れ味を発揮しない。
「オイ何やってんだ! それでもクラン長の息子か!」敵のニンジャソードと鍔迫り合いするハヤトにリュウが叫ぶ。「カラテを籠めンだよ! 教わってねェのか!」
(((ハヤトには宇宙パイロットのカリキュラムを優先的に学ばせておる)))(教育失敗だなクソジジイ!)リュウはゲン・シンの声に毒づいた。ニューロン内の会話は余人には聞こえない。
ハヤトは言われるがまま、右手にカラテを集中した。「イヤーッ!」チュイイイン! 伸縮刀が甲高いノイズを放ち、敵のニンジャソードを切削両断! 抵抗を失って前方に泳いだ刀身は、敵の頭部を宇宙バターの如く切り裂いた。異星種族の緑色血液と脳漿が、超振動で微粒子の霧と散る!
「アバババーッ! サヨナラ!」爆発四散!
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
宇宙ニンジャ伸縮刀を振り回し、ハヤトは必死に戦った。幼き日に授かった僅かばかりのインストラクションを、ニューロンの奥底から必死に掘り起こしながら。
だが、(何だありゃ)リュウは内心舌打ちした。刀身が最高レベルで振動しっ放しだ。(((超振動は敵を斬る一瞬のみに抑えねばならん。さもなくばたちまちカラテが枯渇する)))(それをテメェが教えねェから!)
早急に決着をつけねば、消耗したハヤトは致命的な足手まといとなろう。「イヤーッ!」リュウはイーガーに回転ジャンプで肉薄し、伸縮刀で立て続けに斬りつけた。チュイン! チュイン! チュイン! ソードの切断を恐れるイーガーは、瞬間防御に徹さざるを得ない。「ヌゥーッ! おのれ!」
「イイイヤアアーッ!」リュウは防御の隙を突き、イーガーの胸板に重いドロップキックを叩き込んだ。「グワーッ!」くの字に曲がって吹っ飛ばされたイーガーは、ウケミでダメージを相殺。素早く周囲を見回し、部隊の損耗状況を把握した。この場は撤退すべし。
「貴様はいつかこの手で殺してやるぞ、リュウ=サン! また会おう!」「男の誘いは断る主義でね」「フン。退けェーッ!」
イーガーとニンジャトルーパーは瞬時に散開し、リュウ達の視界から消失した。「待てッ!」駆け出そうとするハヤトの肩を、リュウはがっちりと掴んで制した。「調子に乗るなよ、ハヤト=サン。ここらが頃合いだ」
ヒキアゲ・プロトコルを順守して去った宇宙ニンジャへの追撃は、99.99%無効化される。これ以上は徒労だ。「バルーが船で待ってる。行こうぜ」
潮が引くように、ハヤトのニューロンからイクサの高揚が消えていった。あとには喪失の悲しみだけが残された。
【#4へ続く】
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