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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【フォー・ア・フュー・スクリューズ・モア】

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【#3】←

◆#4◆

 ジャックが拘束された拷問台の周囲は、いまや騒然たる様相であった。

 横一列に植え替えられたガバナス様式の装飾柱に、教育センターの子供達が拘束されている。「ウッ……ウウッ」「グスン」「アイエエエ……」すすり泣く彼らの前にはニンジャトルーパー小隊が整列し、宇宙マシンガンの狙いをつけていた。ジャックは首をねじ向けて呻いた。「みんな……!」

 次々と到着する軍用トラック。その荷台に満載されていたコロニー住人が、トルーパーに追い立てられながら降車した。「オイ、あれを見ろ!」「ナンデうちの子が!」「どうなってる!」処刑場めいた光景に浮き足立つ群衆!「静まれ市民!」BRATATATA! 小隊長が空へ威嚇射撃!「「「アイエエエエ!」」」

「どけ、どけーッ!」「通してください!」人々を掻き分け、メロスとハヤトがその場にエントリーした。「これは何の真似だ、ランプ!」「保険だよ」タイタンの傍らに立つランプが振り返った。「貴様が命令に背いた時のな……そしたら案の定だ。まさか、殺せと命じた相手を連れてノコノコ戻って来るとは」

「貴様は昔からそうだ、メロス」ランプの声音に怒りが籠り始めた。「その場のノリで勝手放題したあげく、周りの俺達にケツを拭かせて気にも留めやしない。自分だけはいつまでもヤンチャが許されると思ってやがる! 町の大人どもに甘やかされて、図体だけデカくなったクソガキが貴様だ!」

「その貴様が所帯を持って、町長の義理の息子だと? フザケルナ!」自らの言葉に激高したランプは、血走った目で群衆を見回した。「聞け、クソ市民共! 極悪指名手配犯ゲン・ハヤトとメロスの身代わりに、貴様らのガキをこの場で処刑する!」「「「アイエエエエ!」」」泣き叫ぶ人々!

「助ける手段はただ一つ! 貴様らがこの場でメロスを殺すのだ!」ランプが片手を差し上げる。それを合図に、傍らのトルーパーがガラガラと地面に放り出したのは……ナムサン! ピッチフォーク、シャベル、大鎌、ハンマー……かつての反ガバナス抵抗運動において、住民が武器として用いた農具の数々!

「……」「……」人々は恐怖と憔悴の目を見交わし、そして……一人、また一人とそれらの得物を拾い上げ始めた。「卑怯だぞランプ=サン!」憤るハヤトを押しのけ、メロスはカタナに手をかけた。「かかって来い、ろくでなし共! 貴様らはそうやって俺の妻と娘を殺し、今度は俺を殺す気か!」

「すまねえ、メロス=サン」宇宙テンガロンハット男が、顔を歪めてピッチフォークを構えた。「ガキ共のために、シ、死んでくれ」「立派な墓を建ててやる。センコと供え物も欠かさん」「ナムアミダブツ……」後に続く人々が幽鬼の如くブツブツと呟く。「オノレ―ッ!」メロスが抜刀して吼えた、その時!

「お父さん!」

 血を吐くようなジャックの絶叫に、大人達は水を打ったように静まり返った。「町の人と戦うのはヤメテ! 僕はまた友達と遊びたいんだ!」少年の両目から涙が溢れた。「お父さんは西部の勇者だ! 悪い奴を倒して平和を取り戻すのが、勇者の使命じゃないか!」「ジャック……!」

「父ちゃん、母ちゃん! メロス=サンを殺さないで!」「お願い!」装飾柱に縛り付けられた子供達もまた、口々に訴え始めた。「メロス=サンは僕達の英雄なんだ!」「メロス=サンを殺したら、僕らは一生パパとママを許さないぞ!」「そうよ、許さない!」「「「許さないぞーッ!」」」

「お父さん!」喉も裂けよとジャックは叫んだ。「僕は死んでもいい! 町の人達と力を合わせて、ガバナスをやっつけてくれーッ!」「オネガイシマス!」「戦って!」「ガンバレーッ!」子供達が叫ぶ中、立ち尽くすメロスの肩をハヤトが掴んだ。「あの声を聞いてくれ、メロス=サン!」

「子供達ですら本当の敵を知ってるじゃないか! 一度は僕を斬ろうとした今のメロス=サンならわかる筈だ。悪の力であんたを裏切らざるを得なかった、町の人達の辛さが!」「その通りじゃ!」町長が息を切らせて駆け込んだ。「悲しみはお前一人だけのものではない! わかってくれ、メロス!」ドゲザ!

「何だ、この茶番は」タイタンが鼻白んだ。「市民とメロス=サンが殺し合うさまを見物できると言うから、私はわざわざ出張って来たのだぞ」「申し訳ありません。奴等の惰弱さを過小評価していました……ですが、まだ手はあります」ランプは小隊長に号令した。「見せしめだ! 直ちにガキ共を処刑しろ!」

「待て!」歩み出るハヤト。「お前達の狙いは僕だろう! 僕の命と引き換えに、子供達を助けてやってくれ!」「よかろう」期待通りの反応にランプはほくそ笑んだ。「武器を捨ててこっちへ来い、賞金首」「……わかった」ハヤトはグリップ状に縮めた伸縮刀を懐から取り出し、足元に投げ捨てた。

「メロス=サン……あの子達なら、きっと立派な戦士になるだろう。僕はそれを信じる」ハヤトはゆっくりと歩き始めた。刑場に向かう死刑囚めいて。「町の人達と仲直りして、ガバナスと戦ってくれ。頼むぞ」「ハヤト=サン、俺は……!」メロスは言葉に詰まった。

「そうだ……それともう一つ」ハヤトは足を止めて振り返った。「この町が平和を取り戻したら、僕の代わりにリアベ号に乗って欲しいんだ。ジャック=サンと二人で」ハヤトの微笑みは、既にアノヨの住人めいて透徹していた。「ソフィア=サンがくれたスゴイ船なんだ。戦闘機もついてる。きっと気に入るよ」「……!」

「お父さん!」「メロス=サン!」「パパ、ママ!」ジャックと子供達が口々に叫ぶ。「みんなで一緒に戦って!」「僕らの事は構わなくていい!」懸命に訴える彼らの声は、いつしか一つのシュプレヒコールへと収束していった。「「「メーロース! メーロース! メーロース! メーロース!」」」

「「「メーロース! メーロース! メーロース! メーロース!」」」固く結ばれたメロスの唇がわなわなと震え出した。「「「メーロース! メーロース! メーロース! メーロース!」」」遠ざかるハヤトの背中が滲む。日に灼けたメロスの頬に、熱い涙が滂沱と流れた。そして……!

「待て、ハヤト=サン! 死ぬのは俺だァーッ!」

 メロスが絶叫した瞬間、「イヤーッ!」何者かの投擲した宇宙スリケンが銃殺トルーパー達の手首に次々と突き立った。「「「グワーッ!」」」地面に落ちる宇宙マシンガン! 彼らの頭上を高々と飛び越え、「イヤーッ!」真紅装束の宇宙ニンジャが力強い回転ジャンプエントリーを果たす!

「銀河の果てからやって来た、正義の味方。ドーモ、ナガレボシです!」「ナガレボシ=サン!」伸縮刀を拾い上げてハヤトが叫んだ。「もう来ないかと思ったよ!」「ナメんな」宇宙ゴーグルに素顔を隠したリュウは片頬で笑った。「テメェごときに俺のアンブッシュを気取られてたまるか!」

「反ガバナス宇宙ニンジャテロリストだ! 殺せ! コロセーッ!」タイタンがヒステリックに叫んだ。「「「ヨロコンデー!」」」殺到するトルーパー小隊に、BLAMBLAM! メロスがレーザー拳銃を連射!「お前達の好きにはさせん!」BLAMBLAMBLAM!「「「グワーッ!」」」バタバタと倒れるトルーパー!

「メロス!」ランプが構えた拳銃の射線を、KILLIN! 飛び来たる投げナイフが弾き逸らした。「WRAHAHAHA!」岩の上で飛び跳ねるバルーのハチマキには、弾帯めいて予備のナイフが並ぶ。「もう一発どうだシェリフ野郎! それとも俺のヒサツ・ワザを食らうかよ!」「クソが!」ランプの顔が怒りに歪んだ。

 その機を逃さず、「「イヤーッ!」」ハヤトとメロスは残る小隊トルーパーに襲いかかった。「イヤーッ!」「グワーッ!」軍用ニンジャソードをシラハドリで捕え、捻り倒してキドニーに拳を叩き込むハヤト!「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」縦横にカタナを振るい、手足を斬り飛ばすメロス!

「イヤーッ!」ナガレボシは伸縮刀を手に色付きの風と化し、ジャックと子供達の間を駆け抜けた。たちまち斬り払われる拘束ロープ!「逃げろテメェら!」「「「ハイ!」」」子供達は一斉に走り出した。男子の幾人かがジャックに肩を貸して立ち上がる。「ア、アリガト……」「水臭いぞジャック!」「急げ!」

「小国民が敵前逃亡! ただちに処刑を……グワーッ!」トルーパーの胸からピッチフォークの先端が突き出した。「ガキ共に、テ、手を出すな!」脂汗を流しながらフォークを捩り込む宇宙テンガロンハット男!「何をするか市民! イヤーッ!」その背中を別トルーパーが斬りつける!「アバーッ!」

「お父さん!」「お母さァーん!」駆け寄った子供達をそれぞれの親が抱き止める。入れ替わりに飛び出した鉱夫が、三流ガンマンが、サルーン店主が、その他諸々の血気盛んな者達が……ヤバレカバレの覚悟を決めて、ニンジャトルーパーの一団に雪崩を打った!「「「ザッケンナコラーッ!」」」暴動!

「鎮圧! イヤーッ!」「「アバーッ!」」住民を斬殺するトルーパー。だが斬り捨てられるそばから新たな群衆が湧き出し、小隊を押し返し始める。「「グワーッ!」」「無駄な抵抗はやめろ! 市民スコアを下げアバーッ!?」叫ぶトルーパーのヘルメットを貫通し、大鎌の刃が脳天に突き立った。

「アンタらのナントカ点数はもう沢山なんだよ、畜生!」緑色の返り血に塗れた老婆が、宇宙ハンニャの形相で鎌をねじり込む。「アバババーッ!」圧政に抑えつけられた人々の怒りが極限状況下でついに閾値を超え、地下のマグマめいて噴出したのだ。「「「「「ウオオオオーッ!」」」」」吠える群衆!

「堪忍袋が爆発したぜ!」「俺達はメロス=サンにつく!」「どうせ死ぬならお前らも道連れだ!」「覚悟おし!」「「「グワーッ!」」」自我希薄なニンジャトルーパーは想定外の事態を前に思考停止に陥り、群衆に押し流されてゆく!「対処不能!」「指示を下さい!」「「「アイエエエエ!」」」

「散開せよ! 距離を取り各個射撃で……」「させるか! WRAAAGH!」号令する小隊長トルーパーを背後から担ぎ上げ、バルーは竜巻めいて身体を高速回転させた。「グワーッ!」跳び上がった竜巻は空中で上下反転して、小隊の只中に突っ込んだ!「サル・マワシ!」KRAAAASH!「「「アバババーッ!」」」

 猿人カラテのヒサツ・ワザが、ミキサーの如くトルーパーの四肢を撒き散らした。「チッ。ここらが潮時か」舌打ちして身を翻すランプの前に、「どこへ行くランプ=サン!」軍用サーベルを手にしたタイタンが立ちはだかった。「貴様には上官の私を守る義務がある。敵前逃亡は許さんぞ!」

「……」ほんの数瞬思考を巡らせ、ランプはレーザー拳銃を抜いた。「アイエッ!? 血迷ったか!」「状況判断だよ」狼狽するタイタンに、銃口で周囲の様子を示す。隊長を失ったトルーパー小隊は烏合の衆と化し、いまや全滅寸前だ。「噂のガバナス帝国がこの程度とはな。俺は降りる。アンタは好きにするがいい」

「バカな! 貴様、帝国への忠誠を何だと思って……」BLAM! タイタンの足元で光弾が土煙をあげた。「アイエエエ!」「アンタには随分世話になったが……それ以上グダグダ言うなら、殺すぜ?」「オノレ!」睨み合う二人の頭上を、「イヤーッ!」何者かの影が飛び越えた。

 白銀装束の宇宙ニンジャが華麗な回転ジャンプエントリーを果たす!「変幻自在に悪を討つ、平和の使者。ドーモ、マボロシです!」宇宙ゴーグルに素顔を隠したハヤトはヒロイックなアイサツを決めた。ハヤガワリ・プロトコルを順守した者の正体は99.99%秘匿される。

「タイタン! ランプ!」追いついたメロスがカタナを構えた。「今日こそは妻と娘の恨み、町の人々の恨みを晴らしてくれるぞ!」「ほざくな!」銃口を向けるランプの横合いから、「WRAAAGH!」宇宙ストーンアックスを振り上げたバルーが襲いかかる!「また貴様かクソ猿!」 BLAMBLAM!

「WRAAAGH!」ランプの放つ光弾を、バルーはストーンアックスの石刃で弾き返した。「今だ、メロス=サン!」ナガレボシが叫ぶ。しかしランプはタイタンの背後に身を隠しざま、BLAM! その心臓を撃ち抜いた。「アバーッ!」「悪いな長官殿! イヤーッ!」メロスめがけて蹴り飛ばす!

「イヤーッ!」SLASH! 行く手を塞ぐタイタンの死体をメロスが両断した時、ランプの姿は既に馬上にあった。「アバヨ!」急加速!「奴を追え、メロス=サン!」「あとは僕達に任せて!」「WRAAAGH!」ナガレボシ、マボロシ、バルーの三人が、群衆に加勢すべく踵を返した。「……すまん!」メロスは愛馬の元へ!

「ハァーッ、ハァーッ……!」黒馬を走らせるランプの左右を、コロニー外縁部のゴーストタウン化した風景が高速で流れ去る。極限状態で狭窄した視野の遥か先端、道の真ん中に屈強な人影が立っていた。それが何者か認識した瞬間、ランプは反射的に手綱を引き、棹立ちの馬から飛び降りた。「メロス、貴様……!」

「お前なら必ずここを通ると思った」メロスが言った。「くだらん悪事で町を追われるたび、お前はこの道から荒野へ逃れて、ほとぼりが冷めるまで姿をくらませていたな」「ガバナスが来るまでの話さ。奴らに取り入ったおかげで、町の鼻つまみ者がシェリフにまでなれた」ランプの目が細まる。

「ようやく運が向いてきたってのに、貴様らがトチ狂ったせいでこのザマだ!」ランプはメロスに指を突きつけた。「どいつもこいつもクソ野郎だ! 貴様も! コロニーの連中も! 町長も! 貴様のガキ共も!」「……」ランプの激昂が収まるまで、メロスは沈黙して待った。

 そして……「もっと早くこうするべきだったのだ、俺達は」メロスはレーザー拳銃からエネルギーマガジンを抜き出し、目の前に放った。銃身側面の残弾カウンターを示す。セグメントLEDの数字は本体チャージ分の「1」。「そうか」ランプが呟いた。「ようやく俺と殺し合う気になったか、メロスよ」

 ランプもまた己の銃を抜き、弾倉を捨てた。カウンターが同じく「1」を示す。「弾は互いに1発。10歩離れ、振り向いて撃つ」メロスが口にしたのは、この銀河宇宙にあまねく伝わる由緒正しき決闘プロトコルだ。頷くランプ。二人はホルスターに銃を収め、背中合わせに立った。

 1歩。2歩。3歩。ランプとメロスは決闘者の歩調で歩き始めた。ゴーストタウンの廃屋の屋根には、いつの間にか真紅と白銀の宇宙ニンジャが膝をつき、決闘の行方を見守っていた。タチアイニンめいて。4歩。5歩。6歩。離れゆく二人のガンマンの間を風が吹き抜け、宇宙タンブルウィードが転がる。7歩。

 8歩目を踏み出すと同時に「……ッ!」ランプは身を翻しざま銃に手を伸ばした。その瞬間、「ランプ!」メロスの叫びに彼の全身が凍り付いた。広い背中の左脇から覗く銃口は、既にランプの心臓に狙いをつけている。だが、振り向くことなくメロスは言った。「俺は撃たん」

「このままお前を撃てば、俺は一生後悔するだろう……そんなのは二度とごめんだ」メロスの口調は静かで、穏やかですらあった。「お前はどうだ、ランプ。8歩目で俺を撃って、お前は後悔しないのか。それでお前の中でカタが付くのか」「オ、俺は」ランプは嗄れ声で答えかけ、唾を呑んだ。

 長い沈黙の後、「……俺も同じだ」ランプはゆっくりとホルスターから手を引っ込め、前を向いた。メロスは小さく頷き、銃を収めた。9歩……10歩。歩みを終えた二人は互いに振り返り、決闘の作法に従い、20歩の距離を隔てて対峙した。「フゥーッ……」目を閉じたランプが、深く、長く、息を吐いた。

 再び目を開いたランプの表情からは、憎悪、怨嗟、執着、妬心……長年積み重なったそれらの感情が全て洗い流され、眼前の相手に対する純粋な殺意のみがあった。「そうだ」メロスが言った。「それでいい」二人の宇宙ガンマンは両足を肩幅に開いて立ち、両腕を軽く垂らし、全身の力を抜いた。

 殺気に満ちる空気の中、第15太陽グローラーは耐えがたい遅さでじりじりと天球を這った。最後の瞬間に向けてメロスとランプのニューロンが研ぎ澄まされるにつれ、彼らの視界からは周囲の風景が溶け去り、互いの双眸だけが大写しになっていった。

 いつしか二人の脳裏には、かつての同じ日、同じ時の光景が蘇っていた。ソーマト・リコールにも似て。

 花嫁の細い腰を掴んで頭上に掲げ、若きメロスは満面の笑みでクルクルと回った。悪友の一団が振る舞い酒を手に囃し立てる。分別ある大人は遠巻きに苦笑しながら、性根の優しい暴れ者の前途に幸あれかしと祈った。子供達は婚礼の意味もよく解らぬまま駆け回り、無邪気な歓声を振り撒いていた。

 悪友達にもみくちゃにされながら、メロスは一瞬だけランプを見やった。

 ランプはひとり宴を離れて立ち、建物が作る日陰の中で目を光らせ、輝くような花嫁の笑顔を網膜に焼き付けていた。これから先、未来永劫消えぬであろう怒りの炎の燃料とするために。そしていつの日か必ず、この光景を形作る全てをぶち壊し、ジゴクの底へと撒き散らすために。

 BBLAMMNN……!

 ほとんど一つの銃声がゴーストタウンに響き渡った。静寂が戻った時、メロスは引き金を引いた姿勢のまま身じろぎもせず、ザンシンめいて立っていた。弾が掠めた左肩から血が流れ、指先から滴る。メロスは視線を逸らすことなく、低く、宿敵の名を呼んだ。「ランプよ」

 ランプは最後に口元を僅かに歪め、笑おうとした。銃を取り落とすと同時に、彼の身体はゆっくりと前のめりに倒れ、土煙をあげた。撃ち抜かれた心臓から血潮が溢れ出し、地面に染み込んでゆく。そのさまをメロスはしばし無言で見つめていた。

 ……やがて銃を収めたメロスは、旧友の愛馬の轡を引いて歩き出した。そのまま己の白馬に跨り、コロニーへの帰路に就く。「ゴウランガ」遠ざかる偉丈夫の背中を見送りながら、ナガレボシは屋根の上でひとりごちた。地上では乾いた風が砂塵を巻き上げ、早くもランプの亡骸を薄く覆い始めていた。

 それから十日余り。町は急速にかつての賑わいを取り戻しつつあった。「隣町からの積荷だぜェ!」幌馬車の御者が呼ばわる声に、道端の中年女性が笑い合う。「ようやく市場が開くわ」「よかったわねェー」サルーンの男達はジョッキを掲げ、「「「イヤッハー!」」」もはや何度目かわからぬ祝杯をあげた。

 町外れの墓場では、子供達が新たな墓標群に手を合わせていた。「父ちゃん……」涙声で俯く宇宙テンガロンハットの少年。「アリガトゴザイマシタ!」「アリガトゴザイマシタ!」周囲の友達は彼を鼓舞するように声を張り上げ、墓標にオジギした。そのひとつは宇宙貨物船の外殻パネル製だった。

 メロスの工房には群衆が詰めかけ、宇宙旋盤に屈み込んだ彼の手元を凝視していた。既に工房は人々の手で隅々まで掃き清められ、念入りに磨き込まれた工作機械も新品同様だ。左肩に包帯を巻いたメロスは太い指を驚くべき繊細さで動かし、複雑極まりない形状のネジを削り出してゆく。

「フゥーッ……」メロスは額の汗を拭い、完成したネジをハヤトに手渡した。「試してみろ。うまくいったら何本かスペアを作る」「わかった」ハヤトは特殊精密ドライバーを握り、卓上に置かれた宇宙ジャイロにネジを組み込む作業に取り掛かった。「……」無言でその様子を見つめるジャック。

 作業を終え、ハヤトが顔を上げた。「ヨロシク、トント=サン」『ガッテン』リアベ号からジャイロを持参した万能ドロイド・トントは、既に自身を装置に直結していた。テストプログラム起動。ルルルルル……サイコロめいたメインフレームの中で四次元ホイールが回転を始める。一同は固唾を呑んで見守った。

 ルルルル。ルル。ルルルル……ピボッ。ホイールを停止させたトントは、球形の頭部を180度回転させた。サイバーサングラスめいた顔面LEDプレートに流れる文字列は……「SYSTEMALLGREEN」!『ナオッタ、ゾ』その場の全員が鬨の声をあげた。「「「「「ヤッターーー!」」」」」

「WRAAAAGH!」バルーは巨体をピョンピョンと飛び跳ねさせながら、周囲の誰彼構わず抱擁を交わした。「俺達の恩人だよ、アンタは」「お互い様だ」リュウとメロスが拳を合わせる。人々の間に次々と回されるグラスには、清らかさを取り戻した川の水が満たされていた。

 グラスを掲げて一同が叫んだ。「「「「「カンパーーーイ!」」」」」笑顔と喧騒の中、ハヤトのシャツの裾を何者かが引いた。振り向くと、ジャックが厳粛な表情で右手を差し出していた。「西部の勇者よ、和解の握手を」「……ヨロコンデ」ハヤトは微笑み、少年の手を強く握り返した。


【フォー・ア・フュー・スクリューズ・モア】終わり

マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第19話「起て! 荒野の勇者」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

ロケ地:本エピソードのエンドクレジットには「協力 奈良ドリームランド」の表記がある。ジェネリックディズニーランドめいた和製テーマパーク(今では廃墟として有名になってしまったが)の、西部開拓時代を模したエリアで撮影が行われたらしい。戦隊やライダーが映画村にタイムスリップするみたいに、おもしろロケ地ありきで毛色の違う話が突然POPした形だが、そういうの嫌いじゃないです。

楽曲の流用:特撮TVショウが別番組の劇伴を流用する行為は、1970年代においてはままある事だった。本エピソードでは「仮面ライダー」の挿入歌「悪魔のショッカー」インストバージョンがメロスの登場シーンに使用されている。なかなか大胆な選曲だが、エレキギターの歪んだ音色がマカロニ・ウエスタン・アトモスフィアと噛み合った結果、そこはかとなくモリコーネみを醸し出しており大変良い。

最後の決闘:めちゃくちゃクラシックな決闘スタイルは、映画版「宇宙からのメッセージ」でゼネラル・ガルダが戦った時のもの。ガバナス皇帝が提案してくるぐらいだから、この銀河宇宙ではメジャーなルールなのだろう。(メタ的な話をすると「大いなる西部(1958)」が元ネタなんじゃないかと思います。決闘の顛末も似てるし)
 なお、オリジナルのランプとタイタンはメロス達にまとめて斬り捨てられて速攻でカタが付いてしまい、最後に一対一で決闘するシーン自体が存在しません。まるごと捏造です。やりたかったので悔いはない!


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