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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【プリンセス・クエスト・アット・ザ・ミスティック・ニンジャ・タワー】

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◆#3◆

 時はウシミツ・アワー。チロチロと燃える焚き火の周囲で、リュウ、ハヤト、バルー、グモの四人は思い思いの姿勢で横たわっていた。夕食を終えたリュウはハヤトと何事か話したのち、出立時刻を仮眠後の夜明け前と宣言したのだ。意外にもグモが異を唱えることはなかった。

 リュウとハヤトが寝返りを打ち、宇宙寝袋に潜り込む。「WRAAAGH!」突如バルーが身を起こし、「何が勇者だクソ野郎め!……ウーン」バタリと倒れて高鼾を再開した。ひとりグモだけが仰臥したままギョロリと目を見開き、周囲の様子を伺っていた。やがて音もなく寝床を抜け出し、歩き出す。

 十分に距離を置き、グモはノロシ発炎筒の眩い炎をグルグルと回した。合図に応えて岩山の中腹に姿を現すニンジャトルーパーの一団。「猿は生かしておけ」「「「ハッ」」」ミツカゲビトの命令でトルーパー達は斜面を駆け降り、「「「イヤーッ!」」」二つの寝袋にソードを突き立てた! ナムアミダブツ!

「起きろデーラ人!」「アイエッ!?」脇腹を蹴られたバルーが跳ね起き、寝ぼけ眼で周囲を見回した。「GRRR……まだ真っ暗じゃねえか。もう少し寝かせろよ」「よく見ろバカめ」半月刀めいたカタナの刀身で、グモはバルーの頬をピタピタと叩いた。「オヌシの仲間は既に殺されておるぞ!」「何ッ?」

 だが次の瞬間「宰相! これはどういう事だ!」ミツカゲビトがもぬけの殻の宇宙寝袋を蹴飛ばした。グモの笑いが強張る。「し、知らん! ワシはただオヌシらの指示通りに」「何だとテメェ!」バルーはグモの胸倉を掴んだ。「俺達をガバナスに売ったのか!」「アイエエエ!」

 ZZOOOOMM!「「「「「グワーッ!」」」」」突如熱風が吹き荒れ、地上の全員を薙ぎ倒した。垂直上昇するリアベ号のイオン・エンジン噴射だ。ゴンゴンゴンゴン……航法UNIXを直結操作しつつ、トントがコックピットでひとり頭部を回転させる。『イマニ、ミテイロ。オドロク、ゾ』

「オノレ宇宙ニンジャ共!」周囲へのアピールめいてグモが叫んだ。「よもや仲間を見捨てて逃亡するとは! 勇者たるワシが予想できぬのも無理はない!」「GRRRR……敵に魂を売ったクソ野郎が何を抜かす!」「黙れデーラ人!」バルーの鼻先に指を突きつける。「オヌシを生かすも殺すも、いまやワシの胸ひとつぞ!」

「もういい! 捕虜をニンジャタワーに連行せよ」歩き出すミツカゲビトにグモが追いすがった。幇間めいたその姿を、側面の顔がじろりと睨む。「貴殿のおかげで手間が増えたぞ」「相済まぬ、ミツカゲビト=サン。ところでニンジャタワーとは何じゃ」「我らアーミーの拠点だ。そこであの猿めを尋問する」

「して、ヒミメ王女は」「タワー上層に幽閉してある。逃げ出す事も、他の者が近づく事もできぬわ」「それで安心致した」「手前勝手なことだ」ミツカゲビトは吐き捨て、肩越しに叫んだ。「急げよ貴様ら!」「「「ハイヨロコンデー!」」」背後のトルーパーが数人がかりでバルーの巨体を担ぎ上げた。

 一行が闇の中に消え、周囲に静寂が戻り、程なくして……「プハーッ!」地中から姿を見せたのは、ドトン・ジツで身を隠していたリュウであった。上半身だけ露出させてじたばたともがくハヤトの片手を掴み、「よッと」地上に引きずり出す。「アリガト、リュウ=サン。ゲホッ……」「シャキッとしろシャキッと」

 リュウはバルーが連れ去られた方向へ片手拝みした。「すまねェ相棒。ASAPで何とかすッからよ」「グモ=サンが裏切り者だったのか」呟くハヤト。「言った通りだろ? ま、これでようやく俺もオヒメサマのお姿を拝めるってワケだ」ジュー・ウェアの土埃を払い、リュウが立ち上がった。「奴らを追うぜ」「ハイ!」

 全高百メートル近いその塔はゴースト山脈からやや遠く、岩山に紛れるように聳え立っていた。宇宙サーベルタイガーの犬歯めいた四本の構造物を左右に広げる外観は、さながら複腕を広げる不条理抽象生命体の如し。その上層階、仄暗い拷問フロアの中央では、今まさに凄惨なインタビューが進行中であった。

 ZZZZT!「アバーッ!」「どうだ苦しかろうデーラ人!」「アバババーッ!」「吐け! 宇宙船で逃げた貴様の仲間はどこへ向かった!」「アバッ……知るか! 知ってたとしても白状するバルー様かよ!」「どこまで辛抱できるかのう。もっと責めよミツカゲビト=サン!」「貴殿は口を挟むな!」ZZZZZT!

「アババババーッ!」鉄製ベッドに拘束されたバルーの頭部をヤットコマニピュレーターが締め付け、眉間で電極がスパークする。ZZZZZZT!「アバババババーッ!」拷問マシンがニューロンに苦痛パルスを流し込むたびに7フィート超の長身が痙攣し、口角から泡を撒き散らす。周囲のトルーパーは彫像めいて直立不動。

「まだ吐かないの?」女宇宙ニンジャの目は汚物を見るかのようだ。「見ての通りだ、クノーイ=サンとやら。大分しぶとい奴でな」顎髭を撫でるグモ。「デーラ人のニューロンはよほど頑強と見える」ミツカゲビトは呟きながら、天井から吊り下がる拷問マシンのダイヤルを調整した。ZZZZZZZT!

「アバッ! アバババッ! アバババババ―ッ!」「見るに堪えないわね」クノーイは苦々しげに踵を返した。「終わるか死ぬかしたら呼んでちょうだい、ミツカゲビト=サン」階段を登り、独房フロアの鉄扉を開ける。石造りの室内には、粗末な腰掛けに座るヒミメ王女。

 囚われてなお凛としたその佇まいが、クノーイのニューロンを逆撫でした。「もう誰も助けには来ないようね、王女様」「必ず来ます。私がどこにいようとも」いたぶるような女宇宙ニンジャの視線を、ヒミメ王女は臆せず受け止めた。「王族の振る舞いには相応しくないですが……賭けてもいいですよ?」

「フン。ケチな地底国家の王位継承権しか取り柄のない小娘ひとり、誰が助けに来るものですか」「他人を信じられない貴女は、不幸な人ですね」「お黙り」クノーイの表情が険しさを増した。「宇宙では誰かをあてにした奴から死んでいくのよ。自分自身を最優先するのがサヴァイヴの鉄則」

「それでも私は待ちます」ヒミメ王女は静かな眼差しを返した。「私は今も幸せです。命を懸けて信じられるひとがいるんですもの」「……チッ」目を逸らすクノーイに「アババババーッ!」階下からの絶叫が追い討ちをかけた。「ええい耳障りな!」

 ZZZZZZT!「アババババーッ!」バルーが白目を剥き、打ち上げられた宇宙マグロめいてのたうつ。「いつまで粘る気だデーラ人! このままではオヌシの命、あと一分と保たぬぞ!」拘束ベッドに屈み込んでグモが叫んだ。「己を見捨てた仲間に義理立てして何になる! 早く吐けーッ!」「アバババババーッ!」

 その時。KBAM! 突如拷問マシンが小爆発を起こした。「グワーッ!」尻餅をつくグモ。ミツカゲビトは反射的に手を伸ばし、マシンに撃ち込まれた金属片を掴み取った……ヤジリ状の宇宙スリケンを!「これは!」振り向いた瞬間、眼前に真紅装束の宇宙ニンジャが降り立つ!

「イヤーッ!」「グワーッ!」真紅の宇宙ニンジャは回し蹴りでミツカゲビトを吹き飛ばし、ジュッテめいた伸縮刀で拘束鎖を切り払った。「銀河の果てからやってきた正義の味方。ドーモ、ナガレボシです」ヒロイックなアイサツを繰り出す背後で、バルーがベッドから飛び降りた。

「GRRRR……てめえまた俺をダシにしやがって」「元気そうじゃねェか。あと一分遅くても良かったな」「この野郎」バルーは毛むくじゃらの手でナガレボシの背中をどやした。「ドーモ。ミツカゲビトです」三面宇宙ニンジャがアイサツした。「どうやってこの場所を突き止めたかは知らんが、生きては帰さんぞ!」

 ブガーブガーブガー! 警報が鳴り響く。拷問フロアに殺到したトルーパーの一団が、たちまちナガレボシとバルーを取り囲んだ。階段の途中でその様子を伺うクノーイ。「……厄介な奴が現れたわね」取って返し、独房のヒミメ王女にツカツカと歩み寄る。「何をする気です」王女は訝しんだ。

「イーガー副長のご命令。万一の時は王女を始末しろとね」「……!」息を呑む王女の喉元にクナイ・ダガーが光る。「安心おし。苦しめずに一瞬で殺してあげる。醜い死に様を見るのは好きじゃないの」女宇宙ニンジャは赤い唇を歪めて笑った。「サヨナラ、オヒメサマ」

 クノーイが王女の喉を掻き切ろうとした瞬間、「イヤーッ!」「ンアーッ!」どこからか飛来したヤジリ状の宇宙スリケンが手首に突き立った。チュイイイン! 窓の鉄格子が火花を上げて切断された。室内に飛び込む人影!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」回転跳躍で斬りかかるクノーイのクナイ・ダガーを、ジュッテめいた伸縮刀が弾き返した。着地した青年が纏うは白銀の装束、目元を隠すゴーグル、クーフィーヤめいた頭巾。謎めいた宇宙ニンジャは王女を庇うように立ち、ヒロイックなアイサツを繰り出した。

「変幻自在に悪を討つ、平和の使者。ドーモ、マボロシです!」

「マボロシ=サン……?」ヒミメ王女は戸惑った。初めて聞く宇宙ニンジャネーム。しかしその声音、横顔、目の前の背中が、デジャヴめいて胸をざわめかせた。「ドーモ、クノーイです。ニュービー風情がナイト気取り? 笑わないで」「黙れ!」対峙する二人の宇宙ニンジャの間に、アトモスフィアが張り詰める。

「敵襲だ、クノーイ=サン!」ドタドタと足音高く、宰相グモが独房に乱入した。「奴らに奪われる前に王女を始末せねば……アイエッ⁉」室内を満たす殺気にぎくりと立ち止まる。「グモ! なぜお前がここに」王女が目を見開いた。「それに今の言葉は何です。私をどうすると?」

「あいや、ワシは、その」「……そうでしたか」ヒミメ王女は察した。「お前がガバナスと通じ、王国に宇宙ニンジャを引き入れたのですね」「それは誤解でございます! 彼奴らが勝手にワシの元へ押しかけて」「この期に及んで申し開きなど無用です! この不忠者!」王女が柳眉を逆立てた。「アイエエエ!」

 王族の威厳ある叱声に打たれ、グモはほとんど四つん這いで階段を駆け降りた。その前に立ちはだかるバルー!「GRRRR……裏切りのオトシマエをつけさせてもらうぜ、グモ=サン!」いかつい拳が鷲鼻の先に突きつけられる。「俺は最初からその悪人ヅラが気に食わなかったんだ!」「アイエエエエ!」

 踵を返しかけたグモが凍り付く。頭上の踊り場では、二人の宇宙ニンジャが一触即発のアトモスフィアを放っていた。踏み込めば死あるのみ。下方からは宇宙猿人がじりじりと迫る。「GRRRR……」「ヤ……ヤメロ」「GRRAAAGH!」「ヤメロ―ッ! アアアアーッ!」グモは絶叫し、腰の宝剣をヤバレカバレに振り回した。

「AAAAGH!」切っ先がバルーの腕を浅く斬り、7フィート超の身体がよろめいた隙に、「アアアアアーッ!」グモは叫びながらその脇を駆け降りた。「WRAAAAGH! 待ちやがれ!」宰相を追うバルーが場を離れた瞬間、ゾーン・オブ・コントロールが消失! マボロシとクノーイのカラテ均衡が乱れる!

「「イヤーッ!」」二人は同時に動いた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」チュイン! チュイン! 斬り結ぶたびに伸縮刀の超振動が火花を上げ、クノーイのダガーを削り取ってゆく。「コシャクな!」女宇宙ニンジャは歯噛みした。今のマボロシが振るうカラテは明らかに実力以上だ。

「マボロシ=サン!」ヒミメ王女が叫んだ。「下がって! キミには指一本触れさせない! イヤーッ!」マボロシはその場から一歩も退かず、クノーイの斬撃を捌き続けた。「イヤーッ! イヤーッ!」チュイイイン! 火花がひときわ激しく散り、超振動がクノーイの腕をビリビリと痺れさせる。「チッ……!」

「ナイトごっこに付き合ってる暇はないのよ! イヤーッ!」「待て!」階下へ飛び降りたクノーイをマボロシが追った。「……」ひとり残されたヒミメ王女は脚を震わせ、よろめく身体を石壁で支えた。激しく胸を打つ鼓動は、宇宙ニンジャの凄まじきイクサを間近にしたが故であろうか。あるいは……

【#4へ続く】


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