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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【プリンセス・クエスト・アット・ザ・ミスティック・ニンジャ・タワー】

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◆#2◆

「何? ガバナス帝国の使者が余に目通りを」「ハッ。ニンジャアーミーの副長なる者が謁見を求めております」

 モンゴー王国謁見の間、跪くグモの前でカン王が思案する。「いずれ正式な使者が来ると思うてはおったが……そも、彼奴らは如何にして王国の所在を」「ケン殿下のお遊びが過ぎたようでございますな」グモは嫌味たらしく言った。「ああも度々地上へ出られては、その隙を突いて宇宙ニンジャが潜入するのも無理からぬ事」

「何か知っておるような口ぶりだな」カン王は眉を顰めた。「ならば申せ。王子の落ち度であっても遠慮は無用じゃ」「あいや、お気になさらず!」政治的生存本能の命ずるまま、グモは即座にドゲザした。「単なる状況判断にございます。宇宙ニンジャの動向など、このグモめが知ろう筈もございませぬ!」

 二人のやり取りを聞きながら、広間の片隅でハヤトが囁く。(イーガー=サンが来るってさ。捕まえよう、リュウ=サン)(やめとけ。ンな事したって王女は戻らねェ)(人質交換ができるぜ……痛ッ)(甘いな)リュウに頭を張られ、ハヤトは口を尖らせた。

(ニンジャアーミーはイーガー=サンを見殺しにしてオシマイさ。コーガー団長ってのはそういう奴よ。クソ野郎だが、ボンクラの弟とは格が違うぜ……オット)リュウはハヤトを促して柱の陰に隠れた。イーガー副長が護衛トルーパーを従えて現れ、謁見の間に足を踏み入れる。

「ドーモ。ガバナス帝国皇帝ロクセイア13世の使者、ニン・イーガーです」尊大なアイサツに、リュウが物陰で嘔吐の仕草をした。(カーッ! 見ろよあのツラ。タイガーの皮を被るジャッカルってのはこの事だぜ)「ドーモ。モンゴー王国のカン王です」老王は威厳をもって使者を迎えた。「話を聞こう」

「ヒミメ王女は我々の手中にあり。貴国が無条件降伏してガバナスの属領となるならば、彼女の生命は保証する」イーガーは胸をそびやかした。「降伏の証として、王国に伝わる宇宙エメラルドの星を献上してもらおう」カン王が口を開くより早く、たまりかねたケン王子が飛び出した。「卑怯者! 姉上を返せ!」

「殿下の仰る通りだ! 汚いやり口を恥じよ!」追従めいて叫ぶグモを、ニンジャアーミー副長の視線が射抜いた。「ヒッ」腰を抜かしかける鷲鼻の男にイーガーは鼻を鳴らした。(ミツカゲビトの報告にあった内通者か。こいつの肝がもう少し据わっていれば、王女もろともエメラルドを奪取できたものを)

「返答の期限は二日後の夕刻。第15太陽グローラーがゴースト山脈に沈む時」「よかろう」カン王は頷いた。「人の命は何より大事。良き御返事を待ちますぞ」踵を返すイーガーに、「「「オノレ!」」」衛兵たちは殺気を露わにした。護衛トルーパーがソードに手をかけ、アトモスフィアが張り詰める。

「堪えよ! 王女の命が懸っておるのだぞ!」忠義顔で制するグモの心中をソンタクし、「ハッ…」「ハハーッ……」衛兵はそれぞれに跪いて落涙した。柱の陰から姿を現したリュウが、イーガーの背中に中指を立てた。「人の命は何より大事ねェ……どの口が言いやがンだか」「許せないよ」ハヤトが拳を握る。

「で、宇宙エメラルドの星ってのは何だい」リュウはカン王に尋ねた。「歴代の王女が受け継いできた国宝、神秘の力を秘めたオーブじゃ。いずれ来たりし災厄よりベルダの全人民を救うと言い伝えられておる」「アノ、もしやこれが」ハヤトは懐から首飾りを取り出した。「王女が拉致された現場に落ちてたんです」

「おお」カン王が瞠目した。「それはまさしく、ヒミメが肌身離さず身に着けていた品」「あの皇帝が宝石なんぞをご所望とはねェ」卵大のオーブを覗き込み、リュウは首を傾げた。かつて彼が謁見したロクセイア13世は実体も定かならぬ宇宙的恐怖存在であり、世俗の宝に興味を示すようには見えなかったが……。

「王女は僕達が助け出します。必ず!」エメラルドの星を老王に手渡し、ハヤトは決断的に宣言した。「一緒に行ってくれるよね、リュウ=サン!」「あッたり前だ。お前だけにナイトを気取らせてたまるかよ」「ナイト?」ニヤニヤと脇腹を小突くリュウ。ハヤトは訝しんだ。「僕も行く!」ケン王子が意気込む。

「否! 同行するのはこのグモにございます」宰相が胸を張った。「引退の身とはいえ、ワシはモンゴー王国戦闘士随一の勇者でありますぞ!」「ウム。頼んだぞ」頷くカン王の表情には隠し切れぬ憂色があった。「あと二日……それまでに王女を救い出さねば」「ハハーッ!」グモはことさら大仰にドゲザした。

「秘密の探索行ゆえ手勢は無用! こ奴ら地上人どもを率いて、必ずや! 王女を連れ帰って御覧に入れましょうぞーッ!」ますます芝居がかるグモの口上に、二人の宇宙ニンジャはうんざりと顔を見合わせた。(オイ、何なんだこのオッサン)(最初からずっとこうさ)(……フーン)リュウは目を細めた。

「相棒ーッ!」『ハヤト、リュウ、ドコダ』「WRAAAAGH! 生きてたら返事してくれーッ!」

 ゴースト山脈の麓、リュウが落下したとおぼしき地点を、バルーはあてどもなく彷徨っていた。キュラキュラキュラ……万能ドロイド・トントが車輪走行で付き従う。『フタリトモ、イナク、ナッタ。ドウシヨウ』サイバーサングラスめいた顔面LEDプレートに「TT」のアスキー文字が灯った。

「もっと本気で探せ、このクズ鉄!」『イッショニ、イナガラ、タスケラレ、ナカッタ。クズハ、オマエダ( \ / )』「やかましい!」バルーは宇宙ストーンアックスを逆ギレめいて振りかざした。「この場でスクラップにされたいか!」『ウワーッ! ホントニ、オコッタ』「WRAAAGH!」

 その時。「オーイ相棒!」「タダイマ!」霧の向こう、岩山から駆け降りる二つの人影あり。「リュウ! ハヤト=サン! 無事だったか!」バルーが叫んだ。「この通り、ユーレイじゃねェよ」リュウは逞しい腕で、自らの脚をバルーに叩いてみせた。『バンザイ、バンザイ』トントがマニピュレータを天に突き上げる。

「だが喜ぶのは早ェぞ」リュウが言った。「ゴースト山脈の向こうで、俺達ゃオヒメサマ救出クエストを授かって来たんだ。責任重大だぜ」「この人がクエストの仲間さ」ハヤトは振り向き、背後の大岩に腰掛ける鷲鼻の男を指差した。「ドーモ。モンゴー地底王国宰相にして最強の勇者、グモじゃ」

「ほほう」バルーは宰相の顔をまじまじと見た。「人相は悪いが、まァ勇者なら歓迎するわさ」握手を求める毛むくじゃらの手を、「馴れ馴れしいぞ、デーラ人!」グモはしかめ面で払いのけた。「オヌシらは王女救出部隊としてワシの指揮下に入るのだ!」「何だと? GRRRR!」

「グズグズしている暇はない、行くぞ!」牙を剥くバルーを意に介さず、グモはふんぞり返って歩き出した。「これよりワシの命令には絶対服従! ハゲミナサイヨ!」「……オイ相棒。何なんだアイツは」バルーがリュウに囁く。「ありゃどう見ても真の男じゃねえ。ただの威張りくさった腰抜けだ」

「人間色々さ。大人しく従っとこうや。今はな」リュウは目くばせしてバルーの肩を叩き、「オーイ、オッサン!」グモに駆け寄った。「一旦俺達の船に寄ってこうや!」「ワシに命令するでない!」「意見具申だよ宰相殿。なンせ重大任務だ、準備は大事だぜ」「フム、一理あるが」「だろ?……」

 二人に続いて去ってゆくバルー、ハヤト、車輪走行のトント。周囲に静寂が戻り……程なくして岩陰から姿を見せたのは、青と白で左右分割された異相の男であった。ガバナスニンジャオフィサー・ミツカゲビトだ。「見たか。ホシカゲビト、ツキカゲビト」「「ウム」」頭部の左右に貼り付いた二つの顔が目を開く。

「リュウ=サンは連中のリーダー格」「生きていたとなれば少々面倒だぞ」「案ずるな」中央の顔、ヒカゲビトはニヤリと笑った。「あの宰相が我等と通じている以上、彼奴らのクエストは必ず失敗する。二日後、カン王はなす術もなくエメラルドの星を差し出し、新王グモ率いる傀儡政権が誕生する筋書きよ」

「何だこの船は!」陽光を鈍く反射する無骨な船体に、グモは目を剥いた。「俺達の守り神さ」リュウが笑って胸を張る。ベイン・オブ・ガバナスの異名で帝国に恐れられる戦闘宇宙船リアベ号は、二機の小型宇宙戦闘機と自在に分離合体可能であり……「アッ!」ハヤトが素っ頓狂な叫びをあげて船体を指さした。

「見て! ゴースト山脈の向こうに不時着してそのまま置いて来た筈の僕の戦闘機が!」何事もなかったかの如く係留アームに接続されたハヤト機に、リュウは目を眇めた。「ナルホド。こいつァ不思議だ」機体の周囲に黄金色のパーティクルが漂っている。「こんな芸当ができるのは、銀河宇宙広しといえども……」

「ビンゴだぜ相棒。ソフィア=サンだ」バルーが手をひさしにして、青空の向こうに去り行く白銀の宇宙帆船を見やった。超常の力でリアベ号の一行にしばしば救いの手を差し伸べる宇宙美女・ソフィアの乗船である。「アリガトゴザイマス」ハヤトは小さくなる船影にオジギした。

「説明せよ! ワシには何が何やら」「ンなこたァ後だ後」わめき立てるグモに、リュウはひらひらと手を振った。「それより腹が減っちまったぜ」「バルーも同感だわい。どれ、メシの支度をするか」二人が頷き合う。「バカな! 王女を放っておくのか! 時間がないのだぞ!」

「GRRR……まあ落ち着け。空きっ腹でイクサすれば必ず負けるというぞ」「地上のコトワザだ。覚えときなオッサン」青筋立てる宰相に取り合わず、バルーとリュウはてんでに歩み去った。「ヌゥーッ!」グモは地団太を踏み、二人の背中を睨みつけた。「あとで吠え面かくがいいわ!」

『シュッパツ、ジュンビ、デキテル、ゾ』「おう、ご苦労さん」リアベ号のコックピットに入ったリュウは、ドロイドの頭部を軽く叩いた。「またちょいと留守にするからな。船を頼むぜ」「エッ?」計器をチェックする手を止め、ハヤトが訝しむ。「リアベ号で惑星アナリスの皇帝宮殿に行くんじゃないの?」

「お前でも思いつくような場所に大事な人質を置くモンかよ。そもそもベルダの外じゃ交渉に都合が悪ィだろうが」「じゃあ、奴らの母艦はどう?」「一旦は連れてって皇帝に目通りさせるかもだがな」リュウは悪戯っぽく笑い、自身を親指で示した。「ナガレボシ=サンの侵入を許したザル船だぜ?」

「だったら一体、ヒミメ王女はどこにいるのさ」「ア? 知らねェ」「そんな!」食ってかかるハヤトに、リュウは意味ありげな笑いを返した。「そうカッカしなさンな。あのオッサンと一緒にいりゃ、そのうちどうにかなるだろうよ」「ナンデ?」「なんでもだ」

「いいから晩メシにしようぜ」タラップを降りるリュウ。「こちとら山登りでハラペコなんだよ。地底王国で美味いモン食ってたお前と違ってな」「ちょっと、リュウ=サン!」広い背中にハヤトは空しく呼びかけ……「チェッ」膨れっ面で計器チェックを再開した。ピボッ。トントが無言で頭部を回転させた。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 鎖付きトゲ鉄球の振り子運動。ニードルブレードを突き出して回転する木人。火渡り修行めいて床から吹き出す炎。タタミ百畳近いフロアにひしめく致命的ギミックをギリギリのムーブで躱しつつ、「「「イヤーッ!」」」ニンジャトルーパー達は一斉にクナイ・ダートを投擲した。カカカカカ。人型ターゲットボードに次々と突き立つ。

「まあ!」トルーパーの修行風景に、ヒミメ王女は目を丸くした。ここはガバナス帝国の軍事施設、ニンジャタワーのドージョー・フロアである。「あの者たちは何をしているのですか、クノーイ=サン?」王族としての政治的アティチュードから解放された彼女は、年相応の無邪気な振る舞いを取り戻していた。

「カラテを鍛えているのよ。次のイクサに備えてね」女宇宙ニンジャがそっけなく答える。「面白いものですね」宇宙ニンジャならぬ彼女の目に映るトルーパーの動きは、コマ落としめいてコミカルですらあった。「面白い? 王侯貴族の見世物と一緒にしないで」クノーイは足音高く階段を登った。「おいで、早く!」

 階上へ去る二人と入れ替わりにミツカゲビトが現れた。「者共! 今宵は貴様らに一働きしてもらうぞ!」「「「ハイ!」」」号令一下、フロアの全トルーパーがコマ落とし整列!「反逆者一味をイチモ・ダジンにして、ガバナスの歴史に残るキンボシをあげるのだ!」「「「ヨロコンデー!」」」

【#3へ続く】


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