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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【レスト・イン・スペース】

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【#2】←


「両親? 俺は生まれつきの孤児だよ。親の顔も知らんのさ」 リュウは宇宙ライ麦パンを咀嚼しながら言った。「すまん。つまらぬ事を聞いた」ダンが頭を下げた。「気にすンな。慣れてる」

「ま、強いて言えば、俺にインストラクションをくれたセンセイがオヤジみてェなモンかな。ガバナスに殺られちまったがね」
 そう語るリュウの表情に、ダンは複雑な感情の影を見て取った。「ハヤト=サンには内緒だぜ」リュウが冗談めかして唇に指を当てると、ダンは厳粛な面持ちで頷いた。

「アノ……もしや、その亡くなられたセンセイとは、ハヤト=サンの」

 カミジがリュウに問いかけた瞬間、KRAAAAASH! 礼拝堂の窓ガラスが砕け散った。「イヤーッ!」リュウは咄嗟に宇宙ニンジャ伸縮刀を振るい、投げ込まれたクナイ・ダートを弾き飛ばした。

「警戒態勢!」「配置につけーッ!」レジスタンス戦士が武器を取って立ち上がった時、「イヤーッ!」リュウは既に割れた窓から飛び出していた。新たに飛来したクナイ・ダートを叩き落とし、さらに跳躍!

「イヤーッ!」リュウは女ニンジャの頭上をキリモミ回転で飛び越えた。着地と同時に跪き、「ドーモ、リュウです」求愛ポーズめいたアイサツを決める。「これはこれは。お美しいクノーイ=サンじゃねェか」

 クノーイはクナイ・ダートを収めてオジギした。「ドーモ、クノーイです。お前に美しいなどと言われると背中がむず痒くなるわ」「本気にすンなよ。上辺は良くてもハートが薄汚いぜ。俺の趣味じゃねェな」

「勝手をお言いでないよ」リュウの挑発にもクノーイは動じない。「軽口を叩く暇があるなら、お仲間を助けに行ったらどう? そろそろニンジャトルーパー小隊の総攻撃が始まる頃よ」

「どういう意味だテメェ」リュウの顔色が変わったのを見て、クノーイは満足げに笑った。「その目で確かめる事ね」足元にケムリダマを投げつける。KBAM!「オタッシャデー!」

 クノーイの姿は煙と共に消え失せた。
「バルー、トント、応答しろ!」リュウは腕時計型IRC通信機に呼びかけたが、ザリザリザリ……ノイズしか聞こえない。ジャミングだ。

「スペースブッダファック!」リュウはリアベ号の着陸地点へ駆け出した。
(((やりおったわ。あの女の言葉が真偽どうあれ、もはやハヤトの安否を確かめぬわけにはいかぬぞ)))(だから薄汚ェってンだよ、クソッ!)ニューロン内のゲン・シンに、リュウは声なく毒づいた。

 腑に落ちぬ顔のレジスタンス戦士達が、どやどやと礼拝堂に帰還した。結局、彼らの前には一人のニンジャトルーパーも現れなかったのだ。

「ハナ? ハナはどうした」ダンが周囲を見回した。
「食器を洗いに行ったのだろう。あの子は綺麗好きだからな」カミジの答えにダンは眉根を寄せた。「それも時と場合だ。探してくる」「何人か連れて行くといい」「いや、妹のために組織の戦力は割けん」

 ひとり礼拝堂を後にしたダンは、近くを流れるサンスイめいた小川へ向かった。探す事しばし……果たして、清らかなせせらぎの傍らに、身を屈めて食器を洗う少女の姿があった。

「ハナ! ダメじゃないか。こんな時に一人で出歩いては」

 ほっと胸を撫で下ろして歩み寄るダン。だがその時!
 KRAAAAASH! 突如飛び来たった岩塊が清流の只中に落下した。陶器の欠片と川底の小石が、水飛沫もろとも無惨に砕け散る。

「アイエエエ!」恐怖に立ちすくむハナの眼前で、岩塊はバキバキと人型に変形した。「ドーモ、ダン=サン! ガバナスニンジャオフィサー・イワビトです!」岩石の腕がハナの細い首に巻きつく!「アイエエエエ!」

「オノレ!」ダンは反射的に宇宙サーベルを構えた。「動くな! 少しでも動けば、このガキを泥人形めいて叩き潰してくれるぞ!」イワビトの腕に力がこもる。「アイエエエエ苦しい!」

「待て! その子には何の罪もない。目的は何だ!」「貴様の命よ。俺の任務はレジスタンスの殲滅。貴様が生きていては都合が悪い」
「よかろう」ダンは一瞬たりとも躊躇しなかった。「その子の未来を思えば、私の命など惜しくはない」

 岩石質の頭部からわずかに覗くイワビトの目が、嘲笑めいて細まった。「まずサーベルを捨てろ」「その子を開放するのが先だ」「ならば同時だ! イヤーッ!」イワビトはハナを突き飛ばした。サーベルを投げ捨てたダンが、抱き留めたハナを背後に庇った。

 宇宙サーベルは地面に突き立ち、ダンとイワビトはそれを挟むように対峙した。
 ダンはまだ闘志を失ってはいない。じりじりとサーベルににじり寄り……「イヤーッ!」ビーチフラッグめいて飛びつき、手を伸ばす!

 だが、どこからか飛来したフックロープの方が一瞬速かった。「イヤーッ!」絡め取られたサーベルはカラテシャウトとともに宙を舞い、横合いから現れたニンジャトルーパーの手に収まった。

「ヌゥーッ……!」ウケミから立ち上がったダンの周囲に、次々と姿を現すニンジャトルーパー。その数およそ一個分隊。
 モハヤコレマデ。「ハナ……逃げなさい、私に構わず」ダンは静かな声で背後に呼びかけた。あとは一秒でも長く、彼女が逃げおおせる時間を稼ぐまでだ。

「ウフフフフ……アッハハハハ!」

 しかし、返ってきたのは毒婦めいた哄笑!
「何ッ!?」ナムサン! 振り向いたダンの背後にハナの姿はなく、代わりにパープルラメニンジャ装束の女宇宙ニンジャが立っているではないか!

「ドーモ、クノーイです」「ドーモ、ダンです。ハナをどこへやった!」「フン。そんな奴、最初からいやしないよ」クノーイは侮蔑的に鼻を鳴らした。「誰の顔も、姿さえも借り受ける。それが私のフェイス・オフ・ジツさ!」

「謀ったな! イヤーッ!」カラテを構えて肉迫するダンを、クノーイはやすやすと躱した。「手を汚すのは嫌いでね。トルーパーどもに相手してもらうがいいさ!」入れ替わりに斬り掛かるニンジャトルーパーの群れ!「「「「「イヤーッ!」」」」」

「……イイイイヤアアアーッ!」

 逃れ得ぬ死の運命に抗うがごとく、ダンは血を吐くようなカラテシャウトを発した。
 ソードを紙一重で避け、トルーパーの手首を掴み、アイキドーめいて地に引き倒す!「グワーッ!」「イヤーッ!」二人目の斬撃を腕ごと振り払い、「イヤーッ!」背後の三人目にトラースキックを叩き込む!「ゴボーッ!」フルフェイスメンポの隙間から漏れる吐瀉物!

 戦闘指南役の名に恥じぬミリタリー・カラテとカジバチカラを発揮して、ダンは果敢に戦った。だが相手はニュービー相当とはいえ宇宙ニンジャの一団。徒手空拳でいつまでも渡り合える相手ではない。

「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」トルーパーの一人がダンの背後を掠めるように飛び、ソードで背中を切り裂いた。すかさず残りが後に続き、次々とすれ違いざまに斬撃を加えてゆく! 集団で獲物を取り囲み、一口ずつその肉を食いちぎる宇宙シャークの群れめいて!

「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」「イヤーッ!」SLASH!「グワーッ!」

「ハァーッ……ハァーッ……」血みどろのダンはがっくりと膝をついた。
「グワラグワラグワラ! よくぞここまで持ち堪えた。褒美に、このイワビト自らトドメを刺してやろう」イワビトは哄笑し、岩石の拳を繰り返し打ちつけた。「貴様が死ねばレジスタンスなど烏合の衆! あっと言う間に全滅させてくれるわ!」

「お前は……勘違いをしているぞ、イワビト=サン」ダンは苦痛に耐えて笑った。その目は、既にアノヨを見ているかのように澄み渡っていた。
「私を殺せば、我が同胞は更なる力を得て……ガバナスを打ち倒すだろう……」

 イワビトの落ち窪んだ目が充血し、ピクピクと痙攣した。
「負け惜しみを! ぬかすなァーッ!」右腕をハンマーめいて振り上げ跳躍!「死ね! 反逆者! 死ねーーーーッ!」

「アバーーーーッ!」

「タダイマ!……どうしたのみんな」洗いたての食器を抱えて礼拝堂に戻ったハナの笑顔と裏腹に、カミジ達は険しい顔を見合わせた。
「ダン=サンは? 一緒じゃなかったのかい」「知らないわ」ただならぬ雰囲気にハナはたじろいだ。「何かあったの、お兄ちゃんに?」

 同刻。意気揚々と林道を歩くハヤトとバルーは、息せき切って駆けて来るリュウの姿を認め、怪訝な顔を見合わせた。
「どうしたリュウ。メシはまだ残ってるんだろうな」「何言ってやがる! 大丈夫かお前ら」「大丈夫って何がさ、リュウ=サン」

 噛み合わぬ会話を交わし、緊張感に欠ける二人の顔を見比べるうち、リュウのこめかみにみるみる血管が浮き上がった。
「スペースブッダファック! やっぱブラフじゃねェか、あのクソアマ!」

「「「オーイ、ダン=サン!」」」「ダン兄ちゃん! 返事して!」
 ハナとカミジを先頭に、レジスタンス一行が口々に呼ばわりながら林道を進む。
「アッ、リュウ=サン!」来た道を駆け戻るリュウ達を、ハナは目ざとく発見した。「ダン兄ちゃんを見なかった?」
「クソッ! 目当てはダン=サンか。カミジ=サン、心当たりは!」「その道の先に小川がある。もしかすると」「ガッテン!」皆まで聞かず、リュウは色付きの風となって駆け去った。

 後を追うレジスタンス一行とハヤト達が、サンスイめいた小川のほとりに辿り着いた時……リュウは仰向けに倒れたダンの傍らに跪いていた。振り返り、静かに首を振る。

「お兄ちゃん!」「ダン=サン!」駆け寄るハナとカミジの足が止まった。ダンの身体には無数の刀創が刻まれ、さらに全身の骨が無惨に砕かれていた。もはや助からぬ事は誰の目にも明らかだった。

「アバッ……」ダンは身を震わせ、かすかに目を開いた。
「お兄ちゃん、私よ。ワカル?」ハナがダンの顔を覗き込んだ。土気色の顔には既に死相が現れていた。「無事だったか、ハナ……よかった」

「お兄ちゃん!」「お前は……静かに暮らせ……解放した人々と……」最後にダンは微笑もうとした。「ハナ、いい子で……」「お兄ちゃん!」

 ダンの首ががくりと垂れた。ハナは顔を覆い、嗚咽した。
 リュウは静かに立ち上がった。血潮に染まった赤い清流をしばし見送り、沈痛な面持ちのカミジに歩み寄る。

「カミジ=サン……俺達はベルダへ行く」「エッ?」

 リュウとカミジの視線が噛み合った。その刹那……コンマ数秒の間に、言葉にならぬいかなるコミュニケーションが行われたか、余人には知る由もない。
「わかりました」カミジは何かを受け取り、自らも何らかの意味を込めて頷いた。「カラテと共にあらんことを」

 しばしの後。ゴンゴンゴンゴン……武骨なシルエットが垂直上昇でアナリスの地を離れ、成層圏外へ消えて行った。
 地上から宇宙ニンジャ視力でそれを見届け、イワビトは勝ち誇った笑い声をあげた。「グワラグワラグワラ! ダン=サンが死んで怖気づいたか。リアベの勇士が聞いて呆れるわ!」

 イワビトは振り返り、整列するニンジャトルーパー小隊に号令した。
「ガバナス時間1700時、礼拝堂を襲撃する! 小賢しきレジスタンスどもを一掃するのだ!」「「「「「ハイヨロコンデー!」」」」」

【#4へ続く】


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