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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード前編:ダーク・カンオケ・バトルシップ】

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【#3】←

4 ベイン・オブ・ガバナス

 宇宙貨物船のコックピットに、重苦しいアトモスフィアが漂っていた。

 船は既にアナリスを離れ、第1惑星シータへの途上にあった。「マジかよ」リュウは操縦桿を握りながら、何度目かの同じセリフを呟いた。「ゲン・シン=センセイが、あんなサンシタに殺られるタマかよ」

「アノ、リュウ=サン」ハヤトが思い詰めた顔で口を開いた。「良かったら……僕に修行をつけてくれないかな。ゲンニンジャ・クランの修業を」

「ア? 何だいきなり」「僕がオヤジから受けたインストラクションは、ホントにちょっとだけなんだ。護身術レベルのカラテと、剣を少し。それだけ」「フーン」リュウは振り向かない。

「宇宙パイロットスクールを卒業したら本格的に修行を始めて、一人前の宇宙ニンジャになって……いずれ、クランを継ぐはずだった」ハヤトは伸縮刀のグリップを握りしめ、俯いた。「その前にオヤジがいなくなるなんて、考えたこともなかった」

「知ったこっちゃねェな」リュウは冷淡に答えた。
「ナンデ? リュウ=サンもゲンニンジャ・クランの宇宙ニンジャなんだろ?」「さあな」「同じ武器を使ってるじゃないか」「アー……骨董屋か何かで買ったんだよ」「でも! あのワザマエは、絶対オヤジのインストラクションを受けた……」

「うるせェ! 関係ねえっつッってんだろ!」

 怒声がコックピットに響いた。「ゴ、ゴメン」びくりと身を強張らせるハヤトの肩に、毛むくじゃらの手が置かれた。宇宙猿人バルーだ。
「真の宇宙の男なら、古傷の一つや二つはあるもんだ。無闇に触れちゃいけねえ」「……ゴメン」

 リュウは苦い顔で操縦を続けた。
(アンタ、こうなると知ってたのか)(((宇宙ニンジャ第六感の導きに従ったまで)))(自分が死んでも、俺がインストラクションすりゃいいって事か)(((決してそれだけではないぞ、ナガレボシ=サン。儂は)))(その名前で呼ぶんじゃねェ!)

 KABOOOOM! 爆発と衝撃が、ニューロン内会話を強制終了させた。「「「グワーッ!」」」三人は床に叩きつけられた。ブガーブガーブガー! 狭い船内にレッドアラートが鳴り響く!

 ガバナス宇宙戦闘機の編隊が、貨物船を取り囲んでいた。隊長機のイーガー副長が叫ぶ。「逃亡中の宇宙ニンジャの乗船に違いない! 攻撃開始せよ!」『『ハイヨロコンデー!』』BEEAM! BEEEEAM! 破壊ビームが邪悪にうねり、エテルを切り裂く!

「今度は見逃しちゃくれねえか」操縦桿を握り直し、リュウが肩をすくめた。「どうする、リュウよ」「やるだけやるさ。ハヤト=サン、さっきの要領だ」「ハイ!」

 DOOM! DOOOOM! ハヤトがシールド発生機をブーストし、かろうじて破壊ビームを防御した。だが、苛烈な集中攻撃の前には僅かな時間稼ぎにしかならぬ。
「GRRRR……忌々しい! 一方的だ」バルーが吐き捨てた。鈍重な宇宙貨物船を執拗に攻める戦闘機群は、さながら傷ついた宇宙バッファローに群がる宇宙ハゲタカの如し!

「……やっぱダメだな、こりゃ」

 リュウが呟き、主操縦席から腰を浮かせた。「ハヤト=サン、ここに座れ」「エッ?」「脱出装置を作動させりゃ、操縦席の二人は助かる。バルーと一緒に逃げな」

「リュウ! 真の宇宙の男はダチを見捨てたりせんぞ!」バルーが異を唱えた。ハヤトも同調した。「僕は今日、両親と妹を同時に失った! このうえ命の恩人まで死なせたくない! あんた達二人が逃げてくれ!」「バカ言え! せっかく助けた奴を見殺しにできるか!」

 しかし、ハヤトの覚悟は決まっていた。操縦席の後ろから素早く手を伸ばし、「脱出装置な(2名)」と書かれたレバーを引く!
「「アイエッ!?」」ガゴンプシュー! リュウとバルーは座席ごと脱出ポッドに吸い込まれた。DOOM! DOOM! ポッド射出!

 オートパイロットシステムが直近惑星への着陸シーケンスに入る。「ガキが。命を粗末にしやがって」マニュアル操縦不能の脱出ポッドでリュウは歯噛みした。小さな窓越しに、偏向シールドを破られて炎上する貨物船が見えた。

「死ぬのは僕だけでいい! でも!」ハヤトは炎上するコックピットで操縦桿を握りしめ、ガバナス戦闘機群との衝突コースをとった。「ただでは死なないぞ! せめて1機でも道連れに……」その時。

(死んではなりません、ハヤト=サン)

 神秘的な声がエテルを震わせ、サイケデリックな金色の光が宇宙に満ちた。
 時間と空間の歪みが、貨物船を中心にさざ波のごとく広がった。
「「……!?」」イーガーは戦闘機の操縦席で、リュウはポッドの中でそれを感じ取り、宇宙ニンジャ第六感をざわめかせた。

 KABOOOOM……! 光が消え、貨物船が爆発四散した時、コックピットにハヤトの姿はなかった。

「ハヤト=サン……ゲン・ハヤト=サン……」

 不可思議な声に導かれ、ハヤトは意識を取り戻した。反射的に身を起こし、五体を確かめる。貨物船と共に焼かれたはずの身体には焦げ跡ひとつなかった。

 周囲の暗がりを、エメラルドグリーンの仄かな光が照らしていた。その光は宙に浮くオーブから発していた。いや、違う……浮いているのではない。オーブは白い胸元に飾られていた。女の胸元に。
 ハヤトは女を見た。純白の薄衣を纏い、ストレートのブロンドを垂らした女を。エキゾチックな顔立ちと、アルカイックな微笑を。

「ドーモ、ゲン・ハヤト=サン。ソフィアです」

「ド、ドーモ、はじめましてソフィア=サン……ゲン・ハヤトです」
 ハヤトはどぎまぎとアイサツした。この美女がなぜ自分の名を知っているのか、考える余裕もなかった。

「貴女が……僕を助けてくれたんですか」
 まだ夢の中にいるような気分で、ハヤトは立ち上がった。周囲の様子が徐々に目に入ってくる。武骨なメカニックに囲まれた狭い空間。宇宙の男には馴染み深い光景だ。「ここは……宇宙船の中?」

 ソフィアは頷いた。「リアベ号です」「リアベ号? これが!?」「知っていますね」「ええ、まあ……おとぎ話で」

 数百年前、自由と平和を愛する宇宙の勇士を乗せて戦い、邪悪なるガバナス帝国を滅ぼした戦闘宇宙船、リアベ号。その伝説は地球連盟の植民星系にあまねく知れ渡っていた。だが実際にガバナスと戦ったのは、防衛軍の宇宙艦隊だ。歴史の教科書にはそう記されている。

「貴方は既に、ガバナスの暴虐を目にしたはず」
 ソフィアは静かに語り始めた。「彼らはああやって他の星系を侵略しては、あらゆる資源を奪い尽くすのです。その後に残るのは荒れ果てた惑星と、滅びを待つ僅かな人々だけ」「そんな! じゃあ、僕らの第15太陽系は……!」「希望はあります」

「私は未来を見ます。あまり遠くまでは見えませんが」ソフィアの声が、預言者めいた荘厳さを帯びた。
「この第15太陽系がガバナスによって死滅するさまを、私は見ました。しかし同時に、ガバナスに戦いを挑む若き宇宙ニンジャと、その仲間達の勇姿を見ました」美しい瞳がハヤトをじっと見据えた。

「エッ? アノ、それ……僕の事、ですか」赤面するハヤトにソフィアは頷いた。「戦うのです、ハヤト=サン。この船の全てを知り、次なるリアベの勇士として」

 ソフィアの姿が二重露光めいて薄れ始めた。「待って! まだ話が」 手を伸ばしたハヤトの眼前で、彼女はしめやかに消え去った。「ソフィア=サン!」

 白い光が射し込み、船内を明るく照らし出した。
 ハヤトは操縦席に駆け寄り、キャノピーから宇宙空間を見回した。古代の水上帆船めいたスタイルの宇宙船が、光子セイルを白くきらめかせながら眼前を横切ってゆく。
「カラテと共にあらんことを」エテルを介してソフィアの声が響き、奥ゆかしき宇宙ニンジャをリスペクトするチャントを唱えた。

 次の瞬間、宇宙帆船は三次元空間から消えていた。既存の超光速航法のどれにも当てはまらぬ、謎めいた挙動であった。

(僕は……幻を見たのか)

 ひとり残されたハヤトは茫然と呟いた。おそるおそるコンソールパネルに触れると、金属とプラスチックの確かな感触が返ってきた。おとぎ話でも幻でもない。現実だ。

 立ち上がって船内を検分する。設備や武装は、どれもアンティークめいた旧式の寄せ集めだった。だがそれらは的確に組み合わされ、最高の性能を発揮すべくチューンされていた。
 もっと早く。もっと強く。名も知らぬ建造者の意志と情熱が、そこかしこに感じられた。

(僕の身に何が起きたかはわからない……でも、僕はこうして生きていて……ゴキゲンな宇宙船を手に入れたことに変わりはない……)

 操縦席のシートに身をもたせかけ、ハヤトは深く息をついた。
 コンソール中央に据え付けられたレバーが、ふと目に留まった。それを倒すと、ガゴンプシュー……両翼の係留アームが展開した。その先端に取り付けられているのはレーザーキャノンか、あるいはミサイルポッドか?

 否! それは宇宙戦闘機! それも左右に1機ずつ! 航宙術の常識を超えた分離合体システムだ!

「スゴイ!」目を輝かせて駆け出したハヤトは、「山」「空」「海」のショドーが飾られた中央船室の通路を潜り、左側の機体に飛び込んだ。
「スゴイ! スゴイ! 実際3機分の強さだ!」新しいオモチャを手に入れた子供のように、パルスレーザー機銃のトリガーをガチャガチャと操作する。「BRATATATATA!」口真似だ!

 ハヤトは興奮のままに操縦席へ戻り、コンソールパネルを見渡した。宇宙パイロットスクールの退屈な授業で叩き込まれた知識が、ニューロンの底から生き生きと湧き上がってくる。
「これだ……そして、これだ!」スイッチ類を操作するにつれ、ZZOOOOMM……大出力イオン・エンジンが目覚め、計器類が輝き始めた。

 操縦桿を握り、前方を見据える。「リアベ号、発進!」足元のペダルを踏むと、たちまち加速度が跳ね上がった。身体がシートの背に押し付けられる。「ワオーッ!」ハヤトは満面の笑みで叫んだ。

 だがその時、DOOMDOOM! 外からの衝撃が船体を激しく揺さぶった。「グワーッ!」ハヤトは操縦席から転げ落ちた。ブガーブガーブガー! レッドアラートが鳴り響き、偏向シールドが自動的に戦闘レベルへ出力を上げる!

 BEEEAM! BEEEEAM! ガバナス戦闘機がリアベ号の周囲を旋回し、破壊ビームを浴びせかけていた。パイロットは上級ニンジャトルーパー・アカヅラである。輸送船撃破の報告のため単機で帰投する途中、正体不明の宇宙船に遭遇したのだ。「何だあの船は」船外モニタに映し出された機影を覗き込む。

 プロコココ……フライトUNIXがデータベースを照合し、数百年前に登録されたコードネームを表示した。

『ベイン・オブ・ガバナス』

「バカな!」その忌まわしき文字列にアカヅラは戦慄した。「あり得ん! かつてガバナス本星たる惑星大要塞を滅ぼしたリアベ号もしくはその同型船が突如この星系に出現したとでも言うのか!?」

「副長閣下、応答願います! 胡乱敵性船が」アカヅラは通信回線を開いたが、ザリザリザリ……無機質なノイズが返るのみ。リアベ号は偏向シールドと同時に、ジャミング機能をも自動アクティベートしていたのだ。
「クソッ! ならばこの場で撃沈してくれる!」BEEEAM! BEEEEAM!

 DOOM! DOOOM!「グワーッ!」ハヤトは操縦席に這い上がり、闇雲にコンソールをいじり回した。「ヤバイ! ヤバイ! このままじゃ殺される!」
 もはや冷静な判断力は消し飛んでいた。どこをどう操作したか、船体が突如フリスビーめいて横回転を始めた。「グワーッ!」ハヤトは遠心力に翻弄され、コックピットの床をゴロゴロと転げ回った。

「ア? 何だあれは」敵船のでたらめな機動をアカヅラは訝しみ、攻撃の手を一瞬緩めた。
 それが契機となった。「イ……イヤーッ!」ハヤトの宇宙ニンジャ跳躍力が遠心力を制し、再び操縦席に飛びついたのだ。火器らしきトリガーを必死に探り当てる!

 ZAPZAPZAP! でたらめに撒き散らされたパルスレーザー機銃の光弾が、アカヅラの機体を掠めた。「アイエッ!?」緊急回避!

 ハヤトはその隙にどうにか船体を立て直し、必死に冷静さを取り戻した。宇宙ニンジャアドレナリンが血中に放出され、主観時間を引き延ばす。
 機体のサイズ差ゆえ、旋回性能ではガバナス機が圧倒的に有利。船首の機銃では捉え切れぬ……ならば! 状況判断したハヤトは、全身の筋肉をバネの如く引き絞った!

「イイイヤアアアアーッ!」

 敵機とのニアミスコースに操縦桿を固定し、色付きの風となって駆ける! 中央船室のツインレーザー銃座に飛び込み、コンマ2秒で照準!
「イヤーッ!」BRATATATATATA! すれ違いざまにありったけの光弾を叩き込む!

 だが狙いが甘い!「ヌゥーッ!」アカヅラは宇宙ニンジャ操縦力を発揮し、高速マニューバで雑な弾幕を回避、反撃の破壊ビームを放った! BEEEEEAM! リアベ号の偏向シールドが耐える!

 もう一度!「イヤーッ!」ハヤトは操縦席に飛び込み、船体を旋回させた。「イヤーッ!」銃座へ駆け戻り照準! BRATATATATATA!
「ヌゥーッ!」アカヅラは回避しつつ反撃! BEEEEEAM! 偏向シールドが耐える!

 もう一度!「イヤーッ!」ハヤトは操縦席に飛び込み、船体を旋回させた。「イヤーッ!」銃座へ駆け戻り照準! BRATATATATATA!
「ヌゥーッ!」アカヅラは回避しつつ反撃! BEEEEEAM! 偏向シールドが耐える!

 破壊ビームを受けるたび、リアベ号のシールドはエネルギーを減じた。このままではジリー・プアー(徐々に不利)……だが見よ! ツインレーザー機銃の狙いが急激に精度を上げつつある! この極限状況下で、ハヤトの若きニューロンは乾いたスポンジの如く経験を吸収していたのだ! ノビシロ!

「イイイヤアアアアーッ!」BRATATATATATATATATATA!

 何度目かの反撃の末、ハヤトのレーザー機銃はついに敵機を捉えた! 宇宙スパイダーめいた機体を光弾が削り取り、原子に還してゆく! DOOMDOOM!DOOMDOOMDOOMDOOM!

「アババババーッ! サヨナラ!」
 KABOOOOOM! アカヅラは戦闘機もろとも爆発四散した。一瞬前まで敵機の存在した空間を、リアベ号は猛スピードで通過した。金属とプラスチックの破片が偏向シールドにぶつかり、バチバチと閃光を放つ。

「ハァーッ……ハァーッ……やった……!」

 汗みどろのハヤトは、しばし銃座のシートにもたれて息を整えた。宇宙の勇士には程遠いブザマな勝ち様だが、勝ちは勝ちだ。
 生と死の狭間を乗り越えたばかりのニューロンが、少しずつ鎮まっていった。「ハァーッ……ハァーッ……」中央船室に降りてコックピットへ。慣性飛行を停止させ、「フゥーッ……」操縦席から眼前の宇宙空間を見渡す。

「このリアベ号が、今日から僕の家だ」ハヤトは呟いた。

 人々のため。第15太陽系の未来のため。今は定かならぬ、ゲンニンジャ・クラン後継者の使命を果たすため。戦う理由はいくつも思いつき、どれもまだ腹落ちしない。
 唯一確かなのは、胸の裡で燃えるガバナスへの怒りだった。家族を無惨に殺した宇宙ニンジャと、それに連なる全ての者を滅ぼすべし。

 ハヤトは唇を引き結び、リアベ号を再発進させた。
 仲間が必要だった。伝説の宇宙船も、彼だけでは到底そのポテンシャルを発揮できない。何より……宇宙というエテルの荒野は、独りで飛ぶには苛酷に過ぎる。
「銀河に敷かれた道はない」宇宙の男の間に伝わるコトワザが、おぼつかなげに操縦桿を握るハヤトのニューロンに去来した。

【ダーク・カンオケ・バトルシップ】終わり
後編【リアベノーツ・リライズ】へ続く


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第1話「怪奇! 暗黒大戦艦」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

キャラクター名:原作ノベライズ版において母の名は「コオ」妹が「ヨオ」だったが、本編ではどうにもそうは聞こえない。色々悩んだあげく、最終的には自分の耳と感覚を信じることにした。マニア向け徹底研究本などで真実が明かされた暁には、それに則って変更するかもしれない。

生命の果実を刈り取るが如き邪悪な形状の宇宙ナイフ:機会があればぜひ本編映像でご確認いただきたい。

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