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《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【ザ・ニンジャ・ウィズ・ア・ミリオン・アイズ】

◆はじめての方へ&総合目次◆
全セクション版

この宇宙に人類が生き続ける限り、決して忘れてはならない事がある。本テキストは、70'sスペースオペラニンジャ特撮TVショウ「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」と、サイバーパンクニンジャアクション小説「ニンジャスレイヤー」のマッシュアップ二次創作であり、(株)東映、石ノ森章太郎=センセイ、ボンド&モーゼズ=サン、ほんやくチーム、ダイハードテイルズとは実際無関係という事だ! ただしリスペクトはある!


(これまでのあらすじ)銀河の彼方、地球連盟第15太陽系に属する3つの惑星は、突然襲い来たガバナス帝国のニンジャアーミーに制圧された。しかしここに、平和を愛し、正義を守らんとする人々の戦いが始まったのである

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 ゴンゴンゴンゴン……無味乾燥な直線的シルエットの宇宙貨物船が、第3惑星ベルダの管理宙域を脱しつつあった。船体側面にはブラックメタルめいた鋭利かつ複雑かつ凶暴な意匠。ガバナス帝国の紋章だ。

 薄暗い貨物室には数百人の男達が詰め込まれ、血と砂にまみれて力なく座り込んでいた。開拓コロニー群から駆り集められた彼らの連行先は、第2惑星アナリスの皇帝宮殿建設現場。苛酷な強制労働は一日に100人をカロウシせしめるという。星系内で最もジゴクに近い場所と言えよう。

 貨物船のブリッジでだらしなく船長席に座り、ガバナス下士官は欠伸を噛み殺した。つまらぬ後方任務だ。

「到着予定時刻は」「ハッ。ガバナス標準時1520であります」「アッソ。遅れるなよ」「ハッ」

 横柄な問いに答える操縦士と副操縦士は、双子のように同じ外見だった。ガスマスクめいたフルフェイスメンポとミリタリーニンジャ装束に身を固める彼らは、アーミー最下級のニンジャトルーパーである。

 下士官は苛立たしげに溜息をついた。過酷なカラテブートキャンプから脱落し、非ニンジャのまま後方任務に回された自分のキャリアに先はない。しかしこいつらは違う。前線でサヴァイヴし、戦功を重ね、ニンジャネームを支給されれば、今度はこいつらが自分をこき使うターンだ。そして自分のターンは二度と訪れない……ブガーブガーブガー!

「アイエッ……何事か貴様ら!」レッドアラートに思わず跳び上がりかけた下士官は、取り繕うように叱声を飛ばした。

「後方より接近する宇宙船あり!」「船籍不明! コード確認できず」「接収船リスト未登録の船影です!」

「ア? バカを言え。今時、帝国に属さぬ船が勝手に航行するなど……」

 下士官の顔から血の気が引いた。もしや、これが噂の。

『ザリザリ……こちらリアベ号! ガバナス貨物船に告ぐ! 直ちに停船せよ!』

「アイエエエエ!」ノイズ混じりの通信音声を耳にした下士官は、今度こそ船長席から跳び上がって悲鳴をあげた。「リアベ号!? リアベ号ナンデ!?」

 リアベ号。またの名をベイン・オブ・ガバナス。数百年前の地球戦役において、当時の帝国首都・惑星大要塞ジルーシアをただ一隻で滅ぼした死神の使者。その宇宙船がいかにしてかこの第15太陽系に蘇り、我が物顔に飛び回っている……アーミー内部では知らぬ者のないゴシップであった。

(まさか実在していたとは!)ガバナス下士官は、今すぐ脱出ポッドに飛び込みたい衝動を必死に堪えた。本物のはずがない。ケチなレジスタンスがコピーキャットめいて伝説の船を名乗っているだけだ。そうでなければならぬ。

 咳払いし、居住まいを正し、精一杯の威厳で命じる。「胡乱な通信など無視! このまま前進せよ!」「「ハッ!」」

「あいつ停船しないぜ、リュウ=サン」

 リアベ号の副操縦席に座る青年が、通信マイクを定位置に戻した。端正な顔立ちにはまだ幼さが残っている。

「上等だ」

 リュウと呼ばれた逞しい体躯の男が隣のシートでニヤリと笑い、振り返った。「一丁脅しをかけてやるか、バルー」

「GRRRR……面白ェ」

 毛むくじゃらの両手を打ち合わせて答えたバルーは、身長7フィート半の宇宙猿人。第1惑星シータにルーツを持つデーラ人だ。

「また僕が留守番?」

 青年が異議を唱えた。

「わかってンじゃねえか、ハヤト=サン。おとなしく相対速度維持しとけ」リュウはハヤト青年の頭を軽く張った。「トント! こいつが勝手なマネしたら、ミサイルでもブッ放してやんな」

『リョウカイ。ブッパナ、ス』

 コックピットの片隅に陣取る万能ドロイド・トントは、球形の頭部からとぼけた機械音声を発した。サイバーサングラスめいた顔面LEDプレートに「 Λ Λ 」の文字が灯った。子供の背丈ほどのボディには、実際マイクロミサイルが2発装填されている。

「何もしやしないよ」

 ハヤト青年はふて腐れた顔で操縦桿を握り直した。つい数日前、自主訓練と称して船を勝手に乗り回し、ガバナス戦闘機に撃墜されかけたばかりなのだ。その時リュウに殴られた左頬が微かに疼いた。

「オーケー。留守番頼むぜ」

 リュウはバルーと立ち上がり、後方の中央船室へ向かった。ジュー・ウェア風ジャケットの下に真紅の宇宙ニンジャ装束がちらりと覗いたが、気付く者はいない。

 中央船室に飾られた「山」「空」「海」のショドー。その両端に第二第三の操縦席が増設されていた。常識では考えられぬレイアウトだ。二人は慣れた様子で狭いシートに身体を押し込めた。キャノピー閉鎖。ジェネレーターON。計器類チェック。インカム装着。

『準備完了!』『早いトコ頼むぜ、ハヤト=サン』

 リュウとバルーの通信音声がコックピットに響いた。『サッサト、ヤレ』追い討ちをかけるトントの顔面に「DOITNOW」の文字列。

「わかってるよ!」ハヤトはレバーを倒し、ガゴンプシュー……船体両翼の係留アームを左右に展開した。その先端に取り付けられているのはレーザーキャノンか、あるいはミサイルポッドか?
 否! それは宇宙戦闘機! 左の機体にはリュウ、右にはバルーがスタンバイ済みだ!

『『Blast off!』』

 KBAM! KBAM! エクスプロシブ・ボルトが相次いで炸裂し、宇宙戦闘機を高速射出した。このリアベ号は3機のスペースクラフトの集合体であり、自在に分離合体が可能なのだ! なんたる過激極まりない設計思想か! 建造者は宇宙暴走族並みの命知らずに違いない!

「敵船のブンシンを確認!」「機影が3つに増えました!」

 ニンジャトルーパーの報告に、ガバナス下士官は頭を抱えた。「アイエエエブンシン! 史実通りだ! 奴は本物のリアベ号だーッ!」

 インシデントに気付いた囚人達は貨物室の船窓に群がり、外の様子を必死に窺った。

「宇宙戦闘機だ! でかい船も見えるぞ」「リアベ号じゃないか?」「バカ言え、ありゃただの伝説だ」「南の鉱山コロニーで、ガバナスの戦闘機と戦うのを見た奴がいるんだよ」「マジか!?」

『停船命令に従わないと攻撃する!』『コウゲキ、スル』

 ハヤトとトントの勧告通信に下士官は絶叫した。「黙れ! 本船に命令できるのはロクセイア13世陛下のみだーッ!」

「GRRRR……そうかい」

 ZAPZAPZAPZAP! バルーがパルスレーザーでひと舐めすると、貨物船の偏向シールド発生機が過負荷に耐えかね、ブリッジで火を噴いた。KBAM! KBAM!「「「グワーッ!」」」

「「「リアベ号! リアベ号! ウオオーッ!」」」

 貨物室から聞こえる囚人達の雄叫びが、ガバナス下士官のなけなしのプライドをへし折った。

「アイエエエ! ダメだ! 私は脱出する! 脱出して母艦に報告する義務がある!」「船長、お待ちを!」「まずは救援を要請すべきでは」「クチゴタエスルナー!」

「脱出装置な(1名)」と書かれたレバーを引き、下士官は座席ごと脱出ポッドに飛び込んだ。「貴様らは適当にしておけ!」ガゴンプシュー!

「「船長!」」「オタッシャデー!」DOOOM! ポッド射出完了!

 取り残されたニンジャトルーパー達は呆然と顔を見合わせた。

『いまトンズラしたのは船長か』リュウ機からの通信だ。『このままやりあってもテメェらに勝ち目はねえ。ベルダに戻って囚人を開放しろ』

「断る!」トルーパーの一人は反射的に叫んだ。「貴様らこそ攻撃を中止して退去せよ! さもなくば貨物室のエアロックを開き、囚人どもを宇宙に放り出す!」

『面白ェ。やってみな』リュウの声が凄味を帯びた。『死ぬまでガバナスの奴隷になるより、ここでお星様になる方がマシってもんだ。ただし、テメェらにもすぐ後を追ってもらうぜ』

 返答に窮するトルーパー達に、リュウは幾分砕けた口調で語りかけた。『呑めねえってンならチャンスをやるよ。カラテで白黒つけようぜ。テメェらが勝ったら俺達は手を引く。それでどうだ』

 二人は視線を交わし、短く黙考し……互いに頷いた。

「「要求を、呑む」」『上等だ』

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 第3惑星ベルダの大地で、二人のニンジャトルーパーと、一人のニュービー宇宙ニンジャ……ゲン・ハヤトが対峙していた。リュウとバルーはタチアイニンめいて背後で見守るのみ。さらにその後方に、観客めいた囚人の一群。

「ドーモ、ゲン・ハヤトです」

「「ドーモ、ニンジャアーミー208輸送部隊です」」

 宇宙ニンジャにとってアイサツは絶対の礼儀である。しかし下級トルーパーにニンジャネームはない。あるのは無機質なIDナンバーのみ。それをあえて名乗らなかったのは、せめてもの矜持と言うべきか。

「イヤーッ!」

 オジギ終了からコンマ5秒後、ハヤトは回転ジャンプで一気に距離を詰めた。その手に握る金属グリップのボタンを押すと、スティック状の刃が飛び出し、ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀に変形した。ニンジャトルーパーの一人に斬りつける!

「イヤーッ!」「アイエッ!?」

 軍用ニンジャソードで斬撃を受け止めたトルーパーが、驚愕の叫びをあげた。チュイイイン……スティック状の刃が超振動を発し、火花とともにソードを削り取っているのだ!

 KRACK!「アイエエエ折れたーッ!」柄だけのソードを手に狼狽するトルーパーを「イヤーッ!」ハヤトが逆袈裟に斬り上げた。「アバーッ! サヨナラ!」爆発四散!

「「「ウオオーッ!」」」囚人達が雄叫びをあげた。

「オノレーッ!」

 残る一人が軍用クナイ・ダートを投擲した。「イヤーッ!」ハヤトは振り向きざま、ヤジリ型の宇宙スリケンでクナイを相殺。だがその手つきはいまひとつ精彩を欠く。

(こいつ……遠距離戦には不慣れと見た!)トルーパーはその場で腰を落とし、軍用クナイ・ダートの連続投擲を開始した。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 ハヤイ! スリケン相殺では間に合わぬ。ハヤトは咄嗟に宇宙ニンジャ伸縮刀に持ち替え、クナイを叩き落とした。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」クナイ投擲!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」クナイ撃墜!

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」クナイ投擲!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」クナイ撃墜!

 両者は完全なリピート状態に入った。持久戦となれば、最下級とはいえ正規の訓練を積んだニンジャトルーパーの優勢は明白である。このままではジリー・プアー(徐々に不利)……。

 リュウは苦い顔でジュー・ウェア風ジャケットの襟元を掴んだ。その下に覗くのは、未来的な光沢を放つ真紅の宇宙ニンジャ装束。

 ジャケットを脱ぎ捨てようとした瞬間。

「イイイイイヤアアーッ!」

 ハヤトがヤバレカバレの突進を敢行した。頭部、体幹、股間の防御のみに徹し、ニンジャトルーパーに肉薄! 撃墜しきれなかったクナイ・ダートが四肢を掠め、鮮血が散る! 無視!

 SMAAAAASH!「アバーッ!」

「フゥーッ……フゥーッ……!」

 端正な顔を悪鬼めいて歪め、ハヤトはザンシンした。宇宙ニンジャ伸縮刀を構えた右手はニンジャトルーパーの心臓を貫き、緑色の異星血液に塗れて背中から突き出していた。

「ゴボッ」トルーパーのフルフェイスメンポから血泡が溢れた。「サヨナラ!」爆発四散!

「ハァーッ……」

 ハヤトはその場に膝をついた。宇宙ニンジャの凄絶なイクサを目の当たりにした囚人達は、青ざめた顔で静まり返っていた。幾人かはSNRS(宇宙ニンジャリアリティショック)に見舞われ、しめやかに失禁した。

 リュウは襟元を直しながら、苦虫を噛み潰したような顔でハヤトに歩み寄った。バルーが背後から耳打ちする。(インストラクションにしちゃキツすぎるぜ、相棒)(言うなよ。もう少しうまくやると思ったんだ)

「ハァーッ……今のイクサには……何点もらえるかな?」

 ハヤトはむりやり笑みを作り、リュウを見上げた。「俺はセンセイじゃねェよ」そう答えたリュウのニューロンの奥底から、何者かの老いた声が湧き上がった。

(((スリケンの扱いがなっとらんが、ダメージを恐れぬ気概は良し。70点)))(アッソ。俺の見立てとは違うな)(((何が気に入らぬ、ナガレボシ=サン)))(その名前で呼ぶなっつってンだろ)

 声の主は、今は亡きゲン・ニンジャクランの長、ゲン・シン。ハヤトの父にして、リュウにインストラクションを授けたセンセイである。あまりに苛酷な修行の日々は、リュウのニューロンに副作用めいた幻聴を刻みつけていた。悩ましき過去からの声を。

 リュウは溜息をついた。

「まァ、オマケして30点」「ナンデ!?」「簡単に命を張りすぎなんだよテメェは。そんなにサンシタと相討ちしてェのか」

(((己のワザマエに自信を持てぬ者ほど勝ちを焦るものよ)))(だったらアンタのせいだろ。アンタがちゃんとインストラクションしてりゃ)(((それが間に合わぬことはわかっておった。ゆえに儂はオヌシを)))(アーアー聞こえねェ!)

「死んだら終わりって言うだろうが」「アグッ!」

 リュウに片腕を掴まれたハヤトは、引き起こされながら傷の痛みに呻いた。「それ見ろ。命を張るのは、のるかそるかの大勝負の時にとっときな」

「……大勝負って、いつさ」ハヤトが口を尖らせる。

「ア? そりゃお前、なんかホラ、あンだろ。例えば」リュウは視線を泳がせた。「例えば、アー……ガバナス皇帝をブッ殺す時とかよ」

「皇帝を?」

「そうよ」リュウは威厳を取り繕って頷いた。「いつかは来るぜ、その時が。備えとけ」「ハイ、センセイ!」「だァから!」

『オマエラ、イツマデ、アブラヲ、ウッテル』

 キュラキュラキュラ。トントが車輪歩行でリュウ達に近づき、顔面に「 \ / 」の文字を灯した。背後には半ば解体されたガバナス貨物船。『ツカエル、パーツハ、イタダイタ』

「オツカレ。リアベ号に戻ったらハヤト=サンの手当ても頼むわ」リュウがトントのボディを軽く叩いた。

『ドロイド、ヅカイガ、アライ、ナ』

「モシモシ! モシモシ! 聞こえますかドーゾ!」

 ブガーブガーブガー! 脱出ポッド内の狭い空間に衝突警報が鳴り続けていた。必死にコールを続けながら、ガバナス下士官は小さな船窓から外を窺った。眼前に迫る宇宙都市めいた漆黒のメガストラクチャーは、ニンジャアーミー旗艦「グラン・ガバナス」の艦首だ。

「直ちに着艦受け入れを要求するドーゾ!」ポッドは誘導ビーコンに導かれ、自動操縦でグラン・ガバナスとの距離を縮めていく。しかし巨艦は沈黙を守り、衝突コースを突き進むのみ。「応答しろ! なぜ黙っているドーゾ! 俺を殺す気かドーゾ!」

『左様、殺す! ドーゾ!』

「アイエッ!?」スピーカー越しの通信音声が下士官を失禁せしめた。「マッテ! お待ちください団長閣下! リアベ号が! ベイン・オブ・ガバナスが」

『敵前逃亡は反逆罪とみなす! 反逆者は死刑! 以上ドーゾ!』

「アイエエエエエエ!」

 カラテ漲る怒声にニューロンを苛まれた下士官は泡を吹き、仰け反って痙攣した。混濁する意識が警報ランプの赤光に溶け去った。ブガーブガーブガー……。

「カラテと共にあらんことを!」「カラテと共にあらんことを!」

 奥ゆかしき宇宙ニンジャをリスペクトするチャントを口々に唱え、囚人達は手を振りながら歩み去った。
 リアベ号のコックピットから、リュウ達は笑って手を振り返した。貨物船から分け与えた水とレーションがあれば、数日で最寄りのコロニーに辿り着けるだろう。そこから先は彼ら次第だ。

 ゴンゴンゴンゴン……イオン・エンジンの垂直噴射で、リアベ号は離陸上昇を開始した。

「道草食っちまったぜ」余り物のレーションを齧りながら、リュウは操縦席から振り返った。「トント、目的地周辺の地図を出せ」

『ダス』ピボッ。年代物のグリーンモニタにアスキー地図が浮かび上がった。地図の中央にはガバナスに接収されたレアメタル鉱山。そこに連行された「ある男」を救出するのが、今回の目的だ。

「アッ! 見てよコレ」

 傷の痛みも忘れて、ハヤトが素っ頓狂な声を上げた。「ほら、ここ。宇宙パイロットスクール!」
 鉱山の近く、ハヤトが指差した地点に「S.P.S.」の文字が輝いていた。時期は違えど、ハヤトとリュウにとってはかつての学び舎である。

「この間まで、ここで勉強してたんだよなァ」

 ハヤトの表情に複雑な影がよぎった。父の命によりスクールを休学したあの日……家族を失ったあの日から、ガバナスとの戦いが始まったのだ。

『ソレガ、ドウシタ』ドロイドならではの無遠慮な異論をよそに、リュウは真顔でモニタに見入る。「フゥーム」ごく短い沈思黙考。「道草ついでだ。行ってみるか」

『サンセイ。イコウ』

「やけに素直だな、ポンコツ」バルーがトントのボディを軽く蹴った。

『オマエラノ、ナカデ、リュウノ、カンガエガ、イチバン、マシ』

「ンだとォ」

 だがバルーはそれ以上追及しなかった。宇宙猿人の野性的第六感も、リュウの態度から何かを感じ取っていた。

 KABOOOOM……! グラン・ガバナスの艦首に衝突した脱出ポッドがしめやかに爆発四散した。艦体は全くの無傷。偏向シールドに一瞬、微かな光のさざ波が走った。それだけだ。

「針路を維持せよ!」

 巨艦の広大なブリッジに大音声が響き渡った。声の主は、漆黒のプレートアーマーと黒マント、大角付きニンジャヘルムに身を固めた宇宙ニンジャ。ガバナス帝国ニンジャアーミー団長、ニン・コーガーである。

『ヨロコンデー』『針路維持ヨロコンデー』サイバネ化及び自我漂白済みブリッジクルーの復唱がエコーめいて繰り返される中、コーガーより幾分簡素なニンジャ装束の男がブリッジ入りした。弟のイーガー副長だ。

「またリアベ号か、兄者」

「ウム」

 コーガーが苦虫を噛み潰したような顔で頷く。皇帝宮殿建設を急ぐ彼らにとって、度重なるリアベ号の妨害工作は深刻な工期遅延リスクとなりつつあった。

『コーガー団長!』

 ブリッジ壁面に飾られた黄金宇宙ドクロレリーフの両眼が、不気味な機械音声とともに瞬いた。ガバナス帝国皇帝、ロクセイア13世からの通信だ。

「ハハーッ!」

 コーガーは反射的にマントを翻してドゲザした。イーガーも慌てて跪く。

『この体たらくで、余の宮殿は予定通り完成するのであろうな』

「アッハイ! それはもう間違いなく」イーガーが脊髄反射的に答えた。

『オヌシには聞いておらぬ!』

「アイエッ!?」

『コーガーよ。ニンジャアーミーはいつまであのリアベ号を野放しにしておくつもりか!』電子的叱声が兄弟の鼓膜を打った。逆鱗に触れたか。イーガーの額から脂汗が噴き出す。

 一方コーガーは眉ひとつ動かさぬ。「ハハァーッ!」ゴキゴキリ! 不気味な音とともにドゲザが人体の限界を超え、さらに一段階低くなった。関節を外してのさらなる平身低頭姿勢だ。

「ゴボッ……いましばしのご猶予を! 各星系のニンジャオフィサーを呼び寄せ、リアベ号とその協力者を速やかに始末致しまする!」

 コーガーの捨て身の恭順に、皇帝はやや機嫌を直したようだった。

『その言葉忘れるな』「ハハーッ!」『ぬかるでないぞ』「ハハァーッ!」

 通信終了。ドクロ眼窩のUNIXランプが消えると同時に、ゴキゴキリ! コーガー団長は関節を戻しながら立ち上がり、叫んだ。

「クノーイ=サン!」

「お呼びで」

 次の瞬間、コーガーの背後に妖艶な女ニンジャが控えていた。パープルラメのレオタードめいたニンジャ装束に包まれたバストは豊満であった。

「ベルダに派遣したメビト=サンの様子は」

「順調です。メビト=サンのジツのおかげでレアメタル鉱山の暴動は即座に鎮圧、生産性は1000%向上したとか」

「ウム」コーガーは重々しく頷いた。「オヌシも鉱山に赴き、メビト=サン本来のミッションをサポートせよ! リアベ号の連中をアンブッシュするミッションのな!」

「メビト=サンは俺の直属だ。うまく使え。俺の顔に泥を塗るなよ」イーガーは脂汗を拭いつつ虚勢を張った。

「ヨロコンデー」

 クノーイは感情なく微笑んだ。

【#2へ続く】


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