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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【バトル・フォー・ザ・プラネット・オブ・ジ・アストロピテクス】

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【#3】←


 漆黒の宇宙空間を飛ぶリアベ号の武骨な船体が、第15太陽グローラーの光を反射して輝いた。

 ゴンゴンゴンゴン……フル回転するイオン・エンジンの轟音の中、リュウとハヤトは厳しい顔で操縦桿を握っていた。
 後部座席にもたれるバルーの傍ら、トントがマニピュレータをてきぱきと動かして医療行為を進める。『スコシ、イタイガ、ガマン、シロ』「とっととやれポンコツ……AAAAGH!」

 キビトの爆発四散をもってクノーイは撤退した。ニンジャトルーパーはナガレボシが全滅せしめた。かくして敵を退けたハヤト達は直ちにリアベ号を呼び寄せ、宇宙貨物船を追って飛び立ったのである。

 ピボッ。年代物のグリーンモニタに光点が灯った。「ヤッタ! 貨物船の反応だ」ハヤトが拳を握った瞬間、ブガーブガーブガー! 船内にレッドアラートが鳴り響く。「アイエッ!?」

「案の定だ。お迎えも来やがった」リュウが指差すモニタ上に、第二第三の光点が現れた。ピボッ、ピボッ、ピボッ、ピボッ……たちまちその数は十を越え、なおも増え続ける。
 その実体は、宇宙スパイダーの群れめいたスペースクラフト。ガバナス制式宇宙戦闘機、G6-Ⅱ型「シュート・ガバナス」の大編隊であった。

 モニタ上の光点は、整然たるフォーメーションでリアベ号の進路を阻む。「上等だ。一丁蹴散らして来るか」リュウはさりげなく立ち上がった。「リアベ号の操船はハヤト=サンがやれ。トントは対空銃座だ」

「オイ」バルーが声をあげた。リュウは無視した。「偏向シールドを最大にして、俺が戻るまで持ち堪えろ。できるな」
「オイ、リュウよ」「ダメだ」リュウは言下に否定した。「その傷で戦闘機に乗ってみろ。いくらお前でも10秒と持たんぜ」

「そうじゃねえ」バルーは静かに言った。「ハヤト=サンを連れて行け。リアベ号は俺が預かる」

「エッ! つまり僕がバルー号に?」目を輝かせるハヤトの後頭部を、「ダ、メ、だ!」リュウが平手で続けざまに殴った。「こないだ実機訓練始めたばっかだろうがテメェはよ!」

 バルーは低く笑った。「俺達が初めて戦闘機に乗った時も、似たようなモンだったぜ。小便漏らしながらよ」「俺は漏らしてねェ」「だったらハヤト=サンも漏らさねえよ」

(((ハヤトを連れて行ってはならぬ、ナガレボシ=サン)))

 リュウのニューロンに老いた声が響いた。声の主は、今は亡きセンセイにしてハヤトの父、ゲン・シン。苛酷な修行の後遺症めいた幻聴に、リュウはしばしば悩まされてきた。
(((ゲンニンジャ・クラン後継者の使命を果たすまで、ハヤトは生き延びねばならぬのだ。例えデーラ人に犠牲が出たとしても……)))

(ア? テメェ今なんつッた)

 リュウの目がカミソリめいて細まった。(ありがとよ。おかげで腹が決まったぜ)(((待て。大局を見よ!)))(うるせェ! こんな時に何もできねえクランなんざ、クソでも喰らえってンだ!)

「行くぜハヤト=サン! モタモタすンな!」叫ぶや否や、リュウは色付きの風となって中央船室へ消えた。

 ニューロン内の会話は余人には聞こえない。「アノ、エット」戸惑うハヤトにバルーが頷いた。「あの船にはダチの女房と息子が乗ってる。頼んだぜ」「……ハイ!」

 ハヤトは勇んで飛び出した。「面倒な奴らだ……GRRR」バルーは主操縦席に着き、痛みに耐えて操縦桿を握った。トントは自身を船体に直結し、火器管制権を掌握した。プロココココ……UNIX接続音と共に、「READYTOFIRE」の文字が顔面を流れる。

「山」「空」「海」のショドーが飾られた、リアベ号の中央船室。左右の壁は強引に開口され、宇宙戦闘機のコックピットが覗いている。
 左のシートでは既にリュウが発進準備を進めていた。ハヤトは右シートに滑り込んだ。キャノピーを閉じ、教則本どおりに各種スイッチをON。ZZZZZ……ジェネレーターの振動が五体に伝わる。

 インカム越しにリュウの指示が飛んだ。『計器はダブルチェックしろ』「ハイ!」ハヤトは食い気味に返した。『気負うなよ。100目の出撃だと思えば』「ハイ!」
 リュウは通信を切って苦笑した。「わかってンのかねェ」

 ガゴンプシュー……リアベ号両翼の係留アームが左右に展開した。その先端には超小型宇宙戦闘機が接続されている。銀河宇宙広しといえど、このような分離合体システムを有する船は他にあるまい。

「「Blast off!」」

 KBAM! KBAM! エクスプロシブ・ボルトの爆発が、リュウとハヤトの乗る宇宙戦闘機を弾丸めいて高速射出した。
「アイエエエエ!」「漏らすなよヒヨッコ!」ハヤトは必死に、リュウは余裕で宇宙ニンジャ耐G力を発揮した。エテルの暗黒に浮かぶ塵に過ぎなかった敵機が、たちまち眼前に迫る。

『敵機のブンシンを確認! 急速接近中アバーッ!』KABOOOM!
「何ッ!?」シュート・ガバナス隊長機のパイロットトルーパーが身を乗り出した。右舷の僚機は、既に燃える光球と化していた。ZAPZAPZAP! 敵機のパルスレーザーが赤く閃き、さらに一機が爆発四散! KABOOOM!

「迎撃! 各個迎撃せよーッ!」『『『ハイヨロコンデー!』』』シュート・ガバナス編隊はビーム機銃ステーを宇宙スパイダーの脚めいて広げ、総攻撃を開始した。BEEAM! BEEEEAM! 緑色の破壊ビームが幾条も走り、エテルを切り裂く!

「テメェらの相手してるヒマはねェんだよ!」

 ZAPZAPZAP! KABOOOM! KABOOOM! リュウの放つパルスレーザーが、新たな二機を瞬時に爆発四散せしめた。一方ハヤト機は敵機を振りきれず、背後からの攻撃を躱すので精一杯だ。BEEAM! BEEEEAM!

『死ぬ気で旋回しろ! 敵のケツを取りゃ何とかなる!』「ハイ!」リュウの大雑把な指示に、ハヤトはギリギリの急旋回を試みる。「ウオオーッ!」過剰Gでモノクロ化した視界の中、UNIXターゲットスコープがアスキー文字の機影を映し出した。
 なかば無意識でトリガーを引く。ZAPZAPZAP! KABOOOOM!「ヤッタ!」『今の呼吸忘れンな!』「ハイ!」

 ZZZOOOOOM! リアベ号の武骨な船体が、乱戦の中を強引に突っ切った。流れ弾めいた破壊ビームを受け、偏向シールドが激しい火花を散らす。
 シュート・ガバナスに追い縋られつつ、バルーは叫んだ。「トント!」
 キュイイイイ……BRATATATATA! 無人のツインレーザー銃座が後ろを向き、明後日の方向に光弾を撒き散らした。シュート・ガバナスの一機が、射線に吸い寄せられるように被弾した。トントが敵機の軌道を演算予測したのだ。

『ジャマスル、ヤツラハ、ブッコロ、ス( \ / )』KABOOOOM!

 ZOOOOM……デーラ人を満載した宇宙貨物船のコンテナが、船外爆発のエテル衝撃波に震えた。しかし今更騒ぐ者はいない。「デリ・マノス・マニヨル……」「デリ・マノス・マニヨル……」最後の祈りの声がそこかしこで聞こえるだけだ。

「デーラ人らしく、誇りを持って死ぬのよ」「ウン」母の言葉に、ジルーはこくりと頷いた。コンテナの片隅で息子の肩を掴むルーレの瞳は、既にアノヨめいて透徹した光を帯びていた。

 ZOOOOM……衝撃波はブリッジにも伝わった。ガバナス下士官は悲鳴を噛み殺した。たとえ死んでも、部下の前でブザマを晒すわけにはいかぬ。

『ザリザリ……聞こえるかガバナス貨物船!』ノイズ混じりの通信音声はリュウのそれだ。『今すぐシータに引き返して、デーラ人を開放してもらおうか!』
 鋭角的シルエットの宇宙戦闘機が船体を掠めて飛び、至近距離でシュート・ガバナスを撃墜した。KABOOOOM!「「「グワーッ!」」」操縦士トルーパーと下士官はシートにしがみつき、衝撃に耐えた。

 その時。BEEP! コンソールの「目的座標到達な」ランプが点灯した。

「投棄開始せよーッ!」ガバナス下士官は絶叫した。
「「ハイヨロコンデー!」」ガゴンプシュー! コンテナのエアロックが開き、空気がゴウゴウと流出を始めた。反対側の壁面からは鉄のトゲが無数に生え、猿人たちを押し出しにかかる! ナムサン! なんたる屠殺場めいた無慈悲な機構か!

「アイエエエ!」「アイエエエエエ!」あちこちで悲鳴があがる中、「「「WRAAAAGH!」」」屈強な男達がトゲ壁を押し返さんと試みる。しかし機械のパワーには抗するべくもない!

「カーッカッカッカ!」グラン・ガバナスのブリッジでコーガー団長は哄笑し、モニタ内の貨物船を指し示した。「ご覧下され皇帝陛下! 間もなく! 醜い猿人どもが宇宙に消えてゆきましょう!」
『ムッハハハハ!』黄金ドクロの両眼が激しく瞬いた。『醜い者が醜く死んでゆくのは、心地良いものよのう』「ハハーッ御意!」

『何てことを! 今すぐエアロックを閉じるんだ!』ハヤトの通信音声にガバナス下士官は叫び返した。「ほざけ! 誇り高きガバナス軍人は反逆者の命令など……アイエッ!?」
 下士官と操縦士トルーパーの眼前に火球が迫る。被弾炎上したシュート・ガバナス最後の一機が、偶然にも衝突コースに入ったのだ!「「「アイエエエエエ!」」」

 KABOOOOM!「「「アバーッ!」」」

 ブリッジを失った貨物船は大きく傾いた。「アイエエエ! 母ちゃん!」「ジルー!」小さな身体が空気流に攫われる。ルーレは必死に手を伸ばした。届かぬ!「ARRRRGH!」

「アイエエエエ!」ジルーが宇宙空間に吸い出された、その瞬間。

「ARRRRRGGGGHHHHHHHH……」
 血を吐くようなルーレの絶叫がスローダウンした。エテルの闇に黄金の光が満ち、動くものの一切が静止した。

 光の源は、宙域内に忽然と現れた宇宙帆船であった。船首のバウスプリットから放たれた黄金ビームが渦巻き、貨物船を包み込む。

 黄金の光の中で時間が逆巻いた。ジルーは逆再生めいて船内に戻り、母の手を掴んだ。「母ちゃん!」「ジルー!」ルーレは息子を引き寄せ、抱きしめた。エアロックは閉じ、トゲ壁も初期位置へと戻ってゆく。

 ホロ投影されたソフィアの映像に、リュウとハヤトはコックピットから手を振った。「オーイ!」「ソフィア=サン!」
『罪なき人々を死なせてはなりません』ソフィアはアルカイックな微笑で頷いた。「アリガトゴザイマス!」「アンタやっぱイイ女だぜ!」

『カラテと共にあらんことを』奥ゆかしき宇宙ニンジャをリスペクトするチャントを残し、ソフィアの宇宙帆船はしめやかに消え去った。

「さァて! テメェら今度こそシータに戻ってもらうぜ……ン?」
 宇宙貨物船に機体を横付けたリュウは眉根を寄せた。宇宙ニンジャ動体視力がブリッジ内に見出したのは、傷ひとつないガバナス下士官と操縦士トルーパーの死体であった。ソフィアの不可思議な時空干渉能力は、破壊されたブリッジと肉体を復元したものの、失われた生命を蘇らせるには至らなかったのである。

「で? どこへ向かってンだあの船は」『オートパイロットデ、フライトプランニ、シタガッテ、イル( ─ ─ )』「エッそんな! と言う事はガバナスの地上要塞に戻っちゃうんじゃ?」「GRRRR……冗談じゃねえ」

 再合体したリアベ号のコックピットで、一同は思案顔を突き合わせていた。「どうしよう、リュウ=サン」「そうさなァ」リュウは腕組みして天井を仰ぎ……やがてニヤリと笑った。

「いい手があるって顔だな、相棒」「まあな。だがハヤト=サンにゃ少々キツいかもだぜ?」「何だよそれ! やるよ僕は!」挑発に乗ったハヤトが食ってかかる。「上等だ。その言葉忘れンな」

 しばしの後。ガバナス地上要塞監視塔の指令室で、イーガー副長はニンジャソードを手にほくそ笑んでいた。
 対空レーダーには貨物船とリアベ号の機影。既に大気圏突入を果たし、今まさに射程内に入りつつある。「見てるか兄者。リアベ号の連中、猿どもと心中する気らしいぜ」

『好機! 必ずやリアベ号を撃墜せよ! デーラ人などその後でどうとでもなるわ!』モニタ内で叫ぶ兄を、イーガーは薄笑いで受け流した。「ダイジョブダッテ。この要塞の対空砲火なら楽勝さ。奴らを殺れば俺の地位もますます盤石よ」
 なおも何か言いたげなコーガーを無視して通信を切り、イーガーは司令官席で反り返った。「よォし砲撃開始!」「「ハイヨロコンデー!」」

 ガゴン! ガゴン……ガゴン、ガゴン、ゴンゴンゴンゴン……。
 おお、見よ! 地を揺るがす轟音とともに、監視塔の円筒外壁が巨大宇宙カルーセルめいて回転を始めたではないか!
 KBAM! KBAM! KBAM! 壁面から放射状に生えた砲身が、リボルバーめいて火を吐く! 射撃後に一回転して再び射線に乗るまでに再装填が完了する、サンダンウチ・タクティクスめいた攻撃システムなのだ!

 DOOOM! DOOOOM! 貨物船を先導するリアベ号の周囲で、続けざまに対空砲火が炸裂した。最大出力の偏向シールドが激しく瞬く。
「クソ野郎が」主操縦席でバルーが呻いた。長くは保つまい。だがコースを変えるわけにはいかぬ。後方の貨物船に一発でも当たった瞬間、罪なきデーラ人の命運は尽きるのだ。

 DOOOM! DOOOOM! 激しく揺れる宇宙戦闘機のコックピットには、リュウとハヤトが再びスタンバイ済みだ。
 ハヤトは首を伸ばし、涸れた峡谷をおそるおそる見下ろした。『やるッつったろ、ハヤト=サン。今更ビビんなよ』「わかってるよ!」汗ばむ手で操縦桿を握り直す。

「「Blast off!」」

 KBAM! KBAM! 二機は対空砲の射角を潜り抜け、峡谷へと降下した。トレンチめいた岩壁が猛スピードで視界を流れ去る。ギリギリの高度、ギリギリの狭さ。操縦を誤った瞬間ジゴクへ直行だ。「アイエエエエ!」ハヤトは失禁を堪え、歯を食いしばった。

(((オヌシのインストラクションは性急に過ぎる)))(俺はセンセイじゃないんでね。お行儀のいい修行がご所望なら他を当たンな!)
 リュウはニューロン内のゲン・シンに取り合わず、さらに速度を上げた。『アイエエエエ!』回線越しにハヤトが悲鳴をあげる。「漏らすなよ! 101回目の出撃だと思いな!」

 DOOOM! DOOOOM!「WRAAAAAGH!」バルーは懸命に船体を立て直した。KBAMKBAM! 過負荷でスパークするシールド発生機に、トントが消火剤を噴霧する。『ソロソロ、アブナイ、ゾ』「キアイで何とかしろポンコツ!」『ムチャヲ、イウ、ヤツダ』

 リュウとハヤトはひたすら峡谷を飛んだ。ハヤトは脂汗を流しながら、旧式のグリーンモニタをチラチラと見た。監視塔との距離を示す数字が、凄まじい勢いでゼロへと近づいてゆく。

 KBAM! KBAM!「砲撃を絶やすなよォ」イーガーはニヤニヤとシートから身を乗り出した。爆炎の中、リアベ号を護る不可視のシールドがバチバチと火花を散らすのが見えた。効力を失うのも時間の問題だ。

「……ン?」イーガーの口元から笑いが消えた。「オイ、リアベ号の戦闘機が分離してるぞ。レーダーに反応は」「ありません」オペレートトルーパーは愚直に答えた。「ない筈があるかバカめ!」「グワーッ!」トルーパーを殴り飛ばして窓に駆け寄ったイーガーは、せわしなく周囲を見回し、監視塔の真下へ通じる峡谷に目を留めた。宇宙ニンジャ動体視力が、弾丸めいた飛翔体の残像を捉える。「……!」

 逡巡は一瞬だった。「イヤーッ!」KRAAAAASSH! イーガーは宇宙ニンジャ生存本能の命ずるまま、強化宇宙窓ガラスを破って飛び出した。
「副長!」「副長閣下どちらへ!」オペレートトルーパーの叫びを背に、イーガーは監視塔の外壁を垂直に駆け降りた。地上に達するや色付きの風と化し、いずこかへ逃げ去ってゆく。

「5、4、3」距離表示を睨みながら、リュウはカウントダウンを開始した。『2、1』ハヤトはトリガーに指をかけた。

『続けェーッ!』「ハイ!」

 峡谷の終端に激突する直前、二機は自殺的角度で急上昇をかけた。Gに耐えながら、監視塔外壁にパルスレーザーを叩き込む! ZAPZAPZAPZAP! ZAPZAPZAPZAPZAPZAP!

 ハヤトは懸命に首を巡らせ、眼下に遠ざかる監視塔を振り返った。宇宙ニンジャアドレナリンが引き延ばした主観時間の中、超至近距離のレーザー斉射を受けた外壁が赤熱し、膨れ上がり、爆裂する! KRA-TOOOOOM!

「「アバーッ!」」指令室が、そして格納庫が次々と炎に包まれた。巨大な炎のカタナで斬り上げられたかのように、監視塔は縦一直線に爆炎を噴き出し、ゆっくりと倒壊していった。KABOOOM! KABOOOOM! 地下通路を伝い、爆炎が放射状に広がる。要塞内の全施設、全人員を焼き尽くしながら!「「アバーッ!」」「「「アバーッ!」」」「「「「「アババババーッ!」」」」」

 KRA-TOOOOOOOM! KABOOOOM! KABOOOOOM! DOOOOOOOM! DOOOOOOOOM! KRA-TOOOOOOOOM……!

画像2

 焦げ臭い風が焼け跡を吹き抜けた。先刻まで監視塔だった瓦礫の上に、二隻の宇宙船が着陸していた。オートパイロット航行を完了した宇宙貨物船、そして戦いを終えたリアベ号である。

「WRAAAAAGH!」「ヤッタ、助かった!」「俺達は! 助かったぞーッ!」「「「「「WRAAAAAAAGH!」」」」」

 デーラ人の歓声が焼け跡に響き渡った。ある者は拳を突き上げ、またある者は互いに固くハグした。信心深い老人の多くは、伝説の船・リアベ号に熱心な祈りを捧げ、ハヤト達を当惑させた。

「俺を覚えてるか、ジルー」バルーは屈み込み、親友の息子の頬をつついた。「バルー小父さん!」「そうとも! 大きくなったなァ」
「へへへ」ジルーは恥ずかしそうに身をよじり、屈託なく笑った。父の死を現実のものとして受け止めるには、しばしの時間が必要であろう。

「アノ、バルー=サン」ルーレは恐る恐る問いかけた。「夫は本当に……貴方を裏切りませんでしたの?」

「真の男がどうして友を裏切るものか」バルーは立ち上がり、ルーレの肩に手を置いた。「ガルーは最後までガバナスに抗った。だからこそ命を落としたんだ」「本当に?」「ああ……スマン」ルーレはかぶりを振り、もう何も問わなかった。

 バルーは左腕一本でジルーを抱き上げた。「お前も大人になったら、親父のような真の男になれ。そして」「ガバナスをやっつけてやる!」「WRAHAHAHA! その前に俺達が奴らをブッ潰してるかもしれんぞ」「じゃあ競争だね!」「受けて立つぜ」

「オーイ! 出発するぞ相棒!」「第2惑星アナリスのカミジ=サンから連絡が入ったんだ!」タラップから叫ぶリュウとハヤトに、バルーは手を振った。「おう、今行く!」

 ゴンゴンゴンゴン……垂直上昇するリアベ号を、人々は感謝を込めて送り出した。「カラテと共にあらんことを!」「カラテと共にあらんことを!」

 去りゆく機影を見上げるジルーの目はキラキラと輝いていた。
「僕も宇宙船乗りになる! バルー小父さんみたいに!」「そう」ルーレは小さく微笑み、息子の頭を撫でた。「きっとお父ちゃんも喜ぶわ」

 同刻。グラン・ガバナスのブリッジで、コーガーは黄金ドクロの前にドゲザしていた。「面目次第もございませぬ皇帝陛下! 次こそは必ずデーラ人どもを……」

『アー、もうよい』

 ロクセイアの通信音声が言い捨てた。
「ハ……?」『もうよいと言うたのだ。飽いたわ』ドクロの両眼が物憂げに瞬いた。『イーガーの阿呆に伝えよ。猿どもと遊ぶ暇があるなら宮殿完成を急げとな』

 コーガーは絶句した。『返事はどうした』「ハ……ハハーッ……」平伏する背中が微かに震えた。

 通信終了後もなお、コーガーはドゲザ姿勢のまま動かなかった。「…………!」やり場のない怒気が陽炎の如く立ちのぼり、キリングオーラとなってブリッジに充満した。『ピガッ……』『ピガガッ……』サイバネブリッジクルーが次々と煙を吐き、しめやかに機能停止した。

『ドウシテ、ウソヲ、ツイタ』「バカヤロ。あれでいいんだよ」リアベ号中央船室の床に座り込むバルーの身体は、いつもより一回り小さく見えた。トントの頭を叩く手つきも弱々しい。

「おいトント! こっち来い」リュウの声が響いた。

 キュラキュラキュラ。車輪走行でコックピットに入ったトントに、操縦席のリュウはぶっきらぼうに命じた。「そこで静かに前方監視してろ」『ウシロハ、イイノカ』「いいよ。振り向くんじゃねェぞ」
 それきりリュウは黙り込んだ。ハヤトも無言で操縦桿を握り続けた。

 船内を沈黙が支配した。ひとり残されたバルーは食糧庫に潜り込み、宇宙ヤギの皮袋を持ち出した。レーザー銃座によじ登り、狭いシートに身を押し込め、木椀に中身を注ぐ。デーラ人の愛する発酵酒だ。

 全天周キャノピーから見渡せば、船外は無限の銀河宇宙。バルーは星々に木椀を掲げ、呑み始めた。いかつい頬に涙がひとしずく流れた。イオン・エンジンの低い唸りだけが船内に響いていた。


【バトル・フォー・ザ・プラネット・オブ・ジ・アストロピテクス】終わり


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第8話「無残! 猿人狩り」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

グリーンモニタ:TVショウのスタッフロールには「特殊映像プログラミング:コモドール・ジャパン」の表記がある。アスキーアートで描かれたターゲットスコープの映像が、コモドール社のパソコンで描画されたと思われる。時期的に考えてPET2001であろうか。グリーンモニタの色合いが美しい。

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