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本棚の中身・「普通の人生」を疑う

石原ナニガシさんや小池ダレソレさんの人生にさして興味はないが、信号待ちで隣になった見知らぬ誰かのニッチな「生活と意見」に突然興味がわくことがある。もちろん良識ある普通の市民である私は「あなたの恥ずかしいクセは何ですか」なんていきなり聞くような真似はしない。

さて普通の市民って何だろう。「普通はさ-」とついつい口にしてしまうのだが、それが一番怪しいことはわかっているのだ。わたしの普通はあなたの普通ではないし、あなたの普通もわたしの普通ではない。一見さして違わない暮らしが集まっているようなところに住んでいると、そのへんを忘れがちになるので気をつけなければいけない。

ということで、名も知らぬ人の人生を垣間見させていただく人物ルポなどを読んでいると、ただの人ほどただならない事がよくわかる。20代から30代の頃に読んだ、今も本棚にある、たとえばこんな本たち(いずれも文庫本)。

「人の砂漠」(沢木耕太郎著/新潮文庫)今も旺盛な作家活動をしている「スター」沢木耕太郎のルポ8編。餓死をしたひとりの老女、元売春婦、「最果ての地」与那国で彷徨う人など、地の底を這うように生きる人々の人生をていねいに描いている。
「日本漂民物語」(佐木隆三著/徳間文庫)サーカスの旅役者や陶工になった元全共闘と元自衛官、戦跡巡拝ガイドの姉とフーテン娼婦の妹など6組の悲喜劇をノンフィクション小説の形で。おもしろうてやがて哀しき人生。
「人、旅に暮らす」(足立倫行著/新潮文庫)老養蜂家、ラブホテルの特殊ベッド製造販売業者、国土地理院の測量官、鯉の鑑定人など旅に明け暮れる職業の男たち12人のルポルタージュ。転勤や単身赴任などではなく、なりわいそのものが旅だった人たち。
「日本凡人伝」(猪瀬直樹著/新潮文庫)鉄道のスジ屋、火災現場の調査員、化粧品の調香師など知っているようで何も知らない人々12人へのインタビュー集。
「人を覗(み)にいく」(佐野眞一著/ちくま文庫)つげ義春やあの村西とおるなど有名人からディスカウントストアの社長、老人ホームの園長などその強烈な個性で人生を究める22人を取材。スタンスはあくまでもその人を「覗き」に行く。
「無冠の疾走者たち」(生江有二著/角川文庫)競輪選手、異端の落語家、赤城山の埋蔵金堀り、地震予知研究にかける男・・・。称賛や栄冠からは遠くはなれた8人の男たち。第9回日本ノンフィクション賞。
「性人伝」(いその・えいたろう著/徳間文庫)表題通り「性」の世界の第一人者10人を追った聞き書きドキュメント。下着の収集家から5人の「女房」と暮らす男、ジゴロ稼業、テレクラ漫画家・・・何が彼らをそこまで駆り立てるのか。

世界にはいくつの「なりわい」があるのだろう。聞いたことがある程度でさえ、きっとその1%にも満たない。「普通のサラリーマン」なんてどこにもいないのだ。








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