布マスクとサイレントスプレッダー

COVID-19と呼ばれる今回の新型コロナウイルスは潜伏期間が数週間と長い上に、感染者のうち若者を中心とした8割ほどが軽症または無症状となる。
したがって、報道されている死者・重症者の裏には、その何倍もの無症状感染者が居ると考えてよいだろう。

そういった無症状~軽症のウイルスキャリアが無自覚にウイルスをばら撒く「サイレントスプレッダー」が、感染拡大を加速しているとして問題視されている。

小池知事が「若者が~若者が~」と口うるさく言っているのも、それを意識してのことだろう。
(話は逸れるが、彼女は危機感を持たせるために敢えて「ロックダウン」などの聞き慣れない横文字を使ったと言っていた。
そういう話であれば「若者が~」ではなく、サイレントスプレッダーという概念もしっかり発信すべきではないだろうか?)

さて、先日、安部首相が布マスクを配布することを発表し、これについて賛否両論の意見が飛び交っている。
私が見て回った中では、「布マスクなんて欲しくない。使い捨てマスクの供給を早く何とかしろ!」というものが多かったようだ。
理由としては「布マスクはウイルスを通してしまうから意味がない」「布マスクは見栄えが悪くてつけたくない」「洗うのが面倒くさい」「メンテが悪いと雑菌が繁殖し、却って感染症リスクを高めてしまう」などだ。

■「布マスクは意味がない」?
確かにウイルスは非常に小さく、布の隙間を通り抜けてしまう。
ただ、使い捨ての不織布マスクに関しても、防御についてはたいした効果は期待できないと言われている。

長時間に渡って感染症と戦った医療スタッフの顔に、くっきりとゴムの跡が残っている写真を見たことはないだろうか?

これはマスクと顔面の隙間から病原体が入り込まないように、きつく顔面に押し当てているためだ。
「そこまでしなくても・・・」と思う人もいるかもしれないが、空気の流れというのは基本的に抵抗の少ないところに向かう。
そのため、しっかりと密着させなければ、吸気のなんと9割ほどがフィルターを通さず、顔面とマスクの隙間から流れ込んでしまうのだ。

そうなると、空気感染やエアロゾル感染からの防御について、ソフトゴムで口にあてがうだけの家庭用マスクは、マスク素材のフィルター性能に関わらずほぼ無力である、ということになる。

では何のために我々はマスクをするのか?
それは花粉・埃・他人の唾などが直接口にかからないようにするためであり、咳・くしゃみ・発声の際に自分のつばが周りに飛ばないようにするためだ。

今回の新型コロナは、エアロゾル感染についてはまだ意見が分かれているが、空気感染はせず、飛沫感染と接触感染が主な感染方法と考えられている。
そのため、唾の飛び交いを防ぐことや、口や鼻を触る頻度を落とすことが、感染拡大の予防につながると考えられているのだ。

そういった用途であるならば、あまりにスカスカなのは困るが、不織布マスクにこだわる必要はないのではないだろうか?

■「布マスクはかっこわるい」「洗うの面倒」?
使う側としては確かに使い捨てのほうが扱いやすいし、不織布マスクのほうが薄くて見栄えはいいかもしれない。

しかし、みんなが使い捨てマスクを使うとなると、単純計算で月に30億枚ほども必要になる。
それに対して、3月に日本が調達できたマスクは全部で6億枚だ。

また、欧米でもマスクの有効性を見直す動きがあり、マスクの着用を推奨する国や、公共交通機関などでのマスク着用を義務付ける国まで出てきた。
そのため、マスクの需要は世界的にさらに高まり、マスク不足は長期化・深刻化することが予測される

つまり、いくら「不織布の使い捨てマスクが欲しい」といったところで、無い物は無いのだ。
無いものねだりをしていても仕方がないので、あるもので何とかするしかない。

幸い、多くの企業が布マスク製作に取り組んでくれている。
給食当番みたいな布マスクは嫌だという人もいるかもしれないが、探してみればかわいいマスクやかっこいいマスクもあるのではないだろうか?

洗うのは確かに面倒だと思うが、状況が状況だけにわがままも言っていられない。
洗い方の解説動画なども公開されているので、参考にしていこう。

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今回の新型コロナの性質上、すでに多くの無症状感染者がいることが予測される。
市中感染が始まっている以上、自分も含めてだれが無症状キャリアか分からない状況だ。
「自分も感染しているかもしれない」という可能性も視野に入れて、感染拡大抑止に努める必要がある。

そのためにもマスクが欲しいところなのだが、十分な量の使い捨てマスクの供給は当分は期待できない。
また、家庭での一般的な用途においては、布マスクも不織布マスクも、機能面で大きな差はないと思われる。
高性能マスクを医療現場に集中的に供給するためにも、外出用・接客用などの用途においては布マスクを活用していきたい。




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