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1-3.IPOを目指す経営者・会社の資格

僭越・尊大かとも思われますが、それなりにいろいろな会社を見てきたおじさんの戯言的私見を述べさせていただきます。

IPOを目指す覚悟が本当にあるのか

IPO準備のお手伝いのお引合いをいただいた際、最初に必ず、「今回、IPOを目指される目的は何ですか?」と、訪問先の経営者の方におたずねすることにしてます。

今後IPOを目指していくことが可能な事業性、業績数値が第一必須条件ではあるのですが、それと同じくらい必要不可欠な条件は、言い換えますと、IPO準備プロセスおよびIPO後に生じる継続的・累積的な負荷に耐えられるだけの覚悟をお持ちなのか、と考えるからです。もちろん、これは主観的価値観にて、普遍的なものとは限らないとも思います。

一般的には、もちろん創業者利潤にはじまり、信用の向上、資金調達力の向上、ひいては人財採用力の向上・・・といったものが挙げられるかと思いますし、経営者の方々も、それらを回答されるのですが、本音でどう思われているのかどうかの見極めが非常に重要ではないかと私は考えております。

IPOを目指すことができるまでに事業・会社を発展してこられただけでも、本当にすごいことであるとは思いますが、その先さらにIPOされるまでには、何段もステップアップしなければならない労苦があるのが通常ですし、それらを乗り越えるためには、表面的もしくは偽りの目的認識では途中で立ち行かなくなるのと、その労苦を会社の役職員に強いることで害毒にさえなり得ると考えるからです(実際、そうした会社をしばしば目にしてきました・・・)。

最近の若手のスタートアップ経営者は別として、自発的にIPOを意識する方は多くはなく、VC含めた金融機関などからのアドバイスがきっかけでIPOを目指すことを考えられはじめることが少なくないかなと思われます。

IPOを目指すべきでない経営者・会社

当然に得られるべき創業者利潤や名誉は密かに重視されつつも、それがあまりにも強すぎそうな方・会社さんには、デメリット的なことを強調し、IPOはやめておいた方がいいですよ、とおススメするようにしてます。

例えば、会社の売上・利益は実質的にかなり出ているのに、従業員への給与は最低水準に留めてオーナー経営者個人への利得還元第一に考えられていたり、善意悪意のいずれにせよ、取引先とも法律に触れない限りのギリギリの商売関係を本当は志向している、とか・・・

(一見してこうした会社はそもそもIPOには不向きと思われる方々が多いとも思いますが、逆にこうした経営者ほどやり手の商売人で、売上や利益も実質的にかなり出ていて、事業戦略もしっかりお持ちであることがしばしばあるようにも思います。)

会社訪問時における従業員の方々の顔色や雰囲気、経営者の取引先に対する考え方および取引先からの信頼度はじめ、多面的な様子から見えてくるもの、氷山の一角的にちらっと表面に見えているものからうかがえるもの、からの主観的見立てにはなるのですが・・・

もちろん、オーナー経営者であれば、全てのリスクを背負われているので自己責任で自分の会社を自分の好きなようにされて全く問題ないですから、上記が悪いとは全くいえないとも認識しております。

しかし、それが染みついて脱却・転換するのが難しい方はIPOには不向きと考えます。

事業性や業績の成長可能性が飛びぬけて魅力的でない限り、逆に「IPOを目指すと、近頃では年間2~3千万円が視野に入っている監査法人へのコストや、体制整備にかかる人財補強の費用、IT統制対応ふくめて必要になるかもしれないシステム関連費用を考えると楽に1億円くらいのIPO準備コストがかかってもおかしくないですよ」や「上場すると、やり方を間違えるとコンプライアンスやガバナンスが事業の足かせになることもあるので自由に経営ができなくなりますよ」といったことをお話すると、ほぼ大抵のそうした経営者の方は、「知り合いからはIPOのデメリットとして聞いており、反対されましたが、やっぱりそうなんですね、面倒でそれは困るのでIPOを目指すのはやめておきます」と言っていただけます。

商売的には、経営者をその気にさせてIPO準備支援業務の受注につなげていくべきかもしれませんが、上記の覚悟をお持ちでない、もしくはプライベートカンパニーからの転換が難しいと見受けられる経営者・会社さんでは、本当にIPOするだけの経営体質に改善していくための会社の基盤づくり・基礎工事が途中で頓挫するか、進まないのが遅かれ早かれ待ち受けているのが通常です。

家の建築工事に例えるなら、軟弱地盤ならば、土壌改良か杭打ちを行った上でしっかりとした基礎工事の上に上物を建てるべきですが、「目に見える上物のイメージに重点を置いて高く早く売れるようにしてくれ。基礎は目に見えないからコストはかけすぎるな」と言いそうな施主業者さんと仕事することは、一般個人の買主さんに対する長期的責任を考えると、個人的にはできないなというイメージです。

都合の悪いことも含めてIPOを目指せるか

ひと昔前に比べますと、経営者・会社の方々もいろいろと情報を仕入れて、面倒なこともある程度は認識された上で、IPOを目指そうかなという判断をされることが増えているとは感じますが、やはり周囲の金融機関などIPO業界のプレイヤーから善意悪意のいずれにせよ、都合の良い面だけ聞かされてその気になられていることも、まだまだあるかなとも感じています。

確かに、スタートアップ企業も含めて、スタートしないことには何も始まらないので、始めることで経済活性化につなげていく大義はあると考えますが、都合の悪いことも同様に耳に入れてあげて、その上で経営判断していただくことが全体最適につながるのではないかと考えます。

逆に、いわゆるIPOのデメリット的なこと、すなわち、コンプライアンスやガバナンスの本質的実践による経営責任や社会的責任を果たすことや、開示体制維持などに伴う固定費増大などについて、IPOすることにおける当然の責務と捉えていただけそうな経営者・会社の方々ならば、事業性や業績の成長可能性は微妙なところがあったとしても、やりながらそこの手当てはしてもらえばよいという前提で、管理体制整備については我々の対応できることは最大限支援させていただく、事業性についても知り合いのサポートも含めて貢献できる余地をできる限り探っていきたい、というマインドでお手伝いしてきております。

こちらサイドの経営者や会社さんですと、いろいろとお話していく過程で、もちろん甘い対応では経営が成り立たないので厳しめではありますが、役職員の方々や取引先などのことも本当に考慮されているのが伝わってきます。
こうした会社さんの場合、支援者としても惜しみなくサポートさせていただきたいと思いますし、おそらく役職員の方々や取引先などの方々の協力も自然に得られて会社の更なる成長発展が望めるとも思われます。

青臭い理想論を述べているかもしれませんが、少なくともでたらめな、もしくは表面的なIPO準備をして、そうした会社は上場審査承認までに至らないとは思いますが、万が一、スクリーニングをすり抜けてIPOしてしまい、一般投資家にご迷惑をおかけしうることだけはするまい、と思っております。

ちなみに、VCなどの外部投資家に過半数のシェアを支配された会社がファンド期限内に、IPOを早期に機械的に目指さざるを得ないというケースで、株主が売り抜けさえできればよい、という状況の会社があった場合、もはや対象会社は金融商品でしかなく(ドライにはそのように捉えられている金融プレイヤーの方々も少なくないかもしれません。またこの場合はM&Aによる持株売却が通常とも思われます)、きちんとしたIPO準備がなされないまま、世に送り出されてしまう可能性もあるでしょう。

しかしながら、私見としては、会社は金融商品ではなく、あくまで様々なステイクホルダーとの関係で存在している、生身の人間たちのベクトル集合体と認識しておりますので、そうした事情があったとしても、中長期的に企業価値を向上していける会社としてIPOしていただきたいとも願っております。

きれいごとだけでは世の中進まないので難しいところではありますが。。。