スポーツビジネス談義_

スポーツはテクノロジーの実験場

スポーツはテクノロジーの実験・実用化に有効である、という話です。

以前、スポーツコンテンツ自体の価値について記事を書きました。

今後、このスポーツの価値を、「企業がどのように活用できるか?」というテーマで記事を書いていきます。

そして、まずはスポーツの「テクノロジーの実験場」としての側面に触れていきます。

はじめに -テクノロジーと企業価値の関係-

昨年、「テクノロジーを活用しない企業は2023年に46%の増収機会が失われる」というアクセンチュアの調査結果が発表されました。(※20カ国8,000社以上を対象にしたアクセンチュア社最大規模の調査)

クラウド、アナリティクス、AI、ブロックチェーンなど、サービス価値を高めたり、業務を省エネ化するテクノロジーは多く存在します。

世界有数のITリサーチ会社であるガートナー社が発表するテクノロジーの「ハイプサイクル」を見ると、今後どのテクノロジーが実用化フェーズを迎えるかがよくわかります。

注目されているブロックチェーン・AIは「幻滅期」におり、今後急ピッチで実用化に向かっていくと考えられます。このようなテクノロジーは新たなサービス、新たな体験を生み出すことになるでしょう。ゆえに、その恩恵を受ける企業も多く生まれるはずです。

しかし、アクセンチュア社のレポートによれば、そのテクノロジーの実用化が進捗しているか否かによって、企業価値に大きな差がついてしまう、ということも事実です。

このように、多くの重要なテクノロジーが勃興し、その実用化レベルによって企業価値に差がついてしまう環境カにおいて、面白いことに、テクロジーを実用化して成功している企業の多くが、スポーツをうまく活用しています。ITの巨人であるSAPが良い例でしょう。

IT企業がこぞってスポーツクラブ経営に踏み切っていることをみても、テクノロジーの実験場としてのスポーツの可能性が垣間見えます。

この動きは日本だけではありません。世界的IT企業であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)もスポーツに参入し始めています。

そこで今回は、スポーツがテクノロジーの実験場として有効である理由について触れていきます。

理由① 大量のデータがあるから

スポーツが実験場として優れている一つの理由は、大量のデータを有している点です。

最も実用化が注目されているテクノロジーの一つは人工知能でしょう。そして、人工知能の実用性を確認するためには、大量のデータを用意する必要があります。

特に、最もビジネスでの活用が進んでいる「機械学習」という人工知能(以下、AI)をつくる手法は、大量にデータがあればあるほどその精度が高まります。

余談ですが、「機械学習」という手法の中でも「ディープラーニング」の実用化によって、人間にも解決できない複雑な問題をAIが解決できるようになってきています。

AIの発展によって、自動運転やAI医療が実現し始めています。

ここで重要なのは、このAIを発展させるために必要な大量データは、「きれいさ」が重要であるということです。例えば「ある動物の顔が猫か犬か」を当てるAIを開発しようと思った場合、「猫と犬の顔」の画像を大量に集める必要があります。猫のしっぽや犬の鼻だけでは駄目です。これは「画像データの範囲」の話ですが、「言語データの長さ」や「音声データの言語」等、データはある一定のルールに則り「きれいなデータ」に加工する必要があります。

スポーツでは、どんな競技においても一定の競技時間、競技場、競技ルールがあり、一定の条件下での様々なデータ、例えば「走行距離」「シュート数」「心拍数」等を大量に入手することができます

また、スポーツに関わるデータはそれだけではありません。例えば、スタジアム・アリーナへの来場者、ファンクラブ会員へ視野を広げれば、「一定エリアでの移動情報」「SNSでのエンゲージメント」等、様々なデータを収集することができます。

こういったスポーツに関わる様々なデータをうまく活用しているのが米ドジャーズです。ドジャーズは、自社が有する様々なデータを外部へ開示し、そのデータを活用したい企業との協業を進める取り組みを2015年に実施しています。

このプログラムでは、ドジャーズが有する「トレーニング効果などのデータ」「各種ビジネスに関するデータ」等がオープンにされ、主にはベンチャー企業がそのデータを活用することでテクノロジーを実証し、企業価値を向上することができます。ドジャーズは、その対価としてベンチャー企業に出資することでリターンを得る、あるいは協業によってサービスの付加価値を向上する、という仕組みです。

このようなプログラムは「アクセラレータープログラム」と呼ばれ、日本でも横浜DeNAベイスターズや清水エスパルスなどが実施しています。

このように、スポーツチームが持つ機密性のあるデータ、しかもそれなりに「きれいなデータ」を開示し、それを活用させることで、ベンチャー企業との協業を促進する取り組みは増えています。

なお、これまで本家ドジャーズのアクセラレータープログラムのように出資機能を伴うものはありませんでしたが、電通が出資機能を有した本格的なアクセラレータープログラム「SPORTS TECH TOKYO」を立ち上げています。


このように、スポーツが持つデータを企業が活用する場はどんどん増えていくでしょう。上記のような取り組みは日米だけでなく、欧州でも行われています。

また、企業側からスポンサー契約を行うケースも多々存在ます。2019年には、Googleが、データアナリティクス・機会学習の実証実験を一つの目的として、NBAウォリアーズとスポンサー契約を締結しています。

このように、スポーツの有する「大量のきれいなデータ」は、そのブランド力も相まって、特にAIの精度を世の中に知らしめたい企業にとって魅力的なのです。

理由② リアルタイムコンテンツだから

スポーツがテクノロジーの実験場として優れている理由の二つ目として、リアルタイムな動画の送受信が求められるコンテンツである、という点が挙げられます。

それは、昨今、注目されているテクノロジーの一つである「5G」を活用した新しい体験の実証実験に適しているからです。高速通信を可能にする5Gは、4Gの10倍の速度でのデータ通信を可能にし、これによって特に動画配信領域のビジネスは大きく変革すると言われています。

この5Gをスポーツで検証している象徴的な事例はソフトバンクです。ソフトバンクは2016年、(噂ベースではあるものの)4年間で120億円以上の契約でBリーグのトップスポンサーとなり、その挙動が注目されています。

ソフトバンクがBリーグへのスポンサーとなり、そのコンテンツを活用して最も行いたいことは、5G技術のテストでしょう。例えば、「自分が見たい選手だけを観戦する」等の様々な新しい動画体験を実験しています。

スポーツはリアルタイムで楽しむことに意義がある珍しいコンテンツであり、スタジアム・アリーナに足を運べない以上は手元のスマホ・タブレットで楽しむ必要があります。

これまでの通信インフラである4Gでは、どうしても通信容量に制限があり、映像が粗かったりしました。しかし、5Gにおいては、高画質でリアルタイムに楽しめるだけでなく、視点の切り替え等もスムーズになったり、AR機能を搭載したりと、会場での観戦とは違った楽しみ方が実現されつつあります。

このように、スポーツがリアルタイムコンテンツであるからこそ、5Gが実現する高速通信を実験する場所として優れています

スポーツ動画を扱うベンチャー企業に対する出資を行う企業も少なくありません。例えば電通は、2016年にスポーツ観戦向けVR動画配信を手掛けるLiveLike社に出資をしています。

また2019年には、NTTドコモがAIを活用してスポーツのハイライト動画を生成できる技術を持ったWSC Sports社に出資しています。

ソフトバンク、NTTに触れたので、残る通信会社1社のKDDIの取り組みも探してみますと、5G時代を見据えて、しっかり活動されています。

このように、リアルな通信インフラを試す場として、スポーツは非常に優れてます。

理由③ 成長産業だから

上述したLiveLIke社・WSC Sports社等もそうですが、スポーツ×テクノロジーでビジネスを行う企業も増えています。これはスポーツ産業が拡大していることが大きく起因しているでしょう。

2019年には、スポーツの活用方法によってIT企業を分類したカオスマップがNTTから発表されました。

TENTIAL社が2020年に発表したもう少しシンプルなカオスマップもあります。

いずれにしても、日本だけでみても、これ程多くのIT企業が、既にビジネスとしてスポーツに関わっているのです。

グローバルでみると、より面白い事例が見つかります。

例えば、ブロックチェーン技術を持つChiliz社は、ファンがスポーツチームに対してより少額かつリアルタイムに支援し、面白い体験リターンを得ることができるような仕組み「Socio.com」を提供しています。

パリ・サンジェルマンはこの仕組みを使って、ファンに対して新たな体験を提供することにチャレンジしています。

他にも「スポーツテック系」と呼ばれるビジネスは枚挙にいとまがありません。Startup Cityという米国のスタートアップ情報特化型メディアでは「Sports Tech」という分野での注目企業を特集する等しています。

また、スポーツテック分野には、スタートアップに限らず、もちろん大企業も参入しています。

おそらくこの流れは、スポーツ産業自体が成長産業であることが大きな背景でしょう。

このように、成長市場であるスポーツに多くのIT企業が参画し、自社テクノロジーを実験するだけでなく、そのテクノロジーを活用し、スポーツ領域だけで収益化を目指す動きも増えています

最後に -東京五輪も実験場-

2020年、東京五輪も、大規模なテクノロジーの実験場になるでしょう。

東京五輪のTOPパートナーであるインテル社の鈴木社長は、「テクノロジーを活用し、同大会史上もっともイノベーティブな大会にしたいと思う。インテル社にとって大きなマイルストーンになる」と語っています。

インテル社という、世界有数のIT企業がその実験場として五輪を活用しようとしているのです。

そして、東京五輪のビジョン自体が「史上で最もイノベーティブ」でもあります。

ビジョン

世界中の企業が、東京で最高のテクノロジーを実験し、僕たちを楽しませてくれること、ひいてはそのテクノロジーを実用化し、僕たちの生活を豊かにしてくれることを期待します。

1964東京五輪が、新幹線開通やテレビ普及を促したように。



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