昭和の面影を見つけて(過去記事マガジンおまけ記事vol.3)
派遣バイトで、夕方6時過ぎにある大きめのターミナル駅に着いた。
自分はアラフィフで会社を辞めて、派遣バイトなんかをやっている。
その日は、夜7時から朝にかけての仕事だった。
夕方だから沢山の人が行きかっている(例の騒ぎより前のはなしです)
やっぱり腹ごしらえをする必要がある。
この界隈だと選択肢は結構あるのだが、通りのはずれにある牛丼店が脳裏を掠め、結局そこに落ち着いた。
その街は、あんまり派遣のバイトでは来ないところなのだが、何せ高校生の時分に結構お世話になった街だ。
といっても当時といまでは、そのターミナルはずい分変わってしまい、高校生のときにはなかった百貨店のビルが立っている。
やっぱりあった、まだあった。
記憶が間違ってなければ、高校生の時一度はいった。
だから、もう30年とかになるのだろうか。あるいはそれ以上か…
(自分は年齢的にアラフィフです)
店内にはいり椅子に腰かける。
時間帯もあるのか、そこそこ席は埋まっている。
お茶がきてメニューを頼むと、前方を見つめる。
厨房のあたりが目に入る席だ。
コンクリートがむき出しになっていてしかもひび割れており、鉄板に年季の入った錆のようなくすんだ汚れがある。
柱のあたりには油のようなものがこびりついている。
「昭和のままだ…」
今日的観点からは、Twitterに何か悪く書かれても不思議はない気がした。
しかし、自分はただそれだけのものに打ち震えるほどの感動を覚えた。
大半のものが近代装備に代わってしまったそのターミナル周辺で、思わぬところで、思わぬかたちで昭和と再会してしまった。
「ここだけは変わっていない…」
あたまの中に突然、高校生のころのこの街と思い出のようなものが、軽いセピア色のフィルターがかかって広がりだす。
もっとも、その店だって何から何まで今日、昭和のままではなく、ICカード決済にも対応しているし、客席やテーブルもそんなに古臭くない。
しかし、店の一角、厨房のある一角はあきらかに当時の痕跡をとどめている。
牛丼を食べ終わって会計を済ませると、少しだけほろ酔い気分で仕事先に向かった。
それから、3,4か月経ったろうか…
やはり派遣バイトなのだが、前回とは違う仕事先で、またそのターミナルへ降り立った。
またもや夜仕事で、腹ごしらえのため、前回の記憶を引きずって、例の牛丼屋へ直行した。
運よく(?)前回と同じ席がたまたま空いてたため、そこに腰を下ろし注文する。
前方をみる。
明らかにリフォームが為されていた。
ペンキのようなものを上から塗ったとか、その程度ではなく、結構思い切ったリフォームで、前回見たときの形跡をほとんどとどめていない。
また昭和に会えるという微かな期待は裏切られてしまったが、そのリフォーム措置は何もかもが妥当であり、誰も何も間違っていない。
牛丼を食べ終わると、店を出てバイト先へ向かった。
誰も何も間違ってないその措置に、すこしさびしい気持ちになった。
バイト先に向かう自分のこころの中には雨が降り出していた。
(あとがき)
じつは近日中に過去記事を有料マガジンとしてくくろうと考えてまして、これは、そのマガジンにつけるオマケ記事のひとつで、本来は有料なのですが、投稿から4日間に限り無料で読めます。
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