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アフター『急に具合が悪くなる』の世界へ(序)

はじめに

この本を買ったのは2019年10月。Twitterで病理医ヤンデル(@Dr_yandel
)さんが激賞し激奨していたから。ヤンデル先生はいろんな本を激賞し激奨されるのでなかなか付いていけないけれども、すばらしい本に出合わせてくれている。『急に具合が悪くなる』のそのうちの一つだったけれど、哲学者と人類学者による往復書簡で、病(がん)について…と知っただけで「読まねば!」となった。

著者の宮野真生子さん、磯野真穂さん、お二人とも私はお名前も著作も研究内容も知らなかったけれども、がんを人文系の研究者がどのように扱うのか。これまで読んできたがんに関する専門家の本や記事は、ほぼ理系(ほぼ医療者)だった(狭い範囲しか読んでないですが…)。

人文よ、君は扱わへんのか。そんなことも感じていた。しかもこの本は、著者の一人はがん患者なのだ。がんを飼っている哲学者が、人類学者と往復書簡という形で語り合う。扱うのではなく、語る。二人ともががんの当事者になる、希代の書だ。私は「はじめに」からガッチリと掴まれ、ブツブツと自分の考えや思いを加えたり、あわてて本棚から関連書籍を引っ張り出して読み直したり(特にありがとう、『命題コレクション』)、amazonでポチポチしまくり、どの便でもたいてい湧き上がる感情を抑えられず泣きながら(第一便から)読んだ。なんども読んだ。

読んで間もなく、磯野さんのトークイベントがあると知って、すぐに申し込んだ。どうしても生(ライブ)で話を聞きたい。炎の人類学者を体感したい。私はかなりの部分で「体感」が必要なタイプで、無くてもいいっちゃいいんだけど、可能なら感覚を総動員してわかりたいのだ。説明しづらいんだけど、文字情報(音声や映像でも)だけでは自分がわかってるのかどうか、なんか疑問なので…。

トークイベントでの磯野さんの対談相手、参照される文献など、どんどん知りたい・わかりたい対象がひろがっていく。そして、ありがたいことに磯野さんへのインタビューも実現した。

そうやっていくうちに、たぶん私は変わった。偶然のこの本との出会いで、宮野真生子と磯野真穂に出会ったことで、変わった。これからも変わっていくけれど「ビフォア『急に具合が悪くなる』」には戻れない。

磯野真穂さんは、いま「独立人類学者」となって発信を続けておられる。ちょうど1年前に宮野-磯野往復書簡が始まった日に、「読んでくださった皆さまへ」とのTweetがあった。

たった1年前のことだったのだ。このスレッドはこう続く。

なので、私は磯野さんのツイートと共にもう一度、読み始めた。そして、磯野さん自身のツイートには触れずに、読むたびにブツブツと出てきた私の思いだとか考えだとかを記していこうと思った。刊行時に「口をつぐまないでほしい」と書かれていたし、私自身もわーわー言いたいこと(書きたいこと)が山のようだったけれども、躊躇したままになっていた。

もちろん、公的な記事にする下心もあったのだけれど、収まりきらないことがよくわかったし、現在のコロナ禍で自分の取ったある行動が「アフター『急に具合が悪くなる』」であることを実感したから、やはり記していこうと決めた。

一便ずつ語りつつ、「アフター『急に具合が悪くなる』」までを記していこうと思います。宇多田ヒカルの「初恋」の一節を再生しつつ…。

欲しいものが
手の届くとこに見える
追わずにいられるわけがない
正しいのかなんて本当は
誰も知らない
(宇多田ヒカル「初恋」より)

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