見出し画像

しみじみと美味しいロシア料理の秘密をエピソードから探る―スープ編

『はじめてでも美味しく作れるロシア料理』著者ヴィタリさんに訊く、もうちょっとロシア料理のことーvol.7ー

料理が大好きというロシア人のオペラ歌手、ヴィタリ・ユシュマノフさんのとっておきのロシア家庭料理のレシピが、はじめてでも美味しく作れるロシア料理という一冊の本になりました。この連載では、本に収めきれなかった貴重な解説を含め、いくつかのレシピを特別に公開しています。
ロシア料理のレシピだけでなく、その特徴や成り立ちについても熱心に調べているヴィタリさんのノートから、今回はスープのエピソードをピックアップしてご紹介します。詳しい作り方が気になる方は、ぜひ本書を見てみてください。
前回の記事はこちらからどうぞ。

ピクルスたっぷり、酸味がクセになるスープ「ラッソールニク」

牛肉、じゃがいも、玉ねぎの基本材料に、ピクルスがたっぷり入ったスープ。もち麦入りの食感も、日本人には新鮮です。

ロシア料理の特徴は〝酸味塩味〟。その味付けで、15 世紀からずっと人気のあるスープです。
このスープではピクルスをびっくりするほどたくさん使いますが、大丈夫。とても爽やかな味わいです。

ラッソール/рассол」は「塩漬汁」の意味です。
19世紀初め頃、塩漬汁を詰めたパイのことを「ラッソールニク」と呼び、塩漬汁のベースとなるスープのことを「カリヤ」と言いました。
だんだんそのパイは作られることがなくなり、いつの間にか「ラッソールニク」はピクルスや塩きゅうりで作られたスープの名前になりました。

ロシアではよい塩漬汁を作るためにハーブなどを駆使します。
ラッソールニクにはサワークリーム黒パンを合わせるのがオススメです。

風邪を撃退する「ラプシャの入ったチキンスープ」は母の味

手羽元だけでなく、鶏むね肉やもも肉でも美味しく作れます。麺は家庭でも簡単に作れて保存もきくので、まとめて作りおくのもおすすめ。

古代エジプトでは、抗炎症作用があると考えられていたチキンスープを、ロシアでは、風邪のときによく食べます。幼稚園の頃、よく風邪をひく私に母が作ってくれたのを思い出します。

1万2千年前の新石器時代、養鶏が行われ始めた頃にはもう、お湯を使った簡単な料理があったそうです。シンプルなチキンスープは、その頃からあったのかもしれません。
世界中の様々な地域でチキンを使ったスープは作られていますが、ロシアにももちろんあります。ソ連時代の鶏肉は品質があまりよくなかったため、シンプルに焼くより、煮込んでスープにしたものでした。

この本で紹介しているレシピは、麺(ラプシャ)も入るので、ワンディッシュでお腹が満たされます。私は自分で麺を作ることが好きなので、本書では麺の作り方もご紹介していますが、市販の麺を使っても、もちろん美味しく作れます。

父との思い出も蘇るロシアの定番スープ「きのこのスープ」

じゃがいも、にんじん、玉ねぎと、好きなきのこを煮込む。もち麦も入って美味しい!

ヨーロッパでは、きのこのスープは定番。特にハラタケヤマドリタケ(ポルチーニ)アンズタケなどが人気があります。
フレッシュきのこで作るのが基本ですが、長い冬は、ドライきのこで作っていました。私は物理探査者の父と毎夏、北ロシアに行って、森できのこをたくさん採ってストーブで乾かし、家に持ち帰りました。

きのこのスープはアジアに生まれたそうですが、ソ連時代からロシアでも、とても一般的な家庭料理です。それぞれ家庭ごとに、オリジナルのレシピを持っているかもしれません。
この本で紹介しているのは、私の家族のレシピです。ドライきのこで作ってもとても美味しいのですが、私はいつも新鮮なきのこを使っています。

次回は4月8日(金)に掲載予定です。どうぞお楽しみに!
これまでの記事は、こちらから。

文:Vitaly Yushmanov(ヴィタリ・ユシュマノフ)/サンクトペテルブルク生まれ。マリインスキー劇場の若い声楽家のためのアカデミーで学ぶ。ライプツィヒ音楽演劇大学を卒業。2015年春より日本に拠点を移す。びわ湖ホールオペラ、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」、「東京・春・音楽祭」、NHK-FM、NHKワールド・ラジオ日本、BSテレ東、NHKワールドTV、東京芸術劇場他の全国共同プロジェクト、新国立劇場オペラなどに出演。「日本トスティ歌曲コンクール」第1位、「日伊声楽コンコルソ」第1位、「東京音楽コンクール」など、受賞多数。これまでに4枚のCDをリリース。幼いころからの料理好きが高じ、YouTube「Café Vitaly」(カフェ・ヴィタリ)でも、その腕を披露している。
オフィシャルサイト:http://vitalyyushmanov.com/
twitter:https://twitter.com/vitaly_jpn
写真:ローラン麻奈