定休日と世界線

大した話ではないのだけど、去年の今頃、仕事を数日間休んだ。
ペグを回しすぎたギターの弦が弾け切れたように訪れた限界だった。

必要以上に詳しい理由とともに「休みます」とメールしたのが、その日の夜だったか、翌日の朝だったか。呼吸のテンポが妙に意識されて仕方がなかった。

休んだその日は晴れていた。
晴れているし、何か決定的なことがある気がして、外に出てみようと思った。そこには楽しみで燻る気持ちだけがあり、僕を追い立てるものは何もなかった。

近所の大通りを車がスイスイと走る横を歩いた。随分前に一度だけ入ったことのあるパン屋の前まで来て、入ることにした。
ガラスの扉の内側に小さな板が掛かっていて、営業時間と「定休日 木・日」と書いてある。
木曜と日曜は、僕の休日でもあった。つまり、仕事を休まない限りここのパンは買えないということ。

もちろん仕事を早く切り上げたら来られるんだし、夏休みなどは例外だけど。

なんだか仕事を自己都合で休んだ日にこのパン屋に来たことが、象徴的なことのように思えてしまう。自分をすり減らし続けて働く世界線(大げさ!)に、このパンは無いのだ。

今年になって、休日の曜日が変わったので実はそのパン屋に普通に行けるようになった。あの日の帰りに陽光のなか、ベンチで食べた塩パンは今は象徴的でも何でもない。

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