見出し画像

意識高い系会社に低い系が入社したはなし②

地獄の飛び込み営業


遂に入社してしまったわたしに待ち受けていたのは、
新人定番の飛び込み営業だった。

こんな時代の先を行く会社にまだ飛び込み営業が残っているなんて
正直思っていなかった。

面接の段階で確かに聞かされてはいたが、
はやく転職活動を終わらせたい一心で
元気よく「大丈夫です!」と答えてしまった自分を殴りたかった。



なぜこういう時、人は己の心に正直になれないのだろう。
大丈夫なわけないじゃないか。
でももう逃げることはできない。

ロープレという名の飛び込み練習をこなし、
ご丁寧に用意された1日30件というノルマと訪問リストを抱え、
わたしはサナギからチョウとなり街に飛び立った。






飛び立っただけだった。

わたしの正体は、断られたらすんなり帰る激チョロ営業チョウだった。

かろうじて日本語があまり通じない外国の方のアポを取ったが、
蓋をあければ先輩の担当クライアントの系列だったので
もちろんアポにはならなかった。



私ってこんなに無能だったか??
せめて日本語通じる人のアポ取ろうな??
と少しショックを受けたことを覚えている。



とはいえこんな日々をずっと送るわけにはいかない!鍛え直さないと!!

…となれば優秀営業チョウに生まれ変われるのだが、
根がサボり症のわたしは残念ながらそうはならなかった。



即浮かんだのは、

  • 飛び込んだことにすること

  • アポがとれたことにすること

  • 全力で頑張ってる感を出すこと

この3つだった。

言われる前に言っておく。
わたしは紛れもなく最低の社員だった。

だがこの手法は、後にわかったことだが
この会社に少しはいる意識低い系仲間の内では
定番の手法だったのである。

  

そして入社3日で辞めたいと思いながらも、
わたしはこの手法を繰り返した。

  

それにしてもなぜバレなかったんだろう。
学生時代の演劇経験が身を結んだのかもしれない。
とんでもない実の結び方で過去の自分には本当に申し訳ない。

  

嘘のアポ(業界用語では空アポ)のために商談の練習をし、
意気揚々とあるはずもない商談に向かい、
受注できませんでした!と報告をする。

そりゃそうだ。商談相手はいないのだからね。

今から思い返しても本当に無意味で無駄な時間を過ごしたし、
自分が上司なら飛び蹴りしていたと思う。ご時世的にできないけれど。


だが、本当にこのままではいけなかった。

一件契約をとらないと永遠に飛び込みから解放されないという恐ろしいルールがあったのである。

流石に一ヶ月経っても受注がなかったら怪しまれるので、
少しだけ本腰を入れざるを得なかった。

そして無事に一件、
奇跡の受注を成し遂げることができた。

これに関しては本当に奇跡だった。

決済者がたまたま私と同じ趣味だったおかげで盛り上がったのだ。

営業は人対人とはよく言ったものだ。

  

 

こうしてわたしは、いくら出社しても飛び込みしかできない日々から無事解放された。

お決まりの受注祝いサプライズ


初受注のあと、大体1週間以内にこれは発生する。

なぜか先輩に会議室に呼び出され面談のようなものをしている途中、
いきなりドアが開いて蝋燭を立てたケーキを持った社員たちがぞろぞろ入ってくる。

そして「初受注おめでとー!!」と拍手を浴びながら蝋燭を消した後、
受注できたときの嬉しさを語り、
さらにそれは“全て先輩のおかげです”と感謝の意を述べなければならない。

これだけでも十分恐ろしいが、
もっと恐ろしいのはこれが事前に知らされたイベントだということだ。

「初受注したらお祝いサプライズあるからね♪」

とハッキリ教えられている。
どこがサプライズやねん?出来の悪い彼氏か?

そのためもう先輩から謎のお呼び出しを受けた段階で「遂にきたな……。」と身構えているのだ。

なのにケーキを持った人たちが入ってきたとき大袈裟に驚かないといけないのだ。


とんだやらせである。

あの時わたしはちゃんと驚けていたのだろうか。

自信がない。

演劇経験がここではさっぱり役立っていなかったように思う。

そしてさらに恐ろしいことに、
このイベントは誕生日にも繰り広げられる。

もちろんやらせである。

   

 

今はコロナでこの悪き風習も無くなったのだろうか。

下っ端が勤務中にせっせとケーキを買いに行くあの無駄極まりない時間を過ごしてはいないだろうか。

無くなったことを切に祈る。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?