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小説『虹の振り子』

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中編小説『虹の振り子』をまとめています。 国際結婚と家族の物語です。
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#家族

小説『虹の振り子』18

第1話から読む。 前話(17)から読む。 * * * * * 第4章:虹――<スイング> 01  翌日は、朝から晴れていた。  縁側の端から、朝の光の束が細い筋となってハープの弦のように並び、居間まで射し込んでいる。光の音色が聞こえてきそうだと翔子は思った。  ――昨日、梅雨入りが発表されたというのに、空も気まぐれね。  広縁から庭に下りて、空を見あげる。  刷毛ではいたような薄い雲がたなびいていた。築山の裾で紫陽花が白くまるい顔を輝かせている。  翔子は、うーんと大きく

小説『虹の振り子』17

第1話から読む。 前話(16)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄  * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 09 「いい機会だから、私からもひとつ謝っておこう」  翔子の視線を受け止めると、父がまるで世間話でもする気軽さで言う。  雨があが

小説『虹の振り子』12

第1話から読む。 前話(11)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 04 「暑くなってきたね」  陽は射しこまずとも、ぬるく居座る熱気はすべりこむ。  父は立ち上がると、書斎机の前の窓を閉め、エアコンの