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100字物語「少年のさがしもの」

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毎回、100字でショート・ショート風ストーリーを連載していきます。100話完結をめざし、物語をつなげていきます。テーマは、少年のさがしもの。何が見つかるかは、お楽しみに。
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#100文字の世界

100字物語「少年のさがしもの」#第2話

少年は羅針盤を探していた。海沿いの国道を見下ろす高台の公園。海は凪いでいた。金木犀の香りがゆるやかな風にのって流れていく。見上げた空に雲はなく。忘れ去られたブランコのきしむ音に振り返ると、猫が走り去った。

100字物語「少年のさがしもの」第4話

少年は扉を探していた。裏通りに入ると、街は迷路のよう。雑多な色が混ざるキャンバス。兄が教えてくれた古着屋は、さびれた雑居ビルの2階。仄暗い階段の前で猫がまどろむ。背伸びして、くたびれたジーンズを買った。

100字物語「少年のさがしもの」#第46話

少年は希望を探していた。校門前の桜並木。風に花びらが舞う。裾がだぶつく真新しい制服。スーツ姿の保護者がさんざめく。去年の自分がフラッシュバックする。制服の丈はもうぴったりだ。桜吹雪に猫がダッシュする。 これまでのストーリーは、こちらから、どうぞ。 https://note.com/dekohorse/m/m355fc166d61f? また、「少年のさがしもの」をベースにした長編連載小説をはじめました。 思春期の入り口でとまどう「少年」朔の成長物語です。よろしければ、こちら

100字物語「少年のさがしもの」#第47話

少年は調和を探していた。放課後の中庭。音楽室から吹奏楽部の演奏が降って来る。不安定なサックスは新入部員だろう。『宝島』の旋律が葉桜を揺らす。尻尾を立てリズムに合わせたキャットウォークが塀の上を横切る。 これまでのストーリーは、こちらから、どうぞ。 https://note.com/dekohorse/m/m355fc166d61f? また、「少年のさがしもの」をベースにした長編連載小説をはじめました。 思春期の入り口でとまどう「少年」朔の成長物語です。よろしければ、こち

100字物語「少年のさがしもの」#第48話

少年は彼方を探していた。海からせり上がる山の頂。海風が葉擦れを奏で、木漏れ日が若葉を乱反射させ踊る。霞たなびく島影を見下ろしながら、コンビニのおにぎりを齧る。木の根道を走る蜥蜴に猫が目を光らせていた。 これまでのストーリーは、こちらから、どうぞ。 https://note.com/dekohorse/m/m355fc166d61f また、「少年のさがしもの」をベースにした長編連載小説をはじめました。 思春期の入り口でとまどう「少年」朔の成長物語です。よろしければ、こちら

100字物語「少年のさがしもの」#第49話

少年は恵みを探していた。木漏れ日の降りそそぐ緑陰を抜けた先の池。忘れ去られた小舟が一艘。柳の下でまどろんでいる。猫が跳び乗る。天から雫がひと粒。水紋をリズムで重ねる。天気予報が梅雨入りを宣言していた。 これまでのストーリーは、こちらから、どうぞ。 https://note.com/dekohorse/m/m355fc166d61f また、「少年のさがしもの」をベースにした長編連載小説をはじめました。 思春期の入り口でとまどう「少年」朔の成長物語です。よろしければ、こちら

100字物語「少年のさがしもの」#第50話

少年は鼓動を探していた。海神を祀る神社の参道に露店が並ぶ。砂利を踏む浴衣のさんざめき。天を揺らす咆哮をあげ、海から大輪の花火があがる。夜空に咲いては散る幾輪の輝き。火薬の匂いと熱気。猫が肩に跳び乗る。 (to be continued) ようやく折り返しの50話となりました。ここから話を逆に戻っていくつもりです。少年の迷いや放浪がどう続くのか。お楽しみください。 これまでのストーリーは、こちらから、どうぞ。 https://note.com/dekohorse/m/m

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第55話

生活委員の当番で校門前に立つ。なんで朝早くから、知らないヤツに挨拶しなきゃいけないんだ。あくびをしたら教師に頭を小突かれた。湊さんが笑いながら通り過ぎる。教室で話せるかな。ささやかな希望が、風に舞う。  <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:朔の同じクラスの女子 (to be continued) この話の表面(A面)は、こちら。 あわせてお楽しみください。 51話からは、舞台を逆にさか

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第57話

放課後ヨットハーバーをぶらつく。帆を張って海原を走る夢を見る。「乗りたいか」驚いて振り向くと、潮に灼かれた見知らぬ顔。うなずくと「体を鍛えるんだな」と笑う。船乗りの父さんが帰って来る。憧憬を見つけた。   <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:朔の同じクラスの女子  朔の父:遠洋タンカー乗り    (to be continued) この話の表面(A面)は、こちら。 あわせてお楽しみくださ

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第58話

新興住宅地へと続く坂を塾のバスが走り去る。「塾に行け」と母さんは言わない。でも、みんな行ってる。朔は土手に座って空を見上げる。塾の先にやりたいことは見えない。ルートは一本じゃない。父さんは言うけれど。  <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:朔の同じクラスの女子  朔の父:遠洋タンカー乗り  (to be continued) リターン篇は50話までと対になっています。 この話の表面(A面

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第59話

台風一過の砂浜に四つん這いの人影が。顔をあげると同じクラスの青山だ。「朔か。何してる」訊きたいのは、こっちだ。「嵐の後の浜は宝の山さ」と戦利品を掲げる。海は地球を循環している。父さんの言葉を思い出す。  <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:同じクラスの女子  青山:クラスメイトの男子 朔の父:遠洋タンカー乗り  (to be continued) * * * * * リターン篇は50話

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』第60話

シロップと天満宮の鳥居をくぐる。振り返ると、海が光っている。昨日、蓮から吹奏楽部を辞めると聞いた。兆しは感じていたけれど。ポケットの五円玉を賽銭箱に投げる。学問の神様でもいいか。蓮を想って柏手を打つ。   <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:同じクラスの女子  青山:クラスメイトの男子 朔の父:遠洋タンカー乗り  (to be continued) * * * * * リターン篇は50

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第61話

朔と蓮は商店街で買ったコロッケを頬張る。1年にサックスのうまいヤツがいてさ。蓮がぽつりと語る。文化祭のパートがそいつに決まったんだ。朔には言葉が見つからない。日常は変化する。それを僕らは時どき忘れる。   <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:同じクラスの女子  青山:クラスメイトの男子 朔の父:遠洋タンカー乗り  (to be continued) * * * * * リターン篇は50

100字物語『少年のさがしもの~リターン篇』#第62話

鎮守の森の崖から海に向かって蓮が叫ぶと、藪から何かが飛び出した。青山だ。「蓮か。びっくりさせるな」こっちのセリフだ。葉っぱだらけの頭でキノコを持っている。可笑しさに触発され、蓮は悩みを忘れ大笑いする。   <登場人物>        朔:主人公・中学2年  蓮:幼なじみ      シロップ:朔の飼い猫        湊さん:同じクラスの女子  青山:クラスメイトの男子 朔の父:遠洋タンカー乗り  (to be continued) * * * * * リターン篇は50