見出し画像

01 遅めのはじまり

朝8時。
夫のマサオが「行ってくるよ」と声をかける。
カーテンは閉まっていて、薄暗い。
私は布団からは一歩も出ずに、視線のみ夫へ向けて見送った。
「いってらっしゃい。気をつけて。」
マサオは一度振り返って、
「アキもね」
と一言返し、一人玄関へ向かう。

靴を履く音。
カバンを持つ音。
ドアを開ける音。
鍵を閉める音。
私は、布団の中で耳を澄ます。

四畳半の狭い部屋に押し込められた、無印良品の二つのシングルベッド。
今となっては私の独壇場で、二つのベッドに身体を渡し思うがままに布団に包まれる。

シーツの上には、触り心地の良い、毛足の長い敷マット。
もちもちのアクリル製の毛布と、羽毛がたっぷりのふわふわの掛け布団。
全てが白に統一してあって、まるで大福のようである。

寝室の二重窓の向こうからは、筋向いのコンビニへ納品にやってきたトラックのバック音がし始めた。
毎日決まった時間にやってくる。
向かいのマンションの住人も、そろそろ車のエンジンをかけて出かける頃だ。

とうに働き始めた人々の生活の音だ。

今日も寝坊をしてしまった。
世の中、皆んな頑張ってるのに、私だけこんなにぐうたらで、申し訳ないやら、情けないやら。

世の中への懺悔をひと通り終わらせて、うとうと微睡む。

起きよう。起きよう。
もう10時である。

第1話

朝の習慣を全10回を目指して書いています。
情景や心情を書く練習です。
スキやご感想、アドバイスなど頂けたら嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?