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#お酒に飲まれた日の話

みんなで「書く」ことでつながったり、楽しい習慣になったらいいな。

そんな企画に賛同したメンバーで、毎週テーマに沿って投稿しています。
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今週のテーマは「#お酒に飲まれた日の話 」です。

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(6/17 書いた後に酔っ払って寝たら夢に出てきて思い出したので加筆しました)

酔っ払い作家の故・中島らも氏の小説かエッセイで、「恋は二日酔いのようだ」というフレーズがあったと思う。僕はと言えば(特に結婚前は)性懲りもなく酒に飲まれては数々ひどい経験を重ねた。もう2度と飲むか、と思っていても1日か2日経つとまた酒を飲んでいる。二日酔いもまた恋のようなものである。

モテない青春時代を過ごした僕はシラフだと喋るのがあまり得意ではない(特に可愛い女の子の前では)。でも飲むとどうにか話ができるし、どんなキャラクターにも変身できる。つまり、酒の勢いさえあればどうにでもなる。僕は20代のころそう信じていたのだけど、ろくな目に合わなかった。酒と恋は混ぜるな危険なのだ。と言うわけで、今日は「酔っ払って女の子を追いかけるな」という教訓のエピソードを2つ。

1.アディダス

20代半ば。ある真冬の寒い寒い晩、バーで飲んでいた何人かのメンバーでクラブへ行くことになった。たしか10人ほどいたと思う、中には僕の部屋の近所に住んでいた50代の、ちょっと有名なアニメーション作家もいた(どうしてそんな人が近所にいて、よく一緒に珈琲や酒を飲んでいたのか未だにわからない)。彼がいま描いている漫画の参考にしたい、ということで皆でクラブに行くことになった。

クラブは少し町外れにある。皆でタクシーを捕まえて到着した。飲んで踊っていると目の前をヒラヒラと白いワンピースを着た女の子が笑顔を振り撒いている。そのうち僕の目の前にも来て、手に持っていたスミノフかコロナか何か、瓶の酒を差し出した。僕はそれを飲み干した。音に合わせて激しく点滅するライトに照らされた彼女がまるでコマ送りのような動きに見えた。視界の隅でスケッチをしているアニメーション作家の姿が見えた。僕はアニメーションの世界に迷い込んだようだ。

どんどん前に進む彼女を見失った僕は階段に昇りラウンジへ出てソルティドッグを注文した(目を覚ましたい時には、あの塩がとてもよく効く)。振り向くと白いワンピースの彼女がいた。仕方ないので彼女の分まで酒を注文し手渡した。テクノの鳴り響くラウンジで「きみ、誰?」と耳元で大きな声で聞かれた僕は適当な自己紹介をした。で、「君の名は」というところで彼女は振り向いて行ってしまった。

なんて無邪気な子なのだ。僕の頭を何かが撃ち抜いた。僕は上着をそのへんのロッカーの上に脱ぎ捨てて酒を一気に半分ほど飲んだ(頭の中では「トレインスポッティング」でレントンがダイアンを追いかけるシーンのつもりだった)。再び地下のフロアへ向かう彼女を追いかけて足を踏み出したその瞬間。足下が滑ってそのまま薪ストーブに激突した。激突した瞬間、痛みと共に僕の右腕から煙が上がった。

「おいおい大丈夫か」という感じで何人かが近づいてきたがあまりにダサすぎる自分の行動が恥ずかしくなり急いで外へ出た。そこら中にある雪を掴んで火傷を負った腕に擦り付ける。マイナス20度の夜に半袖姿で火傷に雪を擦り付けていると、もう熱いのだか寒いのだかわからない。前夜にイワシのマリネを作った時に塩をまんべんなく擦り付けたが僕は塩を擦り付けられたイワシの気持ちがわかった気がした。

照明の下に行って腕を見てみた。ストーブはちょっとクラシックなタイプでさまざまな装飾が施してあったのだが、薪を入れる取手の部分は三本のラインのようなものが彫ってあったらしい。そいつは僕の手首から二の腕までアディダスのジャージのような三本のラインの焼き印を入れていた。

痛みをこらえて再びクラブへ入ると女の子はいかにもヤバい男と葉巻を吸っていた。男は彼女の肩に手を回している。葉巻からはかすかにインドネシアのお香のような臭いがした。ごめんなさい、帰ります。

グループの誰かが残っているかとフロア中を探したが誰も見つからなかった。電話するとみんなとっくに帰っていた。財布を見たら500円しか入っていなかったので、雪を腕に擦り付けながら1時間近く歩いて帰った。もう家じゃなくて前々々世まで帰りたかった。

2.町でいちばんの美女

幼稚園のころ仲が良かった同級生で、とても可愛い女の子がいた。その子は中学校で僕と再会したが、地方都市の可愛い女の子というのはだいたいヤンキーと付き合い、だいたいギャルに変わってしまう。そんな慣例通り彼女もヤンチャな道を歩みいつの間にかギャルになっていた。町でいちばんの美女として名を馳せた彼女はヤンキーの男と次々と付き合っていき、次第に僕の知らない女の子になっていた。

社会人になったある日、彼女からfacebookの友達申請があった。一瞬、間違えて押したのだろうと思ったが、僕は学生の頃にバイト先で彼女のお母さんと一緒に働いたことがあり、とても仲が良かった。彼女のお母さんが元気かどうか聞きたかったので「承認」を押した。

当時の僕はfacebook上で誰も読んでいない映画レビューを書いていたが彼女だけが反応した。そのうち彼女と僕だけでレスが200以上を越えるぐらい盛り上がった。特に園子温監督(当時は満島ひかり・安藤サクラの出世作となった「愛のむきだし」で有名だった)の話題で盛り上がり、そのうち直接会おうということになった。

相手は町でいちばんの美女とヤンキー界隈で知られた女である。かたや僕はといえば中学生でパソコンに夢中になり、高校生で映画と文学とロック、いわゆるサブカル好きの地味な青春時代を過ごした、いわゆる陰キャである。陰キャのサブカルオタクと美人のヤンキーの恋。そんな映画、あっただろうか。「電車男」か。メジャーな映画を僕は何一つ見てこなかった。いや、どちらにしろそんなのフィクションだ。僕は自分を制して飲みに出かけた。

目の前にいたのはギャルでもヤンキーの女でもなく、ただただ純粋に美しい女の子だった。アイドルと会った男がよく「顔が俺の拳ぐらいだった」と言うが、彼女の顔は本当に僕の拳ぐらいだった。手なども僕の半分ほどしかないのに、身長はさほど変わらない。僕は酔った勢いでなんとか話を続けることができたし、彼女は僕の低い声がとても素敵だと褒めてくれた。それから、タトゥーの入っている女の子と付き合えるかという質問をしてきた。そんなこと考えたことがなかったけど、どうだっていいと答えた。

初めて会ったその日に、僕らは遠い遠い家まで河川敷を歩いて帰った。まだ夜の長い春の夜明け、まぶしい朝日が朝露に濡れる草を照らしていた。何もかもが僕を祝福しているように輝いて見えた。僕らはその後も何度かデートを重ねた(必ず夜に)。街を歩けばすれ違う男たちが「どうしてあんな男と?」という目で見てきたが、それも僕には嬉しかった。

僕の地元では、初夏の前に急に寒くなる日がある。そんな日に、彼女までとてつもなく酔っ払った。帰り道、河原にあるピンクのホテルの前で「温かい部屋に行こうよ」と言い出した。

人生何が起きるかわからない。ヤンキーども、見ているか。最後に勝つのは俺だ。

しかし俺は負けた。男がとんでもなく酔っ払った上に緊張してピンクのホテルに行くとどうなるか。想像にお任せする。

でも彼女とのデートは続いた。ある夜は酔った帰りに花火をした。そしてある夜は酔った帰りに星空を観に行った。彼女に告白をしたら、「私の秘密がわかったらね」と微笑んで返された。現実にそんなことを言う女の子がいると思わなかった。僕は彼女にとってただの遊び相手なのかもしれないと思った。

それから、今度こそは酔っ払わないと決めた飲んだ帰りに再びホテルへ行った。やっぱりダメだった。そこで初めて彼女の右腕にタトゥーが入っていることに気がついた。そこには僕の知っているヤンキーと彼女の名前が刻んであった。僕はあまりに酔っ払いすぎていて、彼女の消したい過去など全く見えていなかったのだと気が付いた。少なくともただの遊び相手ではなかったのだ。

しかしもう時は遅かった。その後は夏が終わり秋が来ても彼女は僕の誘いを断り続けていた。クリスマス当日に彼女から急に連絡が来た。当然すぐに彼女を車で迎えに行った。

たぶん最後のチャンスだと思った。相変わらずシラフだと何にも喋れない。僕は気づいてしまった。今晩、仮に彼女とうまく行ったとしても、きっとこの先もシラフだとうまく喋れないのだろう。彼女と一緒にいるには僕はアル中になるしかないのだ。

僕は車で町内をグルグルと周って彼女を家の前で降ろした。ドアを閉める彼女に、またね、と言って以来、会うことはなかった。彼女の秘密がかつての恋人との名を刻んだタトゥーのことだったのか、それとも別なことだったのか、今となっては知る術もない。その答えはビールの泡に消えてしまった。

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