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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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2023年5月の記事一覧

柴門ふみ『花の名前 向田邦子漫画館』を再読。柴門ふみが学生時代からの憧れを漫画にしたとき、向田邦子はすでに亡かった。小説やドラマとは違う物語の解釈や造形に私淑の深さを感じる。「思い出トランプ」収録の名作『かわうそ』も、厚子のくりくりっとした目と愛嬌が、漫画なのに向田邦子に重なる。

既視の海
1年前
9

池田晶子『残酷人生論』を読む。言葉、神、死、魂などを主題に「哲学する」すなわち「考える」ことへの旅へといざなう。1995〜97年の雑誌連載なので、彼女の思想がまだ整理し切れていない部分もある。人生なんて残酷さ、甘く見るな、という書ではない。なぜ「残酷」なのか考えるのもおもしろい。

既視の海
1年前
13

池田晶子『14歳の君へ どう考え どう生きるか』を読む。幸福とは何か、なぜ人は戦争するのか、言葉の力とはどのようなものか、哲学という言葉や術語をまったく使わず語りかける。これぞ哲学エッセイであり、池田晶子エッセンス。受験には役立たないが、人生には役立つという言葉に偽りはない。

既視の海
1年前
8

池田晶子『人生のほんとう』を読む 。先日読んだ『あたりまえなことばかり』所収の講演録が分かりやすく、講演だけの単著を再読する。初読では気にとめなかった「言葉は沈黙を伝える」という考えに大きく納得。哲学は「学ぶ」ものではなく「哲学する」ものだと、あらためて実感する。もっと考えよう。

既視の海
1年前
9

永井玲衣『水中の哲学者たち』を読む。哲学研究者による「哲学対話についてのエッセイ」。哲学者・池田晶子による「哲学エッセイ」とは異なる。詩情ある第一章は、水中というよりプカプカ水に浮いている感じ。初出が異なる第二章と第三章は、もがいているのだけれど沈んでいくカナヅチのよう。

既視の海
1年前
7

ティリー・ウォルデン『are you listening? アー・ユー・リスニング』

ティリー・ウォルデン『are you listening? アー・ユー・リスニング』を読む。 伯母の家にク…

既視の海
1年前
6

小島一郎『津軽』詩・文・写真集

石坂洋次郎編『津軽』(方言詩・高木恭造、文・石坂洋次郎、写真・小島一郎。復刻版) を手に取る。 私が写真を撮らなくなってから、最も衝撃的で、後悔をももたらすのが小島一郎の写真だった。 『小島一郎写真集成』も手元にある。それと重なっても、『津軽』はいい。 オリジナルプリントが収蔵されている青森県立美術館に行きたい。 今夏こそ津軽を訪れるぞと、毎年のように意気込んでは、挫けている。

ポール・ハーディング『ティンカーズ 』を読む。病膏肓の時計職人が死の8日前から思い出すのは、自分を捨てた癲癇もちの父、心を病んだ牧師の祖父。幻覚の中で三人それぞれの人生が交差する。古き良きニューイングランドが味わい深い。一人の人生に絞り、じっくり描いてあればもっと良かったのに。

既視の海
1年前
5

村上春樹『眠り』、バンド・デシネ版『眠り』

村上春樹(原作)PMGL(漫画)のバンド・デシネ『眠り』(HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)と、原…

既視の海
1年前
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木村紅美『夜のだれかの岸辺』を読む 。自分探しもままならない19歳の「私」が89歳の老女と添い寝する仕事をつうじて、それぞれの孤独と罪深さ、痛みと哀れみを感じる。社会の縮図を描いているといえなくもない。共感できなくても、作中人物がもう少し魅力的であれば異なる彩りになっただろう。

既視の海
1年前
2

マルグリット・デュラス(作)、高浜寛(漫画)『愛人 ラマン』を読む。表紙や帯では映画に引っ張られている印象だったが、原作の『愛人』『北の愛人』をうまく織り交ぜ、「18歳でわたしは年老いた」という悲しみを繊細に描いている。少女の翳りに惹かれる。小説2作も読み返し、映画も再び観よう。

既視の海
1年前
4

ひとつの瞬間は永遠になりうる——ローベルト・ゼーターラー『ある一生』【書評】

1931年の冬の日、オーストリア・アルプスの麓で、壮年のエッガーはふとした予感から、山小屋で…

既視の海
1年前
6