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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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2023年4月の記事一覧

福永祥子『立方体の空』

福永祥子詩集『立方体の空』を読む。 瑞々しい言葉と懐かしさを覚える言葉が混ざり合い、不思…

既視の海
1年前
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松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』で紹介されていた川又千秋『幻詩狩り』を読む。シュルレアリスム創始者アンドレ・ブルトンに持ち込まれた3つの詩が、読み手の思考を支配し、読み手自身を映し、読み手の過去を遡らせる。心を揺さぶる詩とはどのようなものか、ずっと考えてる。

既視の海
1年前
7

はじめての小林秀雄

「批評の神様」とよばれる小林秀雄を読んでみたい。しかし、レトロな表紙の文庫本『モオツァル…

既視の海
1年前
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学ぶために読んだ2冊目の詩誌『凪』第二号。見開き2ページにおさまる詩も多くほっとする。なぜこの言葉を用いたのか、別な表現はなかったかと考えながら読む。最も響いたのは、水木なぎ『空気』。野宮ゆりさんと雪柳あうこさんは先日の詩誌『La Vague』と重なるが、実はこちらのほうが好き。

既視の海
1年前
3

松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』【書評】

行分けをしたわけでもなく、韻を踏んだこともない。しかし、これまで自分が書いてきた文章は、…

既視の海
1年前
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平田俊子『詩七日』を読む。詩をやめようかと思っていた矢先の雑誌連載。毎月7日に詩を書くと決めたものの、うまくいかず、とにかく7日にあったことを2年間つづった日記ならぬ月記。好きなのは六月、十三月、十四月。幻想的なもの、逸脱、意味不明なのもあるが、それも詩。大好きな詩集のひとつ。

既視の海
1年前
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女性詩とひらがなと手書き

高橋順子『意地悪なミューズ』を読む。 以前読んだ新井豊美『女性詩史再考』で、女言葉の本質はひらがなにあると高橋順子が指摘していると読み、その出典を探ってみた。 『意地悪なミューズ』は、第一部・二部は戦前、戦後それぞれの詩人論、第三部は著者の詩論、そして第四部は女性詩について考察していて、そこに高橋のひらがな論があった。 漢字は、目に見える具体的な物を指している場合を除き、人に緊張を強いる。それに対し、ひらがなは、一個だけとってみたら、ほとんど意味をなさない文字であると指

斉藤 倫『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』を読む。小学生の「きみ」と亡き父親の友人である「ぼく」が詩について語り合い、言葉にならないものを言葉にしようと試みる。何かとんでもないものを読んでしまった気がする。詩も物語も。いま何度も読み直し、うなっている。

既視の海
1年前
9

分かりあえなさを超えて——エリザ・スア・デュサパン『ソクチョの冬』【書評】

湿った重い雪のように、分かりあえなさが積もる。 分かりあえないのは、出自が違うからなのか…

既視の海
1年前
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サガン『ブラームスはお好き』を読む。離婚歴はあるが女性として自立している39歳のポールが、恋人の中年男ロジェの浮気を機に、裕福で美男な14歳下のシモンの求愛に応じる。だがポールもロジェも孤独感に苛まれる。フランスらしい揺れる心の描き方は秀逸。凡庸と言われようとサガンはいい。

既視の海
1年前
8

先日読んだ二人称小説である倉橋由美子『暗い旅』は、現在の場面は現在形の文末表現、回想の場面は過去形の文末に書き分け、思考の揺らぎも表わす。『この世の喜びよ』は文末が混在している。著者は詩人なので「なにを書くか」よりも「いかに書くか」を期待していたのだが、ちょっと残念。(2/2)

既視の海
1年前
5

井戸川射子『この世の喜びよ』を読む。芥川賞受賞作。社会人と大学生、2人の娘を持つ「あなた」が職場のショッピングモールで出会う客や同僚から自分の子育ての日々を想起し、淡く苦い思いを噛みしめる。静かな余情ある文章は魅力的だが、二人称で書く理由や必然性は何だったのだろうか。(1/2)

既視の海
1年前
2

斉藤倫『ポエトリー・ドッグス』を読む。犬のバーテンダーがカクテルとともに「おとおし」として出してくれる詩の数々。詩は分からなくてもいい。でも、詩は詩人の心だけでなく、読む人の心をも投影している。小説だが、現代詩のアンソロジーとしても優れていて、川田絢音の詩をもっと読みたくなった。

既視の海
1年前
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音のない輪舞曲——アンナ・カヴァン『氷』【書評】

音のない輪舞曲が耳から離れない。 世界が氷に閉ざされる直前のモノクロームなパ・ド・トロワ(バレエにおける3人の踊り)であるアンナ・カヴァン『氷』を読む。 こういう物語だと明確に要約できるようなプロットは存在しない。国境を越えて諜報活動をしている(らしい)「私」。母親からの虐待の影響で精神の発達が未熟だが、アルピノで美しい銀白色の髪を持つ「少女」。そして強大な権力を持ち、少女を連れ去っていく「長官」。主な登場人物はこの3人だけだ。 異常気象により強烈な寒波が押し寄せている