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【9/13】今、なぜフランス現代思想を学ぶのかという大問題:浅田彰『構造と力』を読む#2(基礎力向上ゼミ@ソトのガクエン)

本日は、浅田彰『構造と力』(勁草書房)の4頁~9頁までを読み進めました。※前回のレポートを飛ばしてしまったため、今回は#2となっています(#1は存在しません)。

1960年代後半から70年代にかけての学生運動の高まりと失敗を見た(あるいは失敗とみなした)80年代の若者にとっては、もはや大義名分を掲げることにも、真理探究の道に励むことにも何の意味も見出すことができません。こうした若者の感性、いわゆる「シラケ」という時代の感性を浅田氏は肯定つつ、しかし、「どうせ何にもならないだろうけれど」と言いつつ知と戯れることが、知との真に深いかかわりあいを可能にする条件であると主張します。フランス現代思想というものは、そうした80年代当時の時代背景のなかでこそ何かしらの意味を持った(持ちえた)と言えるのかもしれません。


参加者の方から、哲学や思想というものが、そのように、80年代という時代や世代の在り方を理解するツールであるとするならば、歴史的考察としての意味はあるかもしれないが、はたしてそれは、普遍的な真理や純粋な知にアプローチするという哲学や思想の本質的な部分を欠いてしまうのではないかというご指摘がありました。とても興味深いご指摘だと思います。

うまく言語化するのがなかなか難しいのですが、ごくごく一般的にいえば、戦後から現代にかけて、哲学や思想の役割が普遍的な真理や純粋な知の探究ではなくなってしまったという事実はあると思います。しかし、哲学や思想の役割というものをよりポジティブに考えてみるとすれば、哲学や思想というものは、一定の歴史的時代の制約のなかにあると同時に、つねに非同時代的、つねに時宜を逸したものであるがゆえに、近接する未来や現代の私たちが学ぶべき意義を持ちうるのだということができるのではないでしょうか。

同時代を生きる人々は、何かしらの共通理解や共通認識のもとで行動しているわけではありません。その時代の共通理解や共通認識、すなわち、その時代の思想というものは、つねに、その時代を過ぎ去った過去として経験する次世代の人間か、あるいは同時代にありながらも、より先んじた近接的な未来に視点を置くことができる人間によって記述される必要がある。それが思想の役割です。思想はつねに過去を記述するものであるか、あるいは近接的な未来の視点であるという意味で、同時代の思想というものは存在しません。しかし、思想というものがつねに時宜を逸するものであるからこそ、思想のなかには未来と地続きの部分が含まれており、未来の人間が自身の生きる時代を記述するために学ぶべき発想や思考様式をそこに見出すことができると言えるのだと思います。

たとえば、浅田彰氏が『構造と力』を書き、それを一定の人びとが読むことで、80年代という時代がもはや過去のものとして過ぎ去り、たとえ同時代を生きていたとしても、それをわずかながらに近接的な過去として把握することができるようになる。こうして初めて、その時代の雰囲気についての共通理解を事後的に形成することができるようになる。時代の雰囲気が、やや遅れて、事後的に形成されるわけですから、歴史的な時代区分を現実として生きる人々と、知や思想が記述する当の時代の在り方との間には、つねにずれが生じます。さらに、知や思想も歴史的な時代の中に含まれるひとつのドグマではあるけれども、歴史や思想が連続的なものである以上、そのドグマのなかには、今の私たちに連続するようなエピステーメーが(わずかながらに)含まれていると言える。現代を生きる私たちが『構造と力』に読み取るべきは、こうした、過去から現代にかけて非時間的に連続する知のエピステーメーの切端であると言えるかもしれません。(※図示すると下記のようなイメージになります。近接的な未来を見据えた思想が、同時代のなかにありながらも、同時代の在り方(70/80年代の在り方等)を事後的に記述する。しかし、より一層ややこしくなっているかもしれません。)

知のエピステーメーの図

とてもややこしいお応えの仕方をしていますが(事柄自体がややこしいので致し方ないとご了承ください)、『構造と力』という本自体は、浅田彰氏自身のエッセイ的な構成の巧みさや、表現・メタファーの面白さを味わうことができるという点でも、とても興味深いテキストです。

そして、『構造と力』を皆さんと集まって読むことは、テキストを読解するということに加えて、哲学や思想というものが、現代においてどのような意味を持ちうるのかを考える、とても意義深い機会になっているように思います。


次回、9月20日(火)22時は、9頁「2宗教としての知を技術としての知」を読んでいきます。少し読むペースが上がってきましたので、来月からは第一章に入れるかもしれません(とはいえ、次回は、アルチュセールやレヴィ=ストロースなどの思想家が登場するのでやや難しい箇所が続きますが)。


ご関心おありの方は、ぜひご参加をご検討ください。参加者一同大歓迎です。詳細は、HPもしくはPeatixをご覧ください。

・ソトのガクエンHP:哲学的思考養成ゼミ・現代思想コース
・Peatix:定額課金プラン



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