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火の山

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「火の山」の着想は今から四十数年前の三浪時代です。そして、2006年、私は火のついたように執筆を開始し、一息で完成させました。講談社から書き下ろし作品として、「水月」という題名で… もっと読む
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記事一覧

小説「火の山」連載に当たって

 「火の山」の連載を開始します。  「告白! 私はアスペルガーーーかも」とも連動しています…

出口汪
4年前
32

火の山一 第一章 幽霊の世界「幽霊から突然電話がかかってきたこと」

     わたしたちは、見えるものにではなく、見えないものに目を注ぐ。    見えるものは…

出口汪
4年前
29

火の山二 第一章 幽霊の世界「火の山で少年と少女が燃やされたこと」

 駅からだらだら坂を十分ほど上がっていくと、やがて傾斜が緩やかになり、道は真っ直ぐに大学…

出口汪
4年前
19

火の山三 第一章 幽霊の世界「禁断の果実を食べた罪でエデンの園を追放されたこと」

 そして、僕は恋をした。  息も苦しくなるほどの恋をした  お互いが夢を共有する。それは現…

出口汪
4年前
20

火の山四 第一章 幽霊の世界 「首切り地蔵が目を真っ赤に泣き腫らしたこと」

 水月(みづき)と喫茶店で会ったあの日から、僕の世界は微妙に変わってしまった。  僕の夢…

出口汪
4年前
19

火の山五 第一章 幽霊の世界 「水月の魂がふわふわと宙を彷徨ったこと」

 あの時から、僕の時計が壊れてしまった。  ガチャンと音を立てて割れたのではなく、ぐにゃ…

出口汪
4年前
17

火の山六 第一章 幽霊の世界「マスターが火葬場を連想したこと」

 例の喫茶店に、岡田と二人で行った。  相変わらず、マスターが一人、退屈そうに煙草を吹かしていた。店内には客が一人もいない。やはり、学校帰りの夕暮れ時である。 「マスター、久しぶり」  岡田が屈託のない声を上げる。 「おお、元気か」  マスターはこちらを振り向き、軽く会釈する。 「聞いたろ? こいつ、例の幽霊とつきあっているんだって。なんで相手が俺でなくて、こいつなんだよ」  そう言いながら、岡田は僕と並んでカウンターに座った:  マスターは二人を交互に見比べながら、「まあ、

火の山七 第一章 幽霊の世界「マスターが死後の世界を論理的に説明したこと」

 喫茶店のカウンターの端に、ノートパソコンが開いてある。A4型の、マスター愛用のやつだ。薄…

出口汪
4年前
19

火の山八 第一章 幽霊の世界「少女の部屋に少年の首が転がったこと」

 想念を変えれば、世界もまた同時に変わる。    マスターの言葉が僕の脳裏から離れなかった…

出口汪
4年前
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火の山九 第一章 幽霊の世界「キャンパスで僕が嘔吐し続けたこと」

 少年の首を抱きしめる少女、  枯れ草の中で自分の身体を燃やしてしまいたいと願う少女、  …

出口汪
4年前
15

火の山十 第二章 魔王と魔性の女「かぐや姫が月の世界に帰るとしたら」

 水月が別れを告げた理由がどうしても呑み込めなかった。  水月の母の病気と僕との別れ話に…

出口汪
4年前
12

火の山十一 第二章 魔王と魔性の女「死が永遠に続く虚無だとしたら」

 そうだ、あの時は病室には僕以外誰もいなかった。  母は買い物か何かで部屋を後にし、僕は…

出口汪
4年前
10

火の山十二 第二章 魔王と魔性の女 「かぐや姫が夜の海に帰ったら」

 夜が次第に深まっていく。K大学から駅へと続くダラダラ坂の途中で、水月がふと足を止めた。…

出口汪
4年前
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火の山十三 第二章魔王と魔性の女 「走馬灯体験が真実だったとしたら」

 深夜の電車は、人がまばらだった。  二人は電車のドア付近に立ち、真っ黒に流れる窓の外の風景を見つめていた。黒い家並みが次々と現れ、やがて、幾つかの高い煙突が見えた。それもすぐに過ぎ去り、電車はごみごみとした商店街のそばを通り過ぎた。  僕は水月の顔をじっと見つめた。水月はそれを気にする様子もなく、いつまでも流れる外の景色を眺めていた。 「洋、見える?」 「えっ、何が?」 「私たち、今同じ景色を見ているのよ」  僕は慌てて窓の外の景色を見ようとした。 「ほら、あそこに小高い丘