2022年度共通テスト国語(小説)を解いてみる話

この文章について

ちゃんとした解説を見つけられなかったから,自分で解説する。選択肢を削る根拠を手厚く解説。分量は多め。

・国語(現代文)の選択問題を解く際の思考の言語化を試みる
・共通テストに限らず文章を論理的に読むテクニックとして使える
・筆者の現役時代はセンター国語満点
・脳が終わる前に備忘録として残したい
・下記の記事から読んでいただくのがおすすめ


解いた問題

2022年度大学入学共通テスト 国語 大問2


実践

本文の要約

定年おじさん「私」は隣家の少年が設置した人型の看板がずっとこっち見てて(悪い意味で)気になる。妻と話すうちに,自分自身を案山子にビビる雀みたいだなと感じる。

看板を撤去してもらいたいんだけど少年にもその親にも言えない。「ただの看板を撤去してくれ」なんて頭おかしいと思われる。でも気になる「私」。

看板を設置した少年と遭遇。かなり下手に出たのに無視された挙句ジジイ呼ばわりされた。餓鬼が。

夜になっても気持ちが収まるばかりか,感情が高まり一線を越えてしまう「私」。勢いで隣家に侵入して看板と対峙したところ,全然ただの板で苦笑。やはり人ではなく案山子だった。

この看板,材質が思ったより立派だし針金でガチガチに固定されてる。あの少年も相当な覚悟でこの看板を設置しているんだな。その覚悟は認めてやらんでもない。

解説

問1 正解:②,⑥

「私」が少年の前に立ちはだかった理由を問う問題。結論からいうと,「看板を撤去してもらう」以外に「私」が少年に接触する理由はない。しっかりと選択肢の誤った箇所を根拠に削っていけばOK。

①:「少年にどんな疑惑が芽生えるか想像し恐ろしく思っていた」が誤り。本文では,親に撤去を依頼した結果,頭がおかしいと噂が立つことを懸念していた。
②:正解。本文中に記述あり。「私」は看板を撤去するにあたり,何かしら「少年を経由する形」をとるべきと考えている。
③:選択肢の内容に誤りはないが,「私」が少年の前に立ちはだかったことの理由にはならない。
④:同上。
⑤:「いぶかしい」とは「不審に思う」ということ。そんな記述はない。⑥:正解。とくに矛盾はない。

問2 正解:①

傍線部Bを説明する問題。本文中から傍線部Bを説明している箇所を探し,選択肢と照らし合わせる。……のだが,正解の選択肢もいまいち正解に思えない。たまにこんな問題に当たることもある。
そんなときは,「正解を探そうとしない」これに尽きる。明らかな誤りのある選択肢を削っていき,残った一つを正解とする方法を取る。
名探偵ホームズの言葉を借りると,「全ての不可能を除外して最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる」というやつだ。
そういうとき,「正解の選択肢が本当に正解か?」とか考え始めるとドツボにハマるので,見直しは絶対にしないこと。

①:正解の選択肢だが,「存在が根底から否定されたように感じた」の根拠が薄い。……が,明らかな誤りとまではいえないため,保留とする。
②:「少年から非難され」が誤り。少年から暴言こそ吐かれたが,非難はされていない。
③:「説得できると見込んでいた」が誤り。看板を撤去してほしい理由について,「私」は上手く説明できないとしていた。
④:「看板についての交渉が絶望的になった」ことで傍線部Bの感情に至ったのではないから誤り。「無視されて罵られた」ことが原因。
⑤:全体的に誤り。

問3 正解:③

こういう心情説明の問題が,感情移入して読んでると間違える問題かなと思う。あくまで本文中から根拠を探そう。

①:「共感を覚えた」が誤り。共感を覚えたという記述はない。
②:「陰ながら応援したいような」が誤り。応援したいとまでは言っていない。
③:誤っている箇所はない。
④:「この状況を受け入れてしまったほうが気が楽になるのではないか」が誤り。本文にそんな記述はない。※もちろん,無意識に④のような感情が芽生えた可能性は否定できない。しかし,その根拠がないため,正解とはできない。
⑤:「一方的に苦情を申し立てようとしたことを悔やみ」が誤り。悔やんでいる描写はない。

問4 (ⅰ)正解:②

選択肢の細かい表現を吟味すること。

①:「我が子に向けるような親しみ」が誤り。
②:正解。
③:「少年の外見や言動に対して内心では「中学生の餓鬼」「あの餓鬼」と侮っている」が誤り。やり取りの最中に少年を内心で餓鬼呼ばわりしたり侮るような描写はない。餓鬼呼ばわりし始めたのは,帰って事実を振り返って怒りが湧いてきたとき。
④:「彼の若さをうらやんでいる」が誤り。
⑤:「彼の年頃を外見から判断しようとしている」が誤り。そんな記述はない。

問4 (ⅱ)正解:①

①:正解。「私」は看板のことを「裏の男」と呼び,意識している。これは雀が案山子を本物の人間と思っているようなものであり,少年に説明したところで伝わらないと「私」は考えている。そのため少年に対しては看板のことを「物」と強調するように意識している様子が描かれている。しかしながら少年が警戒心を見せたことで思わず「あのオジサン」と人間扱いで呼んでしまっている。
②:「少年が憧れているらしい映画俳優」が本文中に記述がなく明らかに誤り。
③:「「私」は妻の前では看板を「案山子」と呼び,単なる物として軽視している」が誤り。「案山子」が単なる物であるのは人間目線である。「私」は自身と看板の関係を「雀と案山子」に見立てている。雀から見た案山子は単なる物ではなく,恐れる対象であり軽視できるものではない。よって「案山子と呼んで物として軽視」が成立しない。
④:「少年の前でとっさに「映画の看板」「素敵な絵」と表してしまった」が誤り。そのような表現にしたのは「私」の望んだ結果である。

問5 (ⅰ)正解:①

「案山子」が持つ二つの意味について,それぞれ本文中においていつ使われているのかを問う問題。
ここでいう二つの意味とは,ざっくりいうと,
・怖いもの
・怖くないもの
の2通りである。ちなみに歳時記うんぬんは読まなくても解ける。

Xに当てはまる選択肢
看板を家の窓から見ていた時の「私」は,看板を恐れていたのだから「怖いもの」がふさわしい。よって(ア)が当てはまる。

Yに当てはまる選択肢
看板に近づいた私は「窓から見える男が同一人物とは到底信じ難かった」と述べており,XとYでは案山子(=看板)に対する印象が全く変わったことが窺える。したがって「怖くないもの」と考え,正解は(ウ)。

問5 (ⅱ)正解:⑤
ここでも,案山子を「怖いもの」と「怖くないもの」のどちらで「私」が認識しているかに注目しながら選択肢を読んでみる。「私」は,前半は「怖いもの」として,後半は「怖くないもの」として案山子(看板)を認識している。

①:本文序盤では「私」は「怖いもの」と認識していたことから誤り。歳時記Cにおいて案山子は「怖くないもの」として扱われている。
②:前半と後半における「怖いもの」「怖くないもの」の認識が逆。
③:「自信を持つことができた」が誤り。そんな記述はない。
④:「自分に哀れみを感じている」が誤り。そんな記述はない。
⑤:正解。

おわりに

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