Bill Evans「Waltz For Debby」

日本で売れているジャズのアルバムの中でビルエヴァンスの「waltz for debby」は必ず入っているらしい。

自分もジャズを聴き始めた頃、良かったと思った最初の作品だった。

ロックやポップス、メタル、パンク…そういったジャンルを一通り聴いた後に立ちはだかったのが「ジャズ」という未知のジャンルであった。

前にも書いたが音楽そのものが気になったのと他に、アルバムジャケットのセンスにも惹かれたからだ。

例えばblue noteの一連の作品のジャケットをみるとそれが分かると思う、どれもこれも素晴らしいアートワークである、因みにこの作品はblue noteではなくRiversideだが、ジャズのジャケットというのは大概センスが良い、ヘヴィメタルとはえらい違いである(失礼)

そして「ジャズってなんだ?」となって聴いてみたが、最初聴いた感想は…

「一体何がいいんだろうか?」

となった(笑)

ジャズというのはメロディが無い、敢えてメロディ崩すものだからそこがまず分かりずらかったのと更に自分のようなジャズ初心者にぶち当たる一つの壁が「楽器の聴き分け」である。

例えばマイルスデイヴィスの「kind of blue」の場合、キャノンボールアダレイはアルトサックス、ジョンコルトレーンはテナーサックス、マイルスはトランペットだがマイルスは独自の「ミュートトランペット」と言われる音色なのでまだ分かったが、キャノンボールアダレイとジョンコルトレーンのアルトとテナーの音色の選別に迷った。

「一体どっちがどっちを吹いているんだ?」

「ジャズというのはよく分からない、しかし何とかこのジャンルを聴けるものにしたい」

と思い、ジャズに関する本を読んだり、他のジャズミュージシャンの作品を色々聴いてぶち当たったのがビルエヴァンスの「waltz for debby」だった。

ピアノトリオは分かりやすい、ピアノ、ベース、ドラムを聴き分けられない人はいないからだ、しかしそれだけでなく、曲の旋律が分かりやすかった。

一曲目の「my foolish heart」と二曲目の「waltz for debby」聴くけば、ジャズ=分かりづらい音楽という先入観が飛ぶかもしれない、いきなり美しいメロディだが、ビルエヴァンスのピアノはわかりやすいだけでなく「深い」。

マイルスが「kind of blue」をレコーディングする際にビルエヴァンスに白羽の矢が立ったのはジョージラッセルという人がマイルスに「良いピアニストはいないか?」と聞かれビルエヴァンスの名前を出したところ

「奴のことなら知っている、バードランドで観たことがある、全く凄いプレイをしやがる」

また彼の演奏を

「澄んだ滝壺から流れ落ちる輝く水を思い起こさせる音だ」

と言ったらしい。

当時はメンバーに黒人の中に白人のプレイヤーを入れるのは珍しかったらしいが、マイルスの有名な言葉の中で

「いい演奏をするのなら、例え肌の色が紫色でも、赤い息を吐いていても俺はバンドに入れる」

という発言の通りマイルスにとっては肌の色などどうでもいいのである、「kind of blue」が歴史的名盤になったのはビルエヴァンスの存在があってこそだろう。

ジャズには「ビバップ」や「ハードバップ」「モード」などの演奏方法があるが、ビルエヴァンスの「waltz for debbey」はそんな小難しい理論を通り越して、誰もが良いと思える作品だと思う。

この作品は実はライブアルバムで1961年6月25日にニューヨークの「ヴィレッジヴァンガード」で録音されたもので客の笑い声や喋り声、食器の音がカチャカチャ聞こえるのはその為だが、とはいえそれらの音は特に気にならない。

ちょっと大袈裟かもしれないがこのライブアルバムでの彼らの全体の演奏を聴いていると、ルネサンス期の絵画などの作品を観ている様な気分になる、中世ヨーロッパの水彩画というか…自分のような一般庶民には何か「格式の高さ」を感じてしまうのである。

確かにビルエヴァンスという人のピアノのスタイルはクラシックが下地にあるのでそれが音色にも出ているのだろう10歳の頃にはモーツァルトのソナタを弾けるようになっていたらしい。

地味に個人的に好きな部分は「some other time」のベースのイントロの部分だったりする、そしてウッドベースというのは相当弾きづらいらしい、しかし「waltz for debby」でのピアノとのユニゾンなども良いが…まぁ細かい「聴きどころ」をいちいち上げていたらキリがないので「聴きどころ」はある意味「全て」だと思う。

当時ここでのビルエヴァンス(p)ポールモチアン(ds)スコットラファロ(b)の演奏を「ながら聴き」していた多くの客はこの日の演奏が生涯語り継がれるようなジャズの(音楽の)歴史的名盤になるとは誰も思わなかったに違いない。

それにしてもこのアルバムのアートワークは何て美しいのだろうと思ってしまう、そしてそのアートワークに負けじと演奏そのものも素晴らしいのであった。

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