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愛犬 (短編小説)

今から3年くらい前の出来事(当時の私 55歳)

職場にカナという43歳の女性が入社して来た。

カナは他の同僚達とはあまり会話をしない一風変わった女性だった。

カナのデスクにはいつも 可愛い犬の写真が飾ってあった。

カナはおそらく「自分の世界感」を強く持っていた為、仕事の会議中でも内容とだいぶ逸れた発言をしばしばする様な女性だった。


私は一応 社内に個室を持つ身分で、カナは私の部屋に書類を届けてくれたりした。

数ヶ月が経ち、カナはすっかり会社の一員となり、私の部屋で二人で打ち合わせをする機会も増えて来た。

カナは私の部屋で打ち合わせをする時に、何故か着ているジャケットを脱ぐ癖があり、私はブラウスの下の大きな胸が時折気になっていた。


通常 打ち合わせでは、相手と向かい合って座るものだが、カナはいつしかソファーの私の隣に座って打ち合わせをする様になった。

そして日が経つにつれカナは座る位置をかなり私に近づけて来た。

私の部屋で打ち合わせをする時の彼女の口癖は「暑くないですか?」だった。

時折 カナは私に手作りの弁当を作って持って来てくれた。


それはラブリーな弁当では無くって、昨日の残り物を詰めた様な雑な物だった。


金曜日に私は出張で東京に行くことになった。


そして、東京での仕事中の午後にカナから私にLINEが入った。

「東京に行く用があるので夜ホテルに遊びに行っていいですか ♡ 」


私は職場での体裁等の「自分自身を邪魔する見えない物」を脱ぎ捨て、ホテルに帰る前にコンビニで超薄型のコンドームと一番高いユンケルを買ってカナを待った。

しかし 夜0時を過ぎても カナは私の部屋に現われる事は無かった。


次の月曜日出社した時、私はカナの不在を確認した。
カナの欠席理由は「愛犬が突然亡くなった為」という事だった。

それから3日くらい経ってからカナは職場に復帰したが、以前のカナと違って、無口な暗い女性に変わっていた。


私の部屋での打ち合わせ時にジャケットを脱ぐ事もなくなった、、、



それから数ヶ月後にカナは「一身上の都合」で退職した。



曖昧な旅人










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