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パパ活 (短編小説)
ある日ネットを見ていたら「沢本研二」がファイナルコンサートを行うとあった。
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私は学生時代「沢本研二」が大好きだった。今でも、カラオケに行くとシュリーの歌をよく歌う。
懐かしさやシュリーの最後の姿を見届けたいという想いに駆られた私は、コンサートチケットの抽選に応募した。
シュリーの最後のコンサートとあってチケット入手にはかなりの倍率を想定したが、あっけなく当選した。
当日は有給を取って一泊二泊の旅行で埼玉に行く事にした。
会場に近い大浴場付きのホテルを取り、現地に早めに到着して、会場近くの大型ショッピングモールを満喫した。そしてコンサート前の腹ごしらえで「吉田家」に入った。
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大型モール内の「吉田家」はこの時間でも、とても賑わっていた。
注文を終え「牛丼セット」を待っていると隣に40代くらいの一人の女性が座って来た。
シュリーの赤いTシャツを着た女性は私と同じ「牛丼セット」を頼んだ。
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まもなく注文した牛丼セットが届き、トッピング用の紅生姜を探したら隣の女性の前方にあった。
「すいません生姜いいですか?」
「あっ…どうぞどうぞ」
私は紅生姜を取りついでに女性に声をかけた。
「私も沢本研二のコンサートです」
「へ〜そうなんですね〜 嬉しい」
彼女は屈託なく微笑んだ。
「私は静岡から一泊の旅行を兼ねて参戦です」
「えっ 私も栃木から一泊参戦です」
「そうなんだ、、木村です、初めまして」
「カナです」
私とカナはシュリーの話題をしながら楽しく「牛丼セット」を食べた。
「これから木村さんもグッズですか?」
「グッズって?」
「えっ? コンサートの記念のTシャツとか色々売ってるやつ」
「あーそれか^_^ カナさん買うの?」
「はい!今回 この会場のみの限定のDVDがあるんです」
「俺も行ってみようかな」
「一緒に行きましょうよ」
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販売会場は人でごった返していた。
シュリーのファン層は40から70くらいの割と年齢の高い方が多い。
「え〜うっそ〜!」
「どうしたの?」
「木村さん見て…私が欲しかったDVD」
「あるじゃん、でも残り僅かって書いてあるよ」
「じゃなくって…値段…」
「32000円 ポスター付き、シュリーの未公開映像満載だって。 買うの?」
「って言うか、高すぎません?」
確かに想像外の値段だ。
しかしシュリーのファンは年齢が高く金銭的に余裕があるので、この値段でも買える人が多いのだろう。
「わたし無理〜、あ〜でも欲しい〜」
「ファンの心理に漬け込んだ商売だね(苦笑)」
「ど〜しよう、うっそ〜 パパ活でもしなけりゃ買えない〜」
ジャニーズのコンサート会場ならあり得そうな会話だが、沢本研二のコンサートではなさそうなシュールなコメントだ。
「え〜欲しかったのに〜、私が若かったら絶対パパ活して買ってる」
苦笑いをするしかない。
「私が今 パパ活したら、パパおじいちゃんになっちゃいますよね〜(苦笑)」
自嘲する田舎の中年女である。
「43のおばちゃんのパパ活って笑えますよね ? 私 彼氏いない歴43年の癖に(苦笑)」
さらに自嘲する。
確かにカナは43年間 モテた事が無いであろうと思った。
58歳の私とカナの歳の差は15歳か、、、
そんな事を思っていたら、ある事が頭の中に蘇って来た。
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私の初体験は15歳の時で、相手はバイト先の先輩だった。
私にとってそれは、とても切ない思い出だった。
初体験後、先輩から生理が来てない事を告げられた。
2週間が経っても、先輩に生理が来ないので私は覚悟を決めた。
当時 私は先輩が死ぬほど好きだった。
私は覚悟を決め「子供の父親となり、学校を辞め、先輩と結婚して働く」と先輩に伝えた。
マジだった。
ところが数日後、先輩は生理を迎え、同時に私はあっけなくフラれてしまった。
、、、
あの時、私と先輩の間に子供が産まれていたら43歳か、、、
今、目の前にいるカナは私と先輩の子供の同級生か、、、
「木村さん ど〜しよう〜32000円持ってない〜」
カナは欲しい物を目の前に諦めるしかないのだが、突然思い出した43年前の記憶によって私は自分がパパになった気分がして来ていた。
「カナがパパ活するならば、買ってあげるよ、、、」
自分の子供と同い年の娘に手を出す様な背徳感に私は興奮していた。
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開演時間が近くなったので、私とカナはDVDの入ったシュリーの紙袋を手に、入り口に向かった。
「え〜!!!」
二人は唖然とした。
入り口には大きな手書きの張り紙があった。
「本日の沢本研二のコンサートは都合により中止とさせていただきます。チケットの払い戻しにつきましては後日お知らせさせて頂きます」
行く場所を失った二人はカラオケ屋に行き、私は沢本研二の歌をカナに聴かせた。
私はパパになった気分に興奮し、カナは限定のDVDを買えた事に興奮した。
私のホテルの部屋に行く事にした。
沢本研二のラストコンサートは、私をパパに変え、カナを女にして終演した。
曖昧な旅人
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