新型コロナウイルス概論 ~真偽検証の重要性~
はじめに
本記事は、新型コロナウイルス感染症に関する理解をより深めて頂くことを目的とし、現時点における情報を参照しながら執筆しております。
ただし、感染症学・免疫学・ウイルス学の専門家では無いため、解釈の違いや誤りがあることも十分考えられます。是非、皆さんも一緒になって内容を精査しながら、読み進めて頂けると幸いです。
また、根拠の無い推論や飛躍的な仮説は含まないのはもちろん、デマやフェイクを意図的に流布し、人々の恐怖を煽るといった目的もございません。
上記のことをご理解頂いた上で、ここから先へお進みください。
本記事は「約26,000字」で構成されています。成人の平均読書速度(1分あたり600字)から逆算すると、全てを読み終わるには「約43分」かかります。
是非、最後までお付き合いください。
1章.新型コロナウイルス感染症の全体像
(指定感染症/ウイルスの分離/国家緊急権)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19:Coronavirus Disease 2019)は、2019年11月22日に中国の湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」が初めて確認され、12月31日に武漢市衛生健康委員会(Wuhan Municipal Health Commission)が原因不明の肺炎27例を報告したことよって始まりました。
この時点では、ヒト-ヒト感染(人から人への感染)が明らかな事例は無く、医療従事者の感染も無いとして、病原体の検出と感染原因の調査が実施されました。
WHO ( World Health Organization ) は、1月1日に中国に対して情報提供を求め、1月3日に武漢市のクラスターに関する情報を得て、1月5日に国際保健規則 ( IHR : International Health Regulations ) に基づいて、状況を世界に公表しました。
そして、1月9日には中国から「原因は新たなコロナウイルスである」との情報を受け、1月11日にその全遺伝子配列の情報を得て、1月12日に公表しました。
因みに、最初に発表されたウイルスの遺伝子配列は以下のサイトから、確認して頂くことが可能です。
日本でも、ウイルスの遺伝子配列をもとに、国立感染症研究所(NIID:National Institute of Infectious Diseases)が、PCR検査法のプロトタイプの開発とマニュアル作成に着手し、国内症例の検査を開始しました。
これは、最初の報道から僅か2週間以内という非常にスピーディーな対応です。
そして、1月16日に神奈川県で国内第1例目となる武漢旅行歴のある感染者が発表され、1月19日には韓国第1例目、1月21日にはアメリカ第1例目と続き、WHOは1月22日・1月30日に緊急委員会会議を開催しました。
また、中国における症例数が増加し、他国でもヒト-ヒト感染が確認されたことから、1月30日に新型コロナウイルスによる感染症のアウトブレイク(集団発生やエピデミックとほぼ同義)が、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC:Public Health Emergency of International Concern)であると宣言されました。
日本では、1月28日に新型コロナウイルスを感染症法に基づく「指定感染症(二類)」、検疫法に基づく「検疫感染症」に指定して公布され、2月1日から実施となりました。
因みに、指定感染症の一類・二類のものに罹患して入院した場合は、医療費の一部を医療保険適用後に公費によって負担されることが決まっています。
では、同じ二類に位置付けられている「結核」や「SARS」について、少し紹介します。
まず、結核は、結核菌によって主に肺に炎症が起きる病気で、今でも世界の死亡原因のトップ10に入る感染症です。
症状としては、タンのからむ咳が2週間以上続く、微熱・身体のだるさが2週間以上続くなどが挙げられます。
そして、世界では毎年約1千万人が新たに発病し、約150万人が亡くなっており、日本でも2020年では12,739人が新たに発症し、1,909人の方が亡くなっています。(致死率は約15%です)
また、日本では、1950年代までは「国民病」と言われており、罹患率(1年間に発病した患者数を人口10万対率で表したもの)が約700でしたが、2020年では11.5まで抑えることに成功しています。
次に、SARSは、2002年に中国南部広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたことに端を発し、32の地域と国に拡大した感染症です。
症状としては、発症第1週に発熱・悪寒震え・筋肉痛などが起こり、第2週には非定型肺炎へと進行し、乾性咳嗽(かんせいがいそう:タンを伴わない乾いた咳)・呼吸困難・水様性下痢などを発症します。
2003年に終息宣言が出るまで、8,069人が感染し、775人が亡くなりました。(致死率は9.6%です)
そして、上記2つの感染症と同じ位置づけになっているのが、今回の新型コロナウイルス感染症です。
しかし、この「指定感染症」に位置付けられていることが1つの背景となり起こった問題が、ニュースでも度々報道されていた「医療逼迫」です。
実を言うと、日本は人口当たりの病床数が世界一位の国で、感染者数(陽性者数)も比較的少なかったにも関わらず、医療逼迫という深刻な状況が発生しました。
因みに、医療機関には感染症患者を受け入れる法的義務は無く、どういう診療科で、どんな患者を受け入れるかはそれぞれが決められることになっています。
したがって、クラスター(集団感染)が起こってしまうと、2~3週間の間は完全に閉院し、収入はゼロになり、消毒などで費用もかかるなど、感染症患者を受け入れることは医療機関にとってリスクがあります。
そのほかにも、医療従事者の数が十分とは言えない点、感染症対策の設備の問題、ECMO(人工心肺装置)の操作ができる臨床工学技士が少ない問題、小規模病院に人員が分散している問題など、様々な要因が医療逼迫に関係していると考えられます。
しかし、その一方で、政府分科会の尾身会長が理事長を務めるJCHO(独立行政法人地域医療機能推進機構)傘下の東京都内の5つの公的病院では、183床ある新型コロナウイルス患者用の病床が30~50%も使われていないことが調査によって分かり、批判の声が上がりました。(2021年9月)
また、医療提供体制の整備を目的とした「病床確保支援事業」では、新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円が出る上に、ベッドは使われなくても補助金が出るため、 東京都大田区のとある医療センターでは使われていない約40床に対して、単純計算で1日284万円、1か月で約8,500万円が支払われることになっていました。
その後、政府や東京都はJCHOなど公的病院のいわゆる「幽霊病床」を問題視し、厚労省は (2021年) 10月1日に「正当な理由がなく入院受入要請を断ることができないこととされていることを踏まえ、医療機関において万が一適切に患者を受け入れていなかった場合には、病床確保料の返還や申請中の補助金の執行停止を含めた対応を行う」と通知を出しています。尚、幽霊病床の分の補助金を実際に返還するかどうかは、今のところ不明です。
話を元に戻すと、(2020年) 1月30日には国立感染症研究所が「ウイルスの分離」に成功しました。ウイルスの分離とは、検体中に存在する特定のウイルスをつかまえて、それだけを増殖させることです。(「分離」という言葉の定義は非常に難しいので、3章で再度詳しく解説します)
また、ウイルスは単独で増殖することができないため、ウイルスが増殖するための生きた細胞が必要となります。
因みに、新型コロナウイルスの分離に用いられた細胞は、VeroE6(というアフリカミドリ猿の腎臓上皮細胞由来の培養細胞)に、TMPRSS2(という呼吸器上皮に発現している宿主のタンパク分解酵素のひとつ)を遺伝子導入技術によって恒常的に発現させた「VeroE6/TMPRSS2細胞」と呼ばれるものです。
その後、国内でクラスターが発生したり、海外でも感染が広がったりという状況になり、(2020年)3月11日にはWHOが、SARS-CoV-2 ( Severe Acute
Respiratory Syndrome Coronavirus 2 )による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を パンデミック(世界的大流行)とみなしました。
そして、(2020年) 4月7日に日本では初めて緊急事態宣言が発令され、密閉・密集・密接である「3密」の回避と、強い自粛要請がありました。
ここから先は、皆さんがご存じの通りです。
因みに、なぜ日本では海外と同じようにロックダウン (都市封鎖) という厳しい規制ではなく、緊急事態宣言というものだったのか、また、なぜ飲食店などに対しても「補償」ではなく時短営業「協力金」だったのかというと、ここには憲法が大きく関係しています。
具体的に言うと、日本国憲法には「国家緊急権」が規定されていません。
この国家緊急権とは、戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害などの非常事態において、憲法秩序を一時停止して非常措置をとることのできる国家権限のことを言い、当該権限の根拠となる憲法の条項を「緊急事態条項」と言います。
そして、これが規定されている国では、新型コロナウイルスの感染拡大によって、外出禁止を違反としたり、違反者への罰則を導入したりといった、私権制限の伴う法整備が行われました。
日本も、戦前の大日本帝国憲法には国家緊急権の規定がありましたが、現行憲法には存在しません。そして、そこには、戦争の反省により、国家の暴走や権力の濫用を防ぐ目的で敢えて置かれていないという背景があります。
このため、日本では戦後、大災害など有事の際は、個別の法律を新設・改正して対応してきました。
そして、飲食店などに対して損害を補う「補償」ではなく「協力金」であった理由も、ロックダウンではないから補償できない、つまり、緊急事態宣言だから協力金なんだ、ということです。
したがって、一律6万円の協力金を配るというような事態に陥り、経営規模によっては得をする、またその逆は焼け石に水といった状況が生まれ、飲食店同士でも対立が生まれてしまう事態に陥ったわけです。
2章.PCR検査とは何か
(偽陽性/コロナ死の条件/報道の在り方)
ニュース等でPCR検査という言葉は聞いたことがあっても、実際の細かい仕組みの理解が追い付いていないという人は非常に多いと思います。
また、SNSなどでは「PCR検査はインチキ・無意味」と主張している人や「Ct値によっては何でも陽性になる」という意見も目にします。
したがって、そのあたりはしっかりと整理し、正しく理解しておく必要があるでしょう。
そもそも、ヒトの細胞やウイルスなどの生物は、DNA や RNA という物質(遺伝子)で構成されています。
DNA (デオキシリボ核酸) は、デオキシリボースという糖と、リン酸、塩基の3つの成分で構成される非常に長い鎖のような高分子で、二本鎖が一組となる、らせん階段のような構造をしています。
そして、DNAに使われる塩基には アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G) という4種類があり、この A-T-C-G の並び方(塩基配列)で遺伝子が決定されます。
因みに、二本鎖を形成する際は、対になれる塩基の組み合わせは決まっており、AとT、GとC が必ずペアになります。そして、これを「塩基の相補性」と呼びます。
これが起こる具体的なメカニズムは少し難しいですが、それぞれの塩基の分子構造から、水素結合が生まれることを把握しておいて頂ければ良いかと思います。
また、RNAは、DNAとは異なり、一本鎖です。塩基は、1種類だけ異なり、チミン(C) の部分が ウラシル(U) で構成されます。
そして、塩基配列は生物種によって異なっており、生物種毎に固有の配列の領域が存在することが知られています。
したがって、塩基配列を調べることによって、生物の種類や、病気などの異常があるかを調べることができるという訳です。
また、PCRとは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略であり、「DNAポリメラーゼ」という酵素を用いて、上述した「生物種毎に固有の配列の領域」を増幅させる技術のことを言います。
これによって、ごく微量な検体であっても、そこに含まれるわずかなDNAから、目的とする微生物や遺伝子配列が存在しているかを調べることができます。
PCR法は、アメリカのキャリー・マリス氏が1983年に発明し、1986年に実用化されました。
実際、DNAを扱う「分子生物学・遺伝学・医学・農学・科学捜査」などの幅広い分野で利用され、あらゆる研究の促進に貢献したことから、1993年、マリス氏はノーベル化学賞を受賞しています。
尚、彼は新型コロナウイルスが発見される3か月前の2019年8月7日に、ロサンゼルス郊外の自宅で亡くなっていました。74歳でした。
では、PCR法の具体的な流れを説明していきます。
PCR法では、
①検体として採取した「DNA」
②増幅したい配列の「プライマー」(以下で詳しく説明)
③「DNAポリメラーゼ」(DNAを複製させる酵素:以下で詳しく説明)
④「dNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)などを含む反応液」
の大きく 4つ を用います。
そして、以下の 3つのSTEP を繰り返し行うことによって、DNAを増幅していきます。
STEP1:熱変性(Denaturation)
STEP2:アニーリング(Annealing)
STEP3:伸長反応(Elongation)
STEP1:熱変性では、
増幅対象のDNAに94~96℃の熱を加えて、30秒から1分間温度を保ち、2本鎖DNAを1本鎖に分離します。分離が起こるメカニズムとしては、塩基対の水素結合が熱によって切り離されるためです。
なぜ分離して1本鎖にする必要があるのかと言うと、プライマーが1本鎖DNAとしか結合できないから、という理由です。そして、この「プライマー」とは、増やしたい配列の両端に結合するよう作られた、15~30塩基の1本鎖の短い合成DNAの断片のことで、Forwardプライマー と Reverseプライマーの2種類があり、2本鎖DNAが分離した後に、それぞれの1本鎖の片側に結合します。
STEP2:アニーリングでは、
徐々に温度を55~60℃に下げていき、これによって熱変性で1本鎖になったDNA鎖の標的DNA(増幅したいDNAの領域)に、あらかじめ反応液に入れておいたプライマーが結合します。
STEP3:伸長反応では、
再び温度を70~74℃に上げることで、耐熱性DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼなど)が作用し、新たなDNA分子が合成されます。
DNAには方向性があり、DNAポリメラーゼは「5’ → 3'」の方向にしかDNAを合成しません。そして、2本鎖DNAはそれぞれ逆向き且つ相補的に結合しているため、それぞれのDNA鎖の上流にプライマーを設計させることで、合成したいDNAの範囲を決めることができるという仕組みです。
こうして、プライマーを起点とし、下流方向に向けてそれぞれの鎖を鋳型に、対となる鎖が作成されていく流れです。
すると、標的DNA(増幅したいDNAの領域)は指数関数的に増幅していきます。
「指数関数的」という部分をもっと分かりやすく言うと、PCRを n回 繰り返したときに得られる産物量が「最初のDNA量 × 2のn階乗」になるということです。
最初のDNA量を 1 とすると、1サイクルで「1 × 2^1 = 2」、2サイクルで「1 × 2^2 = 4」、3サイクルで「1 × 2^3 = 8」、中略、30サイクルで「1 × 2^30 = 1,073,741,824 (約10億) 」、35サイクルで「1 × 2^35 = 34,359,738,368 (約340億)」、40サイクルで「1 × 2^40 = 1,099,511,627,776 (約1兆)」という非常に大きな数字になり、これがPCRのサイクルすることによって得られる産物量の増え方を表しており、こうした規則性を指数関数的増加と呼びます。
ただし、1つ注意すべきなのは、新型コロナウイルスはDNAではなくRNAを持つタイプのウイルス(RNAウイルス)なので、事前に逆転写反応 (Reverse Transcription) を使って相補DNA (cDNA : complementary DNA) を合成する必要があります。また、この方法を RT-PCR法 (Reverse Transcription – Polymerase Chain Reaction) と言います。
そして、検体の中に新型コロナウイルスのRNAが含まれていれば、RNAから変換されたDNAが増幅されて陽性となり、検体の中にRNAが含まれていなければ何も増幅されないので陰性となる仕組みです。
つまり、検体に含まれるウイルス量が多ければ、少ないサイクル数で検出することができ、ウイルス量が少なければ、多くのサイクル数が必要になるという反比例の関係となっています。
また、どこからが陽性でどこからが陰性かという基準を「カットオフ値」と言い、更にその基準となるのが「Ct値 ( Threshold Cycle もしくは Cycle Threshold : 無理やりカタカナで言うと サイクル スレッショウ )」です。
そして、この Ct値 は、増幅曲線 と 閾値(しきいち)線 (Threshold Line : スレッショウ ライン) が交差するときの数値 (サイクル数) のことで、下図で言えば、「Ct」と記載のある部分(4か所)のことです。
「サイクル数」とは、下図で言うと「Cycle number」と記載のある横軸のことで、PCRの 3つのSTEP を何回繰り返したかを表す言葉です。この場合、合計45回繰り返していることが分かるため、合計サイクル数は45です。
尚、日本のPCR検査におけるサイクル数は検査キットによって違いがありますが(※違いがあることに問題はありません)、基本的には「Ct値が40以下」を「カットオフ値」として、陽性としています。
因みに「Ct値」と「他人に感染させる唾液量」の関係性を見てみると、Ct値が40であればペットボトル1本 (500ml) の唾液が感染に必要となり、Ct値が37であればコーヒー1杯 (125ml) の唾液が感染に必要となる、という研究があります。
尚、Ct値が35以上の検体は実験系において感染性を持たないという報告が複数あるため、PCR検査が陽性であってもウイルスを他人に感染させる可能性は極めて低いということが実際にあり得るということです。(しかし、これは “PCR検査自体の偽陽性” とは呼びません)
また、近年、世界で使われているPCR法は「定量PCR法 (quantitative PCR : qPCR)」と言い、キャリー・マリス氏が発明した「PCR法 (定性)」よりも感度が高いことが特徴です。
因みに、その 定量PCR法 (qPCR) に RT-PCR法 (逆転写PCR) を組み合わせたのを「RT-qPCR法」と言い、それを開発したのが、スイスに本社を構える創立125周年を迎えた世界有数のバイオテックカンパニー「エフ・ホフマン・ラ・ロシュ (F. Hoffmann-La Roche, Ltd.)」通称「ロシュ社」です。
また、定量PCR法 (qPCR) の1つに「リアルタイムPCR法 (Real-time PCR)」というものがあり、これは、増幅量(増幅曲線)をリアルタイムでモニターして解析できる方法です。(先ほどCt値などの説明で出した図もこちらの方法によるものです)
そして、RT-PCR法 (逆転写PCR) と リアルタイムPCR法 のどちらの性質も持つ 定量PCR法 (qPCR) を「Real-time RT-qPCR」と言います。
新型コロナウイルスに対するPCR検査は、蛍光プローブを使用した Real-time RT-qPCR です。
RT-PCR , qPCR , RT-qPCR を比較した模式図も添付しておきます。
アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は、(2021年) 7月21日に、これまで緊急使用許可 (EUA) を得ていたコロナ単独を検査するPCR検査体制「CDC 2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel」を年内までに廃止し、このタイミングで、今後のインフルエンザ流行にも備えて、インフルエンザの検査も同時に可能な「マルチプレックスアッセイ」という検査方法に変更するという発表をしました。
(ただし、この廃止は「CDC 2019-Novel Coronavirus Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel」のみに対するものなので、世界のPCR検査自体を全て廃止するという意味ではありません)
以下がその発表に関するページです。
これは余談ですが、インフルエンザウイルスに効く抗ウイルス薬として、日本で非常に有名な「タミフル (リン酸オセルタミビル) 」は、ロシュ社によって商標登録され、販売されているものです。
そして、2019年時点で、世界のタミフルの約8割は日本で消費されていました。しかし、タミフルが入院や合併症を減らす効果はないとの研究も発表され、2017年7月には、WHOの必須医薬品リストの「保健システムに最低限必要な薬」から「補足的な薬」に格下げされています。
また、PCRをめぐっては、SNSで以下のような、キャリー・マリス氏の生前のインタービュー映像をもとに、「極めて少数の分子が身体に1つあるだけで意味をなすと主張するなら、それはPCRの誤用」つまり「感染症の診断にPCRを使うのは誤用だ」という旨の動画が拡散されていました。
ただし、このインタビューは1997年のものであり、定量PCR法(qPCR) が世に広まる前 且つ PCR(定性)が主流のとき です。
したがって、その点には十分注意する必要がありますし、マリス氏もこのインタビュー時は(新型コロナウイルス等の)RNAウイルスによる感染症における陽性・陰性判定については言及していないという事実も理解しておくべきでしょう。
また、彼の著書『マリス博士の奇想天外な人生』(ハヤカワ文庫) の P.162 には「この方法は遺伝子疾患の診断にも有用だ。培養して調べることが難しい病原体の遺伝子を検出できるので、感染症の診断にも利用できる。」という文章があります。
更に、翻訳される前の原題である『Dancing Naked in the Mind Field』(Pantheon) の P.105 にも、同じ意味の文章が記載されていることが確認されています。具体的には次の通りです。「The procedure would be valuable in diagnosing genetic diseases by looking into a person’s genes. It would find infectious diseases by detecting the genes of pathogens that were difficult or impossible to culture.」
また、ロイターによるファクトチェック と 特定非営利活動法人インファクト(認定NPO法人)によるファクトチェック でも、先ほどの動画のような「感染症の診断にPCRを用いるのは誤用だ」とする主張は誤りであると記載されています。
ただし、注意すべきなのは、PCR検査でウイルスを増幅・検出できたからといって、それが必ずしも「感染性」とイコールでは無い、つまり他人への感染を引き起こす可能性があるかを示すものでは無いという点です。(これは、上述したカットオフ値とCt値の話なども踏まえて考える必要があります)
また、「PCR検査では偽陽性が頻発する」という意見を目にしたことがある方もいらっしゃると思いますが、こちらも誤りです。
もちろん、たしかに、偽陽性は起こり得ます。しかし、現状のPCR検査では、基本的に「キャリーオーバーコンタミネーション (通称 コンタミ)」や「人為的ミス」のみが偽陽性の要因として考えられます。
キャリーオーバーコンタミネーションとは、前に行ったPCRの増幅産物が紛れ込んだことにより、サンプル由来以外のDNAを鋳型として増幅が起こることを言います。
また、コンタミの可能性を減らす目的で、検査キットによっては、dTTP(チミジン三リン酸)の代わりにdUTPを含む基質を用いて、増幅産物にウラシル塩基を取り込ませ、次のPCRを行う際に ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG) 処理を行い、コンタミネーションした増幅産物を分解して、ウラシルを含まない検体由来のDNAのみが鋳型となるようにしているものもあります。
つまり、偽陽性はほぼ起こらないということです。
以上をまとめると「PCRはインチキ・無意味」というのは完全な誤りであるものの、新型コロナウイルス感染症の検査においてPCRは完璧だ、とも言えないということです。
他にも、SNSでは、コロナ死の条件について以下の画像などを例に挙げ、「厚生労働省が新型コロナの死亡者数を水増しする通達を出している」という意見を目にすることがあります。
しかし、これは正しい解釈とは言えません。
全文を読んだ上で解釈すると、新型コロナウイルスを原死因(つまり、直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病)とした死亡数は人口動態統計で把握しますが、それには死因選択や精査に一定の時間がかかってしまうため、速やかに死亡者数を把握するという観点から、感染症法に基づく報告としては陽性者の死亡数を集計して公表するため、厳密な死因を問わず報告してください、というものです。
しかし、実際、事故で亡くなった後に検査によって感染(陽性)が判明した10代の男性がニュースでコロナ死として取り上げられた事例があり、視聴者や読み手にとっては「新型コロナウイルスが原因で亡くなった」と解釈し得るものであったため、報道の在り方については大きな疑問が残ります。
しかも、ワクチンを接種していなかったことに言及した上で、「10代の死亡が確認されたのは初めて」という点に触れているあたりは、違和感が拭いきれません。
▼ 実際のニュース(2021年9月28日)
また、新型コロナウイルスの「新規陽性者」のことを「新規感染者」と呼び、陽性と感染を完全なイコールで結んでいるかのような表現で、決して適切とは言えない報道も行われています。
こういったことにより、新型コロナウイルスの恐怖や不安という感情が適切では無い形で多くの人々へ広がっていったこともある、というのは事実として言えるのではないでしょうか。
3章.ウイルスの存在証明
(コッホの原則/ウイルスと細菌/分離と単離)
新型コロナウイルスをめぐって「ウイルスの存在証明が無い」という切り口で、存在そのものを否定している意見を目にすることがあります。
そして、その際によく持ち出されているのが「コッホの原則」です。
コッホの原則(コッホの4原則)とは、感染症の病原体を特定する際の指針のひとつで、詳細は以下の通りです。
しかし、これはドイツの細菌学者ロベルト・コッホが炭疽菌(タンソキン)という「細菌」をもとに提唱したものです。
したがって、新型コロナウイスのような「ウイルス」では条件を満たせないケースがあり、鉄則とは言えません。
例えば、ポリオウイルスのように、感染した人によって症状が異なり、同じようには発症しないウイルスもあります。
また、「細胞培養で増殖しないウイルス」や「適切な動物モデルが特定されていないウイルス」については、条件の2番・3番が満たされないことになります。
そして、更に、新型コロナウイルスに至っては、既にコッホの原則を満たしています。
具体的には、新型コロナウイルス感染症の患者の検体からSARS-CoV-2を分離し、実験室の細胞培養でウイルスを増殖させ、その培養ウイルスをヒト以外の霊長類に感染させ、感染した霊長類が肺の損傷や肺炎等の人間と同じ新型コロナウイルス感染症の症状を示しており、感染した動物からウイルスを検出することもできています。
以下に関連する論文を3つ添付しておきます。
したがって、「コッホの原則を満たしていないから新型コロナウイルスは存在しない」というのは誤りです。
他にも、新型コロナウイルスの存在証明について「世界中の政府や機関に根拠となるものが無い」という話もよく挙がります。
そして、ここで必ず出てくるのが「分離」と「単離」で、特に「新型コロナウイルスは単離されていない」という点がSNS等で強く主張されています。
まず、分離とは、1章で書いた通り「検体中に存在する特定のウイルスをつかまえて、それだけを増殖させること」です。
そして、これが日本の国立感染症研究所で行われた分離であり、世界のあらゆる研究機関で行われた分離です。
つまり、ウイルス学で言う「分離」とは、「培養」とほぼ同じ意味で使われているということです。
因みに、ウイルス学における「分離」のことを「ウイルス分離」と繋げて呼ぶ場合があります。(以下、ウイルス学における分離をウイルス分離と書きます)
しかし、分離という言葉をそのままの意味で解釈すると「混合物をある成分を含む部分と含まない部分とに分けること」なので、ウイルス分離とは大きく意味が変わってきます。この分離は、英語で言うと「separate」です。
因みに、ウイルス分離は英語で「isolation」と言います。そして、培養は「culture」と言います。したがって、「ウイルス分離≒培養」であり、「isolation ≒ culture」という関係が成り立ちます。
そして、新型コロナウイルスの「分離 (isolation) 」つまり「ウイルス分離」に関するサイトは以下のようなものが存在します。
したがって、分離(培養)つまりウイルス分離 は間違いなくされているということは大前提です。
その上で、「単離」のお話です。
単離とは、「1つの成分のみを取り出すこと」を言い、同様の意味を表す日本語に「純粋化」があります。(もしくは「精製」)
そして「純粋化」は英語で「purification」と言います。因みに、単離の直接的な言い換えとなる英語は存在しません。
よって、「単離 ≒ 純粋化」であり、先ほどのウイルス分離の話も含めると「(isolation ≒ culture) ≠ purification」という関係が成り立ちます。
そして「ウイルスの存在証明がどこにも無い」という主張には、必ずと言っていいほど「新型コロナウイルスは単離(純粋化)されていない」という事実がイコールで結ばれます。
上に事実と書いたのは、たしかに、「新型コロナウイルスが単離(純粋化)されたことを示す論文等」は今のところ存在しないからです。
ただし、その理由と背景を考えるには、単離を行う方法 (一例) に着目する必要があります。(ここからは、以下のサイトを参照しながら記述します)
単離の方法としては、まず、生きた細胞 (HEp-2細胞 または Vero細胞 など) を、 ウシ胎児血清 (FBS, Fetal bovine serum または FCS, Fetal calf serum) を含む培養液で培養します。
そして、その細胞に対してウイルスを感染させ、増殖させます。
その後、寒天を含む培養液に交換して、培養します。
すると、最初にウイルスが感染した細胞は、増殖したウイルスを放出しながら死滅しますが、寒天の粘性によってウイルスの移動は大きく妨げられるため、放出されたウイルスが周辺の細胞にだけ再感染し、また感染した細胞を死滅させます。
そして、これが連鎖的に続くことで、最初に感染した細胞の周辺に、死んだ細胞の塊 (= プラーク ) が形成されます。
最後に、このプラークの部分の寒天を切り出して回収します。
これによって、ウイルスを単離(純粋化)することができるとされています。
しかし、この「ウイルス単離論争」の火付け役となった、アメリカのAndrew Kaufman (アンドリュー・カウフマン) 医師の「単離の定義」によると「サル腎臓細胞(Vero細胞)やウシ胎児血清などを使用していないこと」が前提となっています。
以下は、その主張が書かれている実際のサイトです。
『Statement On Virus Isolation (SOVI)』https://andrewkaufmanmd.com/sovi/
したがって、新型コロナウイルスの単離について議論されているときは、この定義が当てはめられていると考えてください。
実際、世界中の機関が「新型コロナウイルスの存在証明を持っていない」と情報開示した文書を以下に添付しますが、そのなかには、このような内容が「必ず」見つかります。
(i.e. monkey kidney cells aka vero cells; lung cells from a lung cancer patient)
(i.e. monkey kidney cells aka vero cells; liver cancer cells)
(i.e. monkey kidney cells aka vero cells; fetal bovine serum)
(such as, for example, monkey kidney cells or cancer cells)
(eg. monkey kidney cells, a.k.a vero cells; liver cancer cells etc)
以上から分かるように、サル腎臓細胞 (Vero細胞) やウシ胎児血清などを使用していないことが「単離(純粋化)の定義」となっており、その条件を満たすような証拠が存在していないということです。
そして、何度も書いていますが、ウイルスは単独で増殖することができません。(だからこそ、生きた細胞を使って増殖させる必要がある訳です)
したがって、この単離についての議論は、ウイルス学そのものを疑うという姿勢がとられているものであり、ウイルス分離は単離ではない、それは存在証明にならない、と主張するものなのです。
因みに、「その単離の定義」でウイルスの存在証明を考えるのであれば、以下に列挙するウイルスの全てが「存在していない」という情報開示がなされているものです。
どう感じたでしょうか。上記すべて、ウイルスの存在証明が無いんです。
では、新型コロナウイルスの存在証明が無いのと同様に、これら全てのウイルスとその感染症はインチキだ・出鱈目だ、となるでしょうか。
これは、ウイルス学を根底から覆すような話なので、もしそれを信じるのであれば、それはそういう思想であり、考え方なので、それはそれで良いと思います。否定もしません。
しかし、それは同時に、過去のワクチンとその病原体の存在も否定することになります。したがって、医療そのものを疑うという規模感にまで話は広がるということです。
因みに、単離できていないウイルスからどうやって不活化ワクチンを作ったのか、という疑問を持つ方もいらっしゃると思うので、それも書いておくと、Vero細胞を使ったウイルス分離(培養)によって得られた病原体を不活化した上で、開発されています。
まとめると、新型コロナウイルスは「コッホの原則」を満たしており、Vero細胞やウシ胎児血清などを使用しないという条件下での「単離(純粋化)」はされていないものの、ウイルスは「分離」されているということです。
以上です。
おわりに
長文にも関わらず、最後まで読んで頂きありがとうございます。
コロナ禍のSNSでは、新型コロナウイルスやそのワクチンをめぐって、日々、様々な情報が飛び交っています。
そこで、入って来た情報をすぐ鵜呑みにせず、自分自身で調べ直したり、調べた情報元の精査をしたりして、情報の取捨選択を慎重に行うことが求められていると思います。
それに加え、例えば、新型コロナワクチンに対して慎重な人であれば、同じ主張の人が発信する情報が目に入りやすいでしょうし、反対に、ワクチンに対して積極的な人でも同じことが言えるはずです。
このように、人はついつい偏った情報の入手と、それを信じる傾向にあるため、その点は一度しっかりと自分を見つめ直して、考えて頂く必要があると思います。
そして、私自身も今回のnoteの内容に誤りがある可能性も当然考えています。ただ、それを分かった上で可能な限り間違いの無いよう、注意しながら執筆しました。
このnoteが、新型コロナウイルスやワクチンに限らず、あらゆる情報の真偽検証について考える機会になれば幸いです。
そして、皆さんが、正しい情報をもとに、善い選択を積み上げ、素敵な人生を歩めることを心から願っています。
深思考CEO (https://twitter.com/deepthinkingceo)
余談
当初は、以下の項目、すべてについて執筆する予定でした。
しかし、あまりにも量が多くなってしまうことに加え、今さら言及しなくても良いだろうと判断した部分もあり、書くのを辞めた経緯があります。
特に、新型コロナワクチンについては、既に接種されている方は接種が終わっており、接種を控えている方は未だ控えたままだと思いますので、今回のnoteでは新型コロナウイルス感染症自体に的を絞ってみました。
ただし、ツイッターのほうでは、以下の書けなかった項目についても、今後、小出しに触れていくので、まだの方はツイッターを是非フォローしておいてください。 → 深思考CEO (https://twitter.com/deepthinkingceo)
今後とも宜しくお願い致します。
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