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reasons why we travel

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わたしたちが旅をする理由をたどるコラムのリレー。
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記事一覧

100年後に誇り高い「日本の味」を繋げるために旅をする / 醤油ソムリエール 黒島慶子reasons why we travel

幼少期からアートの世界にどっぷり浸かる島娘であった私が、20歳の頃から突然、何かに駆り立てられるかのように醤油蔵を巡り始め、早17年が経つ。巡ってきた醤油蔵は約150箇所。酒、味噌、味醂、酢、麹屋、種麹屋など、醤油以外の醸造蔵もカウントすると合計約200箇所に達する。結婚前は毎月1週間〜10日ほどかけて旅をし、結婚後も愛知県西尾市の麹屋当主である夫、そして娘と一緒に日本全国の醸造蔵を訪ねる「発酵旅」をゆるゆると続けている。 「昔から醤油が好きだったの?」とよく聞かれるが、そ

アフリカでお金が足りなくなったときのこと / 全国通訳案内士・翻訳家 白石実果 reasons why we travel

私は今、日本にやって来る外国人観光客をガイドする仕事をしている。日本各地に案内して独自の文化を紹介し、「日本のこんな暮らしを見てみたかった!」という想いを叶える仕事だ。 かれこれ10年ほど前。私がまだ、自分が将来ガイドの仕事をすることになると知らなかった頃。私はガーナのある難民キャンプに滞在していた。インターネットを使って世界の小さな想いをつなげたいと1年の旅に出た私は、ご縁がつながって、旅の途中、1ヶ月だけキャンプ内でコミュニティのI Tスキル向上のためのお手伝いをしてい

出会うために旅をする / 写真家 田尾沙織 reasons why we travel

旅は人との出会いだと思う。 SNSが普及して、情報が溢れ、携帯を眺めているだけで、その国を知った気分になれるから、旅離れが進んでいると耳にしたことがある。旅には携帯を眺めているだけでは感じることができない人との出会いがある。直接会って、話して、知れることがある。言語が違ったとしても、通じ合えるときがあるから不思議だ。 高校生の時、写真にはまった。そして仕事で写真を撮りながら世界中を旅したいと思っていた。20代からは旅雑誌や機内誌、ファッション誌やカルチャー誌の撮影で世界中

フツーの家族が、日本一周の旅に出た。濃密すぎる100日間がもたらしてくれたもの / フリーランスライター・エディター 池田美砂子 reasons why we travel

2019年6月、家族4人で旅に出た。100日間日本一周、キャンピングカーに乗って、0歳と6歳を連れて。 断っておくと、私たちはごくフツーのサラリーマン家庭だ。東京近郊に暮らし、主人は会社員で、私はなんちゃってフリーランス。住宅ローンを組んで家を建て、週末は子どもたちと近所の公園や海で遊ぶ。旅といえば実家に帰ったりキャンプに出かけたりする程度で、5年に一度のハワイ旅行が一大イベント。フットワークは軽い方ではなかった。 家族の時間は有限、なのだから そんな私たちが旅に出た理

欲求も、日常も、生業も。旅とともに生まれたもの / 台所研究家 中村優 reasons why we travel

3年前バンコクに移住し、ひょんなことからタイ人パートナーたちと酒やワインの輸入をすることになった。タイ人とのビジネスでは、まるでジョークかと思うようなことがたくさん起こる。 オフィスを持つためにドアを付けようとすれば、それだけで2ヶ月もかかる。レストランを開業しようと思えば、お金の持ち逃げに始まり、土地の利権争いから一族間闘争、訴訟問題にまで巻き込まれていく。オープン予定日を前にたくさんのゲストを招いてオープニングパーティまで開いた私たちのお店は、オープンしなかった(パーテ

ゲストハウスを綴る旅 / ゲストハウスガイド 前田有佳利 reasons why we travel

旅とは、いったい何なのだろう。 地元である和歌山に暮らしながら、年間の3分の1を県外で過ごす私の日々に、旅という言葉を当てはめていただくことは多い。でも実は、当の本人は、その正体をつかめずにいる。仕事とプライベートの境界線が曖昧なせいか、どこからが旅でどこからが旅じゃないのか、お尻と太ももの境目みたいに区別が付けられないのだ。 ただ、ひとつだけ確実に言えるのは、私にとって、そこに必ず「ゲストハウス」という存在があるということ。だから、お題を「ゲストハウスに行く理由」と恐縮

おんぼろRVで砂漠を走る / アーティストマネージャー Mariko Kurose  reasons why we travel

つい先日エストニアでスモークサウナに入る機会があった。何もない森の中をひたすら走って日が暮れたころに着いたのは、森の少し開けたところに佇む古くて愛らしい木造の家だった。エストニア定番の野外の釜付きダイニングキッチン、そしてサウナ小屋。五右衛門風呂からのびるデッキの先には、小さな泉があった。 サウナの番をしているおばあさんと一緒に服を脱いで小屋に入る。おばあさんが「アイトゥマ アイトゥマ」と小声で歌いながら白樺の葉で身体を清めてくれる。じんわりかき始めた汗が、しばらくしてド

コミュニティを訪ねる旅 / 新米猟師兼ライター 畠山千春  reasons why we travel

誰かと一緒に行く旅が好きだ。 学生の頃は一人であちこち飛び回り、自分は身軽な一人旅が好きなんだと思っていた。けれど、美味しい食べものや美しい景色と出会った喜びを誰かと分かち合えないことが寂しかった。私は、本当は誰かと旅をするのが好きなんだ。そう気がついた。 だから今は、もっぱら夫との二人旅。美味しい食べものを求めて、面白いコミュニティを作る人たちを求めて、国内外問わず旅を重ねている。 私たち夫婦は、福岡県糸島市で「食べもの・お金・エネルギーをつくる」というコンセプ

うずまきのように / 作家 寺井暁子  reasons why we travel

たくさんの場所に旅をして、旅が仕事になってきた今日この頃。著作を書いたり、エッセイを寄稿したり、あるいはインタビューをしたり、映像の構成を考えたり、撮影に同行したり。作家として活動を始めて数年が経ち、仕事の幅も広がってきたけれど、書くことと同じくらい、旅先で物語を見つけることが大事だなと感じている。 そんな中でも、何度も用事ができてしまう「磁力を持つ場所」というのがあって、わたしにとって瀬戸内はそういう場所のひとつ。気づけばかれこれ8年くらい通っている。 「せっかく合