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アフリカでお金が足りなくなったときのこと / 全国通訳案内士・翻訳家 白石実果 reasons why we travel

私は今、日本にやって来る外国人観光客をガイドする仕事をしている。日本各地に案内して独自の文化を紹介し、「日本のこんな暮らしを見てみたかった!」という想いを叶える仕事だ。

かれこれ10年ほど前。私がまだ、自分が将来ガイドの仕事をすることになると知らなかった頃。私はガーナのある難民キャンプに滞在していた。インターネットを使って世界の小さな想いをつなげたいと1年の旅に出た私は、ご縁がつながって、旅の途中、1ヶ月だけキャンプ内でコミュニティのI Tスキル向上のためのお手伝いをしていたのだ。

ある日。キャンプを離れ、私は隣町の郵便局まで出かけた。“トロトロ”を乗り継いで、日本にいる友人に贈り物を送ろうとしていたのだった。

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トロトロ。かわいらしい響きのこの乗り物は、ガーナの乗合バス。日本で廃車寸前まで乗られた古いバンが、アフリカに運ばれ、「○○工務店」なんて日本語が書かれたまま、まだまだ現役で市民を乗せて町じゅうを走っている。

乗車賃は、市内だと30分乗って数十円。市外まで行くと100円。私が乗ったトロトロも、いろんなお客さんを乗せながらのんびりゆっくり隣の町まで進んでいく。

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ガーナの郵便局は、はっきりいって面倒くさい。日本のように、「これ送りたいんです」「はい、わかりました」では終わらない。こっちの窓口で送付内容の申告、そっちの窓口で書類記入、あっちの窓口で内容物のチェック、最後に向こうまで行ってお支払い。虚偽の申告をしていないか、各窓口で厳しくチェックされる。せっかくきれいにラッピングされたプレゼントだって全部開かれて、チェックされた。私の送付物はお洒落すぎたため、「これは石鹸に見せかけた何かじゃないか?」なんて疑われてしまって、この日はいつも以上に精一杯説明しなくてはいけなかった。

長い時間をかけて説得が終わり、ようやく最後のお支払い。いよいよ日本にプレゼントを送れるのだ! 難民キャンプを出発してから、すでに数時間が経過していた。

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しかし、いざお支払いをしようとすると…、100円足りない…! そう、さっき外国人向けのおしゃれなショップで買った石鹸が想定より高くて、お金が足りなくなってしまったのだ。帰りのトロトロ代を考えると、持っているお金を全て払うわけにはいかない。

「お金が足りないので、また明日来ます。その時は手続きも、もう一度やり直しますので」と告げて帰ろうとしたその時、後ろからすっと250円分のお札が差し出された。振り返ると、にっこり微笑む素敵なご夫婦だった。「いいのよ、私たちが払うから」。

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アフリカに行くと、「援助」なんて言葉をよく聞く。「助ける側」と、「助けられる側」。わかりやすく簡単に切り分けようとしたら、世界は簡単にそんなふうにフォルダ分けされてしまう。

けれど、このアフリカのご夫婦は助けられる側の人たちなのだろうか? 私が出会ってきた人たちは、助けられる側の人たちなのだろうか? 目の前にいる人に、当たり前のように何かしたくなってしまう彼らは、本当に助けられるだけの立場なのだろうか。

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西アフリカという、外国人観光客がほとんどいないこの国では、私が旅していると、たくさんの人が温かくサポートしてくれた。

トロトロに乗っていると、隣に乗り合わせた人が私の分まで支払いをしてくれたことが何度もあった。道を聞くと、タクシー乗り場まで連れて行ってくれて、料金交渉もしてくれて、タクシー代まで握らせてくれた人もいた。「この旅に出る前に仕事を辞めて来た」と言ったら、タクシードライバーさんは、私が働けそうな仕事を紹介してくれた。そして、面接のコツまで指導してくれたりもした。

目の前の人が困っていたら助けるし、自分が困っていたら助けを求める。人と人って、ただそれだけなんじゃないのかって、遠く離れたアフリカの地で、当たり前のことに気づいた。

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そんな旅からもう、10年が経つ。私は、岐阜県飛騨市を拠点にして日本じゅうへ外国人を案内するガイドになった。

つい2週間ほど前のこと。京都でのガイドの仕事が終わり、宿のラウンジにいたら、「すみません。500円玉を100円玉に両替してもらえませんか?」と外国人に話しかけられた。どうやらコインランドリーを使いたいが、両替機が故障しているらしい。

「大丈夫、私が払うから」。私が同じセリフを言える時がやって来た。

【プロフィール】

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白石実果(しらいし・みか)
全国通訳案内士・翻訳家。岐阜県飛騨市在住。世界を旅した後、外国人に日本の本質的な暮らしや文化を案内するガイドとなる。
瀬戸内への旅の玄関口
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