【PJ実施レポート】アイヌ文化からモノとの関わりを再想像し、サーキュラー・エコノミーを深めるワーク
サマリー
期間: 2021.09月
プロジェクトの種類: 大手機器メーカー・新規事業創出チーム
背景:
現代はモノに溢れかえる時代です。たとえば、毎年"新型"iPhoneは登場しますが、世界の電子ゴミ(e-waste)は250万トン/年も生み出され、5年で21%も増加しています。この15年間で、業界の生産量は倍増した一方、捨てるまでに洋服を着る回数は40%も減少しました。物質的な豊かさを得た一方で、モノとの付き合い方やつながりを感じる心は、ますます希薄になっているのかもしれません。
人間は、ホモ・ファーベルといわれ、道具=モノをつくる生き物です。わたしたちの身体の延長とも言えるし、生活を支えてくれるパートナーともいえる、そのようなモノとの付き合い方を見直すことは、消費のあり方を問い直すに等しいのではないでしょうか。
そうした中、サーキュラー・エコノミーが新しい経済をかたちづくるアプローチとして台頭していきています。実感と内発性に基づきながら、人とモノの関係を再想像するためのワークショップをおこないました。
中核にある問い:
・モノへの感謝を喚起することで、日々のモノとの関わりを考え、ケアの気持ちにつながるのではないか?
・モノへの感謝を喚起することで、自分だけで生かされているわけではない・支えられている感覚を養えるのではないか?
・上記からサーキュラー・エコノミーへの理解を深められるのではないか?
やったこと:
アイヌ文化の「イオマンテ(くま送り)」という儀礼からインスピレーションを得て、日常にあふれる道具・モノの関わりや捨てる営みを考え直すイオマンテ・ワークショップを実施しました。
カムイとは?イオマンテとは?
アイヌは、カムイ(魂・神々)の世界と人々の世界という二つの世界を持つ考え方で生きています。カムイとは、あらゆる生き物やモノ、すべてを指します。すべて、めぐみをもたらしてくれる神さまなのです。
そして、生き物だけでなく火や水もカムイだし、家や服や器など道具だってカムイです。アイヌの人々は、こうした身の回りのあらゆる神さまに畏怖し、敬意を表し、感謝をしながら生きています。
特に、狩猟を通じて必要な食糧や毛皮を手に入れるアイヌの人々にとって動物たちは重要です。その中でも熊(キムンカムイ)はとりわけ大切にされ、子熊を檻にいれて育てたりします。
カムイはみな、神々の世界から仮初の姿で人間界に降り立っている、と考えられています。しかし、カムイたちは、人間と同じように生きています。感情もあります。だからこそ、カムイの世界に還ったあとに、人間界の世界での出来事や思い出、関わりを他のカムイたちにお話しします。わたしたちも、何か嫌なことがあったら友達にビール片手に愚痴をこぼすし、嬉しいことがあったらケーキをつつき共有したくなります、それとおんなじです。
このための儀礼が「イオマンテ: 熊送り」です。
基本的にはイオマンテ自体は、熊の神(キムンカムイ)が対象であることが一般ですが、前述のように道具だってカムイです。今回は、そこに着目してワークをつくりました。
どのように進んだか?ワークショップの流れ
ワークショップは、大きく3つの小ワークで構成されました。
事前に、「いま、捨てようと思っている/迷っているモノ」を用意してください、とお願いをしていたので、まずはそれらを見せながら自己紹介をおこないます。
たとえば、ぼくであれば、iPhoneが壊れてきて買い換えようか、と悩んでいたためにそのiPhoneとの馴れ初めや買い換えるかの迷っている背景のストーリーを語ります。
その後、ひとつめのワークとして、モノに対してこれまでの感謝や別れの言葉を手紙に書いてもらいました。みなさん(もちろんぼくもですが)初めてモノに対して手紙を書く、新鮮な体験だったと語っていました。
手紙を書いたら、すぐに共有するではなく、一度外に買い物に出かける時間。イオマンテは感謝の儀礼でもありつつ「宴」でもあるために、食べ物や飲み物が必要です。神々といっしょにモノを食べる「共食」という言葉があります。このワークでは、それぞれが選んだモノが喜ぶ食べ物や飲み物を買ってくる、というお題でそれぞれが外にでてスーパーやコンビニに向かいました。
ぼくは、iPhoneが喜ぶってなんだろうと考えつつ、少し解釈を変えて、もっと感謝を具体的に伝えるために、ビスコとシュークリームを買ってきました。ぼくにとってこのiPhoneはやっぱりないと不安だし、そわそわする。ビスコはいつ食べても安心して、ホッとできる食べ物です。一方、嫌なことがあったり落ち込んだり、疲れていたらシュークリームをよく食べます。iPhoneはそんな勇気づけてくれる存在でもあります、とくにフィンランドの留学中は友人や家族と連絡が取れたことも大きな支えでした。トースターに対しては、やっぱり食パンを買ってきている方もいました。
そんな感じで、なかばこじつけつつですが、何を買ったらモノ(カムイ)が喜ぶだろうか?と考えて時間を過ごすこともまた、ケアの気持ちを育むことにつながります。買ってきたものを持ち寄り、紹介しながら宴は始まります。少しあったまってきたところで、1人ずつ、先ほどかいた感謝の手紙を読み上げました。
最後に、モノになりきるインプロビゼーション(即興劇)を行いました。今までは、<わたし>の視点だったところを、次に<モノ>の視点に切り替えるのです。これは、カムイがカムイの世界にもどったときに他の神々たちに人間界でどう扱われたか、などを話すことの再現を行うワークです。ファシリテーターが他の神さま役になり「(カムイの世界へ)おかえり〜、●●(参加者の名前)のところはどうだった?」と問いかけ、それに対して即興でやりとりをつくってもらいました。
最後に、今日やってみたワークの振り返りを行い、どのように事業を見つめ直せるのかを対話しました。
どのような成果が生まれたか?
このように、それぞれの参加者がモノの扱い方、手放し方について見つめ直し、変える機会につながりました。モノにとって何が幸せなのかを考えたり、モノの苦しみを考えたり、<わたし>の欲望を超え出る想像を多少なりとも促せたのでは、と感じます。
おわりに
ぼくたちは、日常の中でひとつのモノ、とくに暮らしのなかであまりに溶け込んでいるモノに向き合う機会は滅多にありません。ハイデガーが述べるように、道具は壊れてはじめて、認識されるからです。でも、溶けすぎてしまうゆえに、おざなりな扱い方をしていないか?それを考え直す必要があると思うのです。モノもカムイなのですから。感謝を述べる機会は、日々の中になかなかありませんし、むかし共同体に根付いていた儀礼の多くは失われているかもしれません。だからこそ、ワークショップというケのなかの小さなハレの場をつくり、儀式的な体験をふまえることの重要性があるのではないか、と感じました。
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このような実験的なワークショプや、人間ならざるいのちへのケアをはぐくむツールや技法などをともに研究していきたい方、プロジェクトで試してみたい方は、ぜひDeep Care Labにお気軽にご連絡ください。
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