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【PJ実施レポート】微生物とともに生きる未来のサスティナブル・ビジネスを創造するMicrobe Futures

開催概要

日程|2022年8月20日(土)
場所|日本科学未来館
参加者|微生物に関わる仕事をしている社会人
内容|微生物との共生が当たり前になる未来を想像する
パートナー|株式会社BIOTA

やったこと

今回のワークショップでは日本科学未来館の展示「セカイは微生物に満ちている」や対話・独自の体験ワークを通じて、微生物と人の暮らしや都市・環境生態系の関わりをとらえ、未来像・ビジョンをSFプロトタイピングの手法から描くことで、これからのサービスやビジネスにどんな可能性や機会があるのかを、微生物多様性による健康な都市づくりを目指す株式会社BIOTAさんと協働で実施しました。

背景

SDGs、脱炭素、持続可能な社会に向けて、ビジネスでも環境や社会のサスティナビリティの両立として「ESG」を軸にした再編が注目を集めています。パンデミックや気候変動などマクロな変化もふまえ、顧客や株主だけでなく地球環境にとっても良いビジネスが、生活者にも支持されています。

◆なぜ、サスティナブルを微生物から考えるのか◆
サスティナビリティは、人間だけではなく、多様な生き物が繁栄することで実現されます。ビジネスや生活に必要な原材料は、多くの生き物に依存しているからです。
その生物多様性において、地球上の生物種のうち約70%が目に見えない微生物が占めていることから、地球環境のサステナビリティを高めていくには、微生物の存在を無視できません。

進化論学者リン・マーギュリスは「ホロビオントHolobiont」という言葉で、微生物など複数の種が共生関係をむすびながら存在する個体を表現しました。私たち、人間も体内にも表皮にも無数の微生物と共に生きる超個体としてのホロビオントです。

人と自然を二元論的に切り離し、コントロール可能な対象として事業や活動を積み上げてきたことが、現状の危機的状況につながっているのであれば、私たちは相互に依存しあって分けられない関係を前提として、事業も作り直していく必要があります。

サステナビリティにおいて、人と自然の関係性を見つめ、ケアしあう関係を結び直すためには微生物はDeep Care Labでとても深めたいテーマなのです。

◆微生物が生み出すイノベーションの可能性◆
さらに、微生物のもつ能力とその応用は、研究でも明らかになりつつあり、ビジネスへの新たな機会と可能性をひらいています。

●バイオエネルギーへの転換や効果的な発電
●建築資材の修復や自然分解される素材開発
●廃水の浄化、プラスチックの分解
●メンタルヘルスの向上やがん治療

ワークショップの流れ

今回のワークの肝は、目に見えない微生物をいかに実感することで、その身体知から事業の可能性を描いていくことでした。そのため、アーティストの作品も交えた展示や考え方を自分の日常に接続するようなワークを織り交ぜながら、手を動かすことを大事にしました。

展示ツアーで、微生物多様性を感覚的に理解する

ワークショップのはじまりは、未来館で現在行われている展示「セカイは微生物に満ちている」のツアーから始まります。参加者の方には、ミドリムシを研究されていた方から、観葉植物関連のマーケティング担当者、自動車メーカーのオープンイノベーション室の方、など多様な方々が。微生物に関する知識もそれぞれなので、共通言語をつくるためにも、そして複雑に思われがちな微生物との共存を実感してもらうためにも展示作品を鑑賞するところから。

未来館のサイエンスコミュニケーターの方によるツアー

作品には、アーティスト・KAMADA MIKIKOさんのフラワーコンポストによる分解過程の可視化や、情報学研究者ドミニク・チェンさんのぬかボットによるロボットを介したぬか床の微生物とのコミュニケーションまで。
日々の暮らしの中で、どれだけ人が微生物と相互に依存しあっているのかを実感していきました。

廃棄になった花を分解していく過程を可視化するフラワーコンポスト。すでにほぼ全ての花が分解されきっている様子

さらには、展示には拡張生態系を実現した小さな森が。実際に、粘菌が現れたり、キノコが生えてきたり、刻一刻と変化していく生態系、そこにいる微生物を土を触りながら感じられる仕掛けになっています。

拡張生態系の森に触れ合う

レクチャーから感覚値を改めて捉え直す

展示ツアー後は、それぞれの参加者が振り返りながら感想を分かち合い、ランチの時間。その後、ワークショップ・スペースに入り、Deep Care Lab・BIOTAそれぞれからのレクチャーです。

Deep Care Labからは、まず人新世や気候危機の現状をふまえて、マルチスピーシーズ・サステナビリティの理論を紹介しました。この理論では、持続可能性を、微生物をふくんだ他の生き物たちの相互の依存関係を前提として人間のニーズを考えることを必要だと考えます。

Rupprecht氏のマルチスピーシーズ・サステナビリティ

これらをふまえると、生態系まで広げた「拡張ステークホルダー」の観点から事業を考えることが大きなパラダイム・シフトとして求められることを紹介。それに対応する微生物との共創事例をいくつか取り上げました。

微生物も、共創パートナー・ステークホルダーとして捉える

BIOTAの伊藤光平さんからは、微生物の分解をプロセスに取り入れた循環型のビジネスの事例や、がん治療への応用事例などの先端事例を紹介いただきます。さらには、"菌活"といった言葉に代表されるように微生物を求める一方で、消臭剤やアルコール消毒に身近な「除菌」を求める人々の習慣に対しての問題提起も。

家にとってのヨーグルトとは、なんなのか。一同考えさせられます

暮らしを微生物起点でリデザインする

つぎに、微生物多様性を増やすことが奨励された未来のシナリオを提示し、自分の1日の生活を振り返った上で、この世界の住人として自身の1日の暮らしを微生物多様性が増えるようにリデザインするワークを行いました。

頭ではわかっているけど、自分の日常を微生物多様性の視点で見つめ直すことはワークショップのような機会がなければ中々行うことはありません。

参加者からは「土に触れる機会がないから、あえて土を触るために通勤ルートに公園を迂回する」といったように、日常がいかにコンクリートに囲まれた生活か、そしてそれを少し行動変容するだけで多様な微生物に触れられる機会をつくれることも示唆するようなコメントが。また別の参加者とのやり取りでは「異種交流会はそれぞれの常在菌の交換会にもなりうる?」といった発言も。

新しく微生物の発生源を街や空間、食生活などに導入することは重要です。展示されていた未来のストーリーのイラストには、街中の道路のコンクリを全て剥がして土に置き換えるような描写も見られましたが、わたしたちがこれを現実的に望むのか、といった議論もあるように思えます。雨が降ったらドロドロになる。欧州では都市から車を減らすトレンドも見えてきていますが、全てなくなることはないでしょう。歩くことに困難を抱える人は、土とコンクリ、どちらが望ましいのか。
このようにどこまでだったら許容できるのか、といった議論も必要かもしれません。「すでに何があるのか?何を活かせるのか」といった視点で現実を見つめ直してみると、道路全体を土にせずとも公園の在り方を少し変えるだけでも微生物多様性にあふれた都市になるのかも、そんなことも考えさせられました。

微生物多様性が当たり前になる未来のビジネスを描く

ウォームアップを経て、いよいよメインワークは、微生物多様性が当たり前になった未来の物語を描いていきます。

ここでは、ディスカッションカードを手がかりに以下のような具体的な可能性の例を交えながら、美容・コミュニティ・都市-地方・食習慣…といった多様な観点から世界観を広げていきました。

・もしも建物に入る際に液で加菌するようになったら
・体温で微生物を発酵させるネックレスが人気になったら
・微生物多様性が地域活性化の鍵になったら

こうした可能性から、世界観の具体化として、物語を作成していきます。可能性からビジネス・事業としての成立を検討しながら、キャラクターカードを手がかりに主人公を設定し、その事業を体験する様子を描きました。

最終的には、ディスカッションを通じて、微生物自体がこれからのデータ基盤として重要になるため、微生物バンクなる機関がつくりあげられ、そのデータを採取するためのツーリズム企画などの可能性が示唆されたり。Human Ponixといった人間が地下に住みながら微生物を浴びる住居構造の世界を描いたチームも。

最後に、これらを発表し、各自で微生物多様性をふまえた事業の可能性についての内省、個人としての微生物との関わり合いなどを振り返りました。

本プロジェクトが生み出した価値とインパクト

一見、専門的な「微生物」とつながりあっていること、サスティナビリティへの示唆を、自分ごと化する

参加者の中には微生物と聴くと、「とても難しそう」「専門的な知識が必要かと思っていた」と考えていた方も。一般的にそう思われる方は多いのではないでしょうか。しかし「知識なく〜〜〜」といった感想をもらったり、ワークショップ自体は知識にかかわらず誰もが参加し、微生物とサスティナビリティについて自分ごとで実感を伴った理解や認識を促す効果をもたらしました。

微生物は実際、すべての人に関わります。微生物との共生はすでに存在しますが、ただ「菌は汚い・危険だ」というイメージもまだまだあります。身体的健康にもメンタルヘルスにも生物多様性にも、あらゆる観点でこれから必要な微生物とどう関わり合うかを一歩深く考える機会になりました。

想像しづらい世界をイメージすることで、理想とするビジョンをステークホルダーと分かち合う共通言語を構築する

今回は株式会社BIOTAを支援している企業の方々、BIOTAの社員の方々も他企業の方に混じって参加していました。こうしたワークショップをやることで、BIOTAが掲げる「微生物多様性が実現された世界」のイメージをステークホルダー全員で解像度を高めていける機会になったことも大きな価値だったように思います。

おわりに

このようなサスティナビリティの自分ごと化や意識醸成・組織開発、未来想像の力を身につけるといった人材育成、事業創出のご相談ある方は、1dayワークショップからお試しいただけます。ぜひDeep Care Labにお気軽にご連絡ください


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