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もしもモノが声を持ったら?IKEAのイノベーションラボSPACE10のAR実験Everyday Experiments

生活を取り囲むのは、たくさんの「モノ」です。人間は日々たくさんの人工物をかたちづくって、日常や社会を成立させている動物です。ありふれた日常の営みでさえ、振り返るとモノがなければ成り立たないことがわかります。

たとえば、今、こうしてこの記事を書いている「執筆」だって、ラップトップ・ディスプレイ・外付けキーボード・マウス・メモ書きしたノートetcなど、たくさんのモノが実現させています。1日の、どの場面を切り取っても人工物が関わらないタイミングはない。人間はそうしたモノと絡まり合っている、「生まれながらのサイボーグ」のような存在です。

しかし、ハンマーで釘を打ち付ける間、ハンマーは手の延長であり一体化しているように、身の回りのモノをありありと意識する瞬間はなかなかないかもしれません。ゆえに、粗雑に扱ってしまうこともあるのかもしれない。ファストファッションの廃棄やe-wasteをはじめ現代の大量消費の問題は、そうした"溶け合いすぎたモノ"との関わりを見つめ直すタイミングかもしれません。人間はモノとともに進化してきました。モノをつくることはこれからも生きる上で不可欠な一方、モノを無碍に扱い、溢れている現代。関係性を再想像することが必要なんだと思います。

モノの声を聴くことができたら、わたしたちの暮らしとモノの関わりはどう変わるだろうか?

ということを、考えてみましょう。モノとの関わりでいえば、少し前のこんまりブームもあり「断捨離」もメジャーです。一方、人類学者の奥野克己さんはこう指摘します。

ときめきを感じ、取っておくモノと捨てるモノを選別し、捨てるモノを人間から切断することによって片づける「こんまりメソッド」は、その裏で、ゴミの大量出現と、その結果としての自然環境の悪化という、ゴミ問題への自覚に乏しい、とは言えないだろうか。それは、人間の暮らしの快適性と精神の安定性のためだけにモノと向き合っているとは言えないだろうか。その意味で、こんまりメソッドは、人間中心主義の磁場に囚われているのかもしれない。アニミズムとは、この惑星や宇宙におけるあらゆる存在者のうち、人間だけが必ずしも主人なのではないとする思想である。
...こんまりは、ときめかないモノ、ゴミになったモノたちの気持ちや感情を気にすることはない。ゴミとなった瞬間に、モノの気持ちや感情は人間から切り離され、人間とのつながりを失ってしまう。捨てる行為をつうじて、人間がモノに対して主人たる位置を占めるようになる。その意味で、こんまりは「半分、アニミスト」なのかもしれない。ときめくモノに対してだけの。モノとの間で心を通わせる、全幅のアニミストだとは言えないように思われる。
https://www.akishobo.com/akichi/okuno2/v2

以前、実験したイオマンテ・ワークショップでは上記に基づきモノの気持ちを経由することから関わり方の再想像を促しました。今回の記事ではIKEAのイノベーションラボSPACE10で行われた、ARなど最新テクノロジーを活用した実験プロジェクトを紹介しつつ、モノに向き合うことを考えたいと思います。

Invisible roommates|様々なデバイスが実際に何をしているのかが、見えるようになったら?

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画像引用: https://www.everydayexperiments.com/invisible-roommates

クリエイティブ・テクノロジストであるNicole HeとアーティストのEran HilleliによるInvisible roommatesはAR(拡張現実)アプリを利用して家中のデバイス機器がそれぞれどう作用しあっているかを可視化する実験。

スマートフォンやWiFiルーター、デスクトップPC以外にも多くのネットに接続された家電やデバイス(掃除機、ゲーム、スピーカーetc)は、今後どんどん増えていくでしょう。でも、何がどうなり機能しているのかはブラックボックス化しており、わたしたちも理解していません...。

そこで、ネットワークに接続されているさまざまなデバイスを探知し、その製造データを「生きた小さなキャラクター」として翻訳して描きARアプリ上で出現させます。そこでは、デバイス同士が互いにどのようにデータを介しているか=コミュニケーションをとっているのかを遊び心を持って見えています。

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画像引用: https://www.everydayexperiments.com/invisible-roommates

加えて、光を当てたいのはキャラクター性を帯びることにより「機械」として捉えていたデバイスたちに共感性が生まれるところ。Nicole HeとEran Hilleliは語ります。

これらの機械が本当に生きているように感じられ、家庭の一部として、常に何かをしているように感じられます。

このARアプリを通して「デバイスのいのち」を捉え直してみたら、「家にある機械」から「家の一員」へと関係性が変化するような可能性を感じます。

Hidden Characters|もし、リビングルームが生きていたら?

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画像引用: https://www.everydayexperiments.com/hidden-characters

アムステルダムを拠点にするRandom StudioによるHidden Charactersも同じくARを活用して、タブレットやスマホアプリを通じて、家具をキャラクターに変身させることができる作品です。

想像力を働かせて、家を違った角度から見てみたらどうだろう?人は、モノに人間的な性質を持たせると、そのモノとより強く結びつきます
ーRandom Studio

Hidden Charactersは、2次元と3次元の両方のスキャンを使用して、物体の物理的特性を解釈します。これらの特性は、目、鼻、口、さらには髪の毛やメガネなどを生成するアルゴリズムのパラメータとして使用されます。アルゴリズムのルールは、キャラクターデザインの研究に基づいて設計されています。例えば、ソファのような大きくて幅の広いものは、ゆっくりとした眠そうなキャラクター...など。

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画像引用: https://www.everydayexperiments.com/hidden-characters

もし、今あなたが部屋にいたら、少し想像を働かせてみてください。座っているイスやソファ、クッション、植木鉢にランプ...といったまわりを取り囲む環境のそれぞれが生き生きとした感性や魂をもっていて、彼らから時折話しかけられたりする光景。雑に扱えば文句を言われるかもしれません笑。

どっこいしょー、ドスン!とおもっきしソファに座り込んだらソファはなんてあなたに語りかけるのでしょう。それがソファにとって本望なのかもしれないし、体重かけすぎだよー、と反応されるかもしれない。そうした関係性の再考を促します。

終わりに

モノに顔をつける、などある種の擬人化は安易かもしれません。しかし、重要だと感じるのはそれを経由することにより結局、わたしとモノの関わりがどう変化するかです。たとえば、マンガ「3分間のアニミズム」では、何気ないモノの気持ちを描き出しています。もしも、モノが語りをはじめたらどうなのだろう?と想像をふくらませてみると、もっと毎日に驚きを感じられるかもしれません。

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