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VIII-1 応崖・応天/不思議な脱力への実践稽古 -緊張と弛緩を身体の左右で交互に繰り返す・四方向へ強く短い呼気と手首の動き-

西野流呼吸法は、西野皓三先生の本当にオリジナルな不思議なBodywork体系である。
その意味は、習って30年以上をへて、ようやく医学的に理解できるものがある。ここで説明する応崖、応天、応響、応地のBodyworkは、その一つの例である。
この医学的背景を先に説明しよう。

先のエピソード番外編240106で、ヒトの運動システムが2系統(皮質下運動システム、大脳皮質運動野)からなるという教科書内容を紹介した(リンク、https://note.com/deepbody_nukiwat/n/nf2eabe29ec7e)。
2系統と書かれても、関心がないと医師といえども普通は何のことだかわからない。
筆者が自分の身体の実感として、その実態を医学的言語で理解したのはGrillnerの簡明な図による。
ヤツメウナギ:MMC(medical motor column)
哺乳類:MMC+LMC(lateral MC)
ここで言うMMCとLMCがその2系統であるが、ここでは繰り返さない

では我々の身体で、MMC神経支配下の古くからの筋肉群はいったいどれが相当するのか?
それは脊椎に付着する筋肉群を中心とする、棘筋、回旋筋、多裂筋、最長筋などの筋肉群(図1)であることが、2023年、福島医科大学グループの本間らによる論文から明らかになった。

出典:筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典、p182、石井・荒川著、ナツメ社、2012。
体幹の筋肉群は、医師でも名前を見たことがある程度の知識。本書は非常に良い参考書籍

西野流呼吸法、応崖、応天、応地、応響の4方向のBodyworkを理解するには、実はこうした最近の論文まで関連する。
その理由は、現代の西欧医学で充分に認識されていない身体領域に関連するからである。

これらの体幹・脊椎近傍筋肉群は、実は随意筋肉群ではない
大脳皮質運動野に繋がる四肢の筋肉群(これはLMC支配下筋肉群に相当)では、有名なホムンクルスの図にあるように、随意で動く。
しかし脊椎近傍の体幹筋肉群は、通常は重力、体位などの支持筋肉群であるので、随意ではない。

しかも重要なことは、呼吸運動とともに活性化される。
多くの脊椎動物によく見る背伸び・欠伸は体幹筋への呼吸運動の例と理解される。
普通に目にするが、人間でも赤子はいわれなくても自然に背伸びする。
こう説明すると、少しは納得されるだろうか?
東洋系Bodyworkとしての呼吸法の意味はこの点、MMC系筋群へのアクセスにある。
(酸素の取り込みが呼吸法だなど、多くの誤解があるが)

言い換えれば、この筋肉群が随意ではない「皮質下運動システム」と呼ばれるものに属する。
それはヤツメウナギに理解に戻ればMMC支配下の筋肉群である。


さてヤツメウナギの全身運動を思い浮かべてもらいたい。
左右に身体をクネクネくねらせながら(英語ではundulation)前進する(図2)。

出典:Grillner S, et al. Current principles of motor control, with special reference to vertebrate locomotion. Physiol Rev. 2020. (Open access DOI: 10.1152/physrev.00015.2019)

左右のundulationに関して、動画としての理解は以下リンク:実写動画からコンピュータ・モデルまで 動画モデル

自分でも同様の動きを背骨でやってみていただきたい。
クネクネ動かすとは身体の半側が緊張、その反対側が弛緩、そして次には緊張側は弛緩へ、弛緩側は緊張へ代わり、交互にこの運動がおこって前に進む。

ここに呼吸運動とともに交互に緊張・弛緩を4方向で繰り返すBodyworkの意味がある。
おそらくまだ充分理解されないと予想されるので、このノートで別の機会にさらに詳しくこの呼吸運動とともに体幹筋群の緊張・弛緩Bodyworkの意義は、繰り返して説明する。

さて以上の前提を理解して、以下これら四つの運
動を説明してみよう。

具体的には4方向に向けて左右の手を交互に振る。
上の方向へ(応天)、横の方向へ(応涯)、後の方向へ(応響)、そして下の方向へ(応地)
4方向へ振る側の腕には力が入っている。
しかしその反対側の腕はだらりとリラックスして、次に備えている。

不思議だ、どうして左右別別のこんな身体の使い方ができるのか
1989年、西野流呼吸法を習い始めた頃は、こう思っていた。
それが、体幹筋群を左右交互に連続して、緊張・弛緩を繰り返すBodyworkであると分かった。

おそらく緊張から弛緩への切替えの繰り返しが、MMC系システム(皮質下運動システム)にアクセスし活性化すると予想される(実際に筋電計を使って実証できないか?)。
「脱力(俗に言う「肩の力が抜ける」)」とは文字通りの「力を抜く」ことではなく、LMCとMMCが連動する状態でないか?
この点は今後何度か議論したい。


1)「応涯」-真横の方向へ体幹から腕、手、指先へと動きを使える-

イメージ:手の甲で空気を押し分ける
もうそろそろ皆さんもご理解いただけるだろう。
その通り、ここでもイメージを同時に使う
西野流呼吸法と単なる体操の違いはこのイメージにある。
むしろ武道でない、西野先生のバレエの要素がここにある。

肩の高さで真横の方向へ、手の甲を進めながら、柔らかく空気を押していく。「手の甲で空気を押し分ける感覚を味わう」とかつて指導された。

大切な事はもう一つ。
手が先に出るのではなく、丹田、腰の横への動きが先行しながら、上肢がその方向に付いてゆく(リンク、https://www.youtube.com/watch?v=A5Z-RAKl6qk&t=506s)。
したがってこれら四方向への動きは、単に上腕だけの動きではなく、下肢、膝、足首まで連動する全身運動である。
呼吸は、上腕から前腕へ、さらに指を端まで伸ばしたところで、吐ききる。
反対への動きに備え、腰の動きを準備しながら息を吸い、手の甲で空気を感じながら反対側へ伸ばしながら息を吐いていく。

実際にやってみるとよくわかるが、ラジオ体操で勢いよく腕を振っているというより、まるでバレエのプリマが上品に腕を横に開いてゆく、そんな感覚に近い。
左、右各10回、合計20回ぐらい振る。

さて、自分の身体に注目してみよう。
あなたの振っている腕とは反対の腕はどうなっているだろうか?
リラックスしていますね。だらりとしながら次の横振りに備えている。
そして身体の半分が入れ替わりながら、今度はリラックスした腕に緊張が始まる。

どうですか、身体の半分が緊張、半分がリラックス
習い始めた最初は、まだいつもの癖で両腕に力が入っている。しかし週一回、一ヶ月も続ければ、あなたは自分の半身を交互に上手に脱力できるようになる。

不思議な半身交互脱力の呼吸法Bodyworkだと思いませんか?

2)「応天」-身体の真ん中を、噴水のように、水が上方向に迸る-

稽古を先に進めよう。
次は腕を上方向にあげる。
このときのイメージ:身体が水道(あるいは噴水)のチューブで、その中を水が勢いよく上にほとばしる。
「息を吐きながら、手を身体の正中線にそって上げる」と記載、西野流呼吸法、西野皓三著、講談社、1987)

そういう感覚で手首は最初は曲がっているが、最も高い位置で上にピシャと伸びて、息を吐ききる。
(リンク、https://www.youtube.com/shorts/KdTTWu42QPI
次いで反対側に少し体を向ける間に息を吸う。
反対側でも同じ動作を繰り返す。

したがって、これは腕を上に揚げる動作ではあるが、動きは腕だけではない。おそらく腕を上げるだけでは、この動作の効果は出ないだろう。

実際に自分の体の中、より具体的には背骨自体(あるいは脊椎近傍筋肉群)の中をほとばしるような感覚をもちながらのBodyworkである。
だから椎骨と椎骨1本1本が背伸びをするような感覚で身体が上に伸びていく。
腕とともに身体全体が伸びているという感覚がある。

しかし一方で、身体は上方に伸びながら、これに反作用のように下に向かう感覚もある。
複雑なことをいうが、この身体の中のバランスのような反対方向への感覚も素直に意識する(これは指導員稽古に参加していて、実際に西野先生から聞いた言葉として残っている)。

この動作も、左右それぞれ10回、合計20回ほど繰り返す。

先の左右両側面への動作と同様に、背骨の軸を境に腕を上に揚げる側の半身は緊張し、反対側の半身は弛緩している。その感覚を味わう。
それが右、左、右、左と交互にリズムよく繰り返される


西欧医学で気づかれていない、「皮質下運動システム」へのアクセス法Bodywork!

そのアクセスが誰にでも可能で、自分の内なるDeepBodyに戻ることができる!

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