中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】5
この作品は過去に書き上げた中編純愛小説です。
明るいムードのなか、愛が絶賛するかのように舌鼓をしたあと、突然、声を張り上げた。
『ここのスープ、美味しい。麺もこしがあって歯触りも最高』
麺をずるずると口にそそる。
かなり味覚があったのか、黙々と食べ続ける愛を見て、涼はひとり、今はまだ告白は控えておこう、この関係を失わないようにしようと唇を噛み締めた。
愛は僕のことをどう思っているのだろうか?
静止したかのように微動だにしない涼に声をかける。
『どうしたのよ、食べないとスープが覚めてしまうわよ』
『ああ、ごめん。そうだね』
涼はふと思う。
勘の鋭い愛のことだ。
彼女は敢えて素知らぬ振りで接してくれているのだろうか?
食べ終わってしばらく、その場で話しを交わす。
涼は聞き役に徹し、愛はスイッチが入ると止まらないのか、一目も気にせず、マシンガントークを続ける素振りはコメンテーター顔負けだ。
涼は愛の癖をまたひとつ、見つけてしまった。
愛は話し込むと笑い上戸になるようだ。
あまりにも甲高い声に対して涼は、恥ずかし気に周囲を見渡した。
『愛さん、そろそろ店を出ようか?』
素直なところもまた可愛い。
彼女はそっと頷いて首を縦に振った。
コートと鞄を握り締め先に店を後にする。
ジャケットを羽織り、会計を済ます涼。
店のドアを閉める際、店内に残る人たちに対して一礼し、ふたりはその場を離れた。
ふたりは寄り添って涼の暮らすマンションへと向かって歩き始めた。
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