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デレラの読書録:ウラジーミル・ソローキン『親衛隊士の日』


『親衛隊士の日』
ウラジーミル・ソローキン,松下隆志訳,2022年,河出文庫


2028年のロシア、イワン雷帝的な絶対君主が復活した封建的な社会で、君主直属の親衛隊が暴力によって秩序を支え、エロティックでグロテスクな特権を感受していた、というソローキンの戯画的近未来SF。

儀式、公開鞭打ち、詩と薬物、狂気。

エログロ狂気を下支えするのは、絶対的な家父長制、マザーコンプレックス、ホモソーシャルな兄弟愛、そしてそれらへの信仰である。

後半での親衛隊の兄バーチャの長台詞は圧巻。

バーチャは隊士たちに問う、隊士として忠義を尽くし、それらを信仰する何故なのか。

「汝ら洟垂れ狼たちよ、信仰は財布ではないのである!...樫の棍棒ではないのである!では、信仰とはいったい何であるか?信仰とは...これは純粋で、透明で、静かで、ささやかで、力強く、そして豊富な水の湧き出る井戸である!」
(松下隆志訳『親衛隊士の日』p.250-251 一部略)

信仰は「財布=経済合理性」ではない。

信仰とは水の湧き出る井戸である。

では、湧き出る井戸水とは何か。

それは隊士たちを肯定する力だ。

その力を支えにして親衛隊士たちは暴力と残虐を実行する。

彼らは神=家父長である絶対君主の命令に従う。

その度に彼らは繰り返し言う、「そして神に栄えあれ」と。

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