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2021年 こどものインフルエンザワクチンどうするか

かなり久しぶりにnoteを更新します。
ちょうどインフルエンザワクチンの時期になってきました。去年はほとんどインフルエンザは流行しなかったし、今年も大丈夫でしょ、とワクチンをためらう方も少なくないと思います。

なので、今回は子どものインフルエンザワクチンについてまとめてみたいと思います。そもそも接種するべきか? アレルギーがあっても大丈夫か? など悩ましいことも多いと思います。今回の話が参考になれば幸いです。

・インフルエンザについて

まずはインフルエンザとはどんなものかまとめてみたいと思います。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる呼吸器感染症です。症状は発熱、だるさ、筋肉や関節の痛みから始まり、咳や鼻水などが出てくることが多いです。普通の風邪よりも症状が強いことが特徴で、急性脳症や肺炎によりときに重症化します。特に乳幼児や高齢者、妊婦、基礎疾患を持つ方は重症化のリスクが高いと言われています。
タミフルなどの抗インフルエンザ薬を早期に服用することで1-1.5日程発熱期間を短くすることが報告されていますが、基本的には自然治癒する感染症です。
診断は鼻の奥に細い棒を突っ込む「抗原検査」をよく行いますが、流行期では明らかな症状があれば検査をせずに診断することもあります。(*コロナ禍で流行した場合はインフルエンザと新型コロナ両方の検査をする可能性が高く、特にお子さんにはかなり辛いものとなってしまいます)

なお、最も重い合併症であるインフルエンザ脳症は例年100〜200例程度報告されています。死亡率は約30%、後遺症も約25%に見られる重篤な疾患です。これを予防するために有効なことはワクチン接種のみです。(*厳密には現段階でワクチンによる脳症の予防効果は統計的には得られていませんが、発病を予防することで一定の効果があるとされています。)

・今年の流行は?

昨年もインフルエンザと新型コロナの同時流行が危惧されましたが、結果としてはインフルエンザの流行は全くありませんでした。今シーズンはどうかというと、例年流行の予測に有用とされる南半球での流行は今シーズンも極めて少数でした。
「なんだ〜じゃあ大丈夫そうだね!」と思われるかもしれませんが、バングラディッシュやインドでは2021年夏季にインフルエンザの流行がありました。また、前年度の流行がないため社会全体のインフルエンザに対する免疫が落ちている可能性もあり、英国政府は例年の1.5倍の流行になる可能性があり、積極的にワクチンを接種するよう呼びかけています。

確かに、日本はマスクなどの感染対策を続けることが得意そうなので、そのおかげで今シーズンもあまり流行しないかもしれません。ただ、同じく2020年に非常に少なかったRSウイルスは、2021年は過去最高の流行となりました。特に、乳幼児では有効な感染対策は難しいため、インフルエンザも子どもの中で広がり、大流行を起こしてしまうことが心配です。

・インフルエンザワクチンについて

インフルエンザワクチンの効果は、新型コロナワクチンと比べてやや低いです。報告や年によって多少の差がありますが、全体の発病予防効果は50%前後、重症化を予防する効果は(高齢者では)約80%と報告されています。もちろん乳幼児でも一定の効果が報告されています。
ただ、この5割というのは接種した人の半分は意味がないというわけではなく、インフルエンザを発病した人の内、半分はワクチンを接種していれば発病しなかったということです(ワクチンの有効性ってわかりにくいですよね)。

これらのことから、日本小児科学会や日本感染症学会などではインフルエンザワクチンは今シーズンも積極的な接種を推奨しています。もちろん接種していても発病することはありますが、一番後悔が大きいのは接種をせずに重症化した場合です。また、子どもの発病・重症化をより確実に予防するためには周囲の大人もしっかり接種することが大切です。

なお、国内では13歳未満は2回接種が推奨されていますが、WHOや米国では9歳未満の初回のみ2回接種とし、翌年以降・9歳以上では1回接種としています。これはどちらが良いか明確な差を示すような報告はありません。もちろん2回接種が問題なくできる場合は、国内では通常通り2回接種を推奨しますが、在庫/予約の問題や児の負担によっては、1回でも良いので接種した方が良いかと考えています。

余談ですが、ファイザー社は新型コロナワクチンと同じ技術(mRNA)を用いたインフルエンザワクチンの初期の臨床試験を開始しているようです。高い有効性と安全性が確認できれば、数年後にはインフルエンザとの戦いも大きく変化しているかもしれません、

・その他のポイント

① 卵アレルギーがあっても、接種可能です。
日本のワクチンでは鶏卵タンパク質の混入量は数ngとされています。これはある程度重度の鶏卵アレルギーがあっても重篤な反応が起こる可能性が極めて低いレベルです。実際に、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーを起こした方のほとんどが卵アレルギーと関係がないことが知られています。

② 新型コロナワクチンと同時接種はできません。
新型コロナワクチンは他のワクチンとの間隔を2週間あける必要があり、同時接種はできません(海外では同時接種も問題ないという報告もあり、今後変わってくる可能性はあります)。
なお、インフルエンザワクチンとHPVワクチンなど他の不活化/生ワクチンとは同時接種を含め、接種間隔に決まりなくいつでも接種可能です。

③ 妊娠中の方も積極的な接種が勧められます。
妊娠中にインフルエンザワクチンを接種することで赤ちゃんにも抗体を届けることが可能です。自分のためにも赤ちゃんのためにも積極的な接種が勧められます。

*今回のまとめ
インフルエンザは普通の風邪より症状が強い感染症です。特に小児はインフルエンザ脳症など重い合併症が起こることもあり、注意が必要です。昨年同様にあまり流行しない可能性もありますが、RSウイルスのように小児を中心に大規模な流行を起こすことも否定できません。
インフルエンザワクチンの有効性は新型コロナワクチン程高くはありませんが、発病の予防、重症化の予防について乳幼児においても一定の効果があります。多くの学会が推奨しているように接種可能な方はなるべく接種することが勧められます。

参考
・日本小児科学会 2021/22 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
・日本感染症学会 2021-2022シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方
・小児におけるインフルエンザワクチンの有効性 小児保健研究 2021 第80巻 第2号
・厚生労働省 インフルエンザQ&A
・日本小児神経学会 小児神経Q&A
・アレルギーポータル

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