釣り人語源考 ハタ、クエ
「ハタ」は様々な種を含むグループの総称である。
ハタ科は世界で64属475種、日本では30属129種が棲息すると言われる大きなもので、ほとんどが岩礁や珊瑚礁で暮らす肉食性の"ロックフィッシュ"だ。
代表魚としてのマハタやお馴染みのキジハタなどなど、釣り人にとって憧れの魚であり好敵手である。
さまざまなハタが釣れるたび、その種類を象徴し特定出来うる美しい身体の斑紋が印象的だ。
沖縄ではハタ科を「ミーバイ」と呼ぶが、その語源は目が大きく少し出ているので「目・張り」の方言からと言われる。「メバル」と同じ…沖縄にメバルが居たら大混乱ですな…汗。
九州ではハタ科の一部、特にマハタやクエを「アラ」と呼ぶ。アラはアラカブのアラと同じで、"模様、斑"という意味だ。「まだら」の古語「たら」と考えられている。その訛りがアラだ。
さてハタの語源を調べると「羽太」と書いて「ヒレが大きい」からとある。
…やれやれまたこのパターンですか。
「ヒレの大きな魚」がこのグループの特徴なんですかね!違うでしょ!ヒレの大きな魚なんて他にも沢山あってハタ科をズバリ言い表してますか?あ?
…すみません取り乱しました。
ハタ科の最も重要な特徴は、その「多彩な模様」で間違いない。水玉模様や縞模様の組み合わせデザインを変化させ交雑を防ぎ、進化し分種されてきた。
現にアラの由来は"斑まだら"である。
ハタの語源を考察すると、「まだら」の類語の「はだら」が由来だと思われる。
おそらく「はた」という言葉が古い時代には存在していて、子供の顔に出来やすい丸く白い発疹を「はたけ」と呼ぶように、水玉模様を"はた"と呼んでいたのだと思われる。
もしかしたら「あばた」も"はた"由来だろうか。
ついでにクエの語源も調べてみよう。
クエは日本のハタ類でも大型になる種類で、しかも日本海では佐渡ヶ島、太平洋側では千葉県付近まで、本州にも広く分布するため、全国的な知名度を誇る超高級魚だ。
潮流の速い沖の岩礁帯に住み、警戒心が強くネグラからあまり出ずにじっとして1週間に一回しかエサを食わないとまで言われる。
キングオブ根魚だわ。
本場の和歌山県でクエ、九州ではアラ、四国ではアオナ、東海地方ではマス、伊豆諸島ではモロコと地方名があり、関西での"クエ"が標準和名となったようだ。
本格的に釣りで狙うなら泳がせやぶっ込みだが、ルアーでも食ってくるので要注意。釣れたら「クエや!和歌山の宝や!」とファンキーに叫ぼう!
さてクエの語源だが、世間では「九絵」説が拡まっている。それは「クエは成長とともに身体の縞模様が"9回"変化するので"九枚の絵"と見立てて九絵と呼ぶ」と言うものだ。
うーむなんともオシャンティな説だ…
クエは「久恵」と延喜式にも載っている古い呼び名であるのに、九絵説はちょっと出来すぎている感じだ。
また「垢穢」説というのは、身体の模様が「垢」が付いて汚れているように見えるからだとか。
…超高級魚にはちょっと合わない説と思う。
伊豆諸島での「モロコ」の由来は「室(ムロ)」だと言われている。巣穴に住んでいる様を表す名前だ。
四国の「アオナ」もおそらく「穴魚(アナナ)」の転だろう。「アオナ」の用法はクエやホウキハタなど色々まとめた大型ハタ類を呼んでいる感じだ。アオハタのアオも「穴魚」からの由来だと思う。だって黄色いし。
愛知県や三重県での「マス」もクエやマハタやホウセキハタをまとめて呼んでいる。大きな魚を「真魚(マス)」と呼ぶからだと思う。
これら地方名の由来を踏まえて「クエ」を考察すると、「じっとする・ふす・横になる」という意味の古語である、「臥ゆ(こゆ)」が由来だろう。
たぶん「コヱ」で「じっとしている大魚」という意味となる。その転であろう。
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