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【やるしかない】デザイン経営まとめ


デザイン経営の必要性と重要性を中心に、導入までの手順をまとめました。

デザイン経営を取り入れるステップから、デザインへの投資効果についても触れています。


本記事では、「デザイン経営」という言葉がしっくりきていない方を対象に、多様なキーワードでデザイン経営について触れていくことを目的とします。


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初めてお読みの方へ

合同会社decicoの松本です。

IT・デザインを用いてコンセプト設計・ブランド設計を行っています。

 持続的な企業作りのためのヒントになればと思い本記事を書いています。

noteでは10分程度で読める話を発信していますので、よろしければ他の記事もお読みください。あなたの経営の役に立つことを願っています。

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完読目安8~10分




重要性と危機感

最初のポイントとして「デザイン経営」はただの流行ではない

これまで提言されてきた多様な○○式経営とは違い、国が推奨していることからその重要性が伺える。

また、これまで重要視されてきた「ヒト・モノ・カネ」の経営三大資源に「情報」と「デザイン」を加え五大資源とし、新たなマネジメントの対象になると考えられている。

(さらに「時間」や「知的財産」などを加える説もあるが、いずれにせよ、これらと並列して上げられる「デザイン」の重要性が見えてくる。)


経営にデザイン的なアプローチが必要だ、という認識は広まりつつある。
では、実践している企業は? というと、それほど多くない。
そもそも、「デザイン経営」という言葉がしっくりきていない。
理屈はわかるのだけれど、自社には遠い話に思えてしまう。
範囲が広すぎてどこから始めればいいのかわからない。
多くの企業の本音は、こんなところではないだろうか。

我々は、顧客に真に必要とされる存在に⽣まれ変わらなければならない。
規模の大小を問わず、世界の有⼒企業が戦略の中⼼に据えているのがデザインである。
⼀⽅、⽇本では経営者がデザインを有効な経営⼿段と認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっている 。

重要であるにも関わらず理解出来ていない・取り入れていない現状。

我々はもっと焦りを感じ、積極的にデザインを取り入れなければならない。



【やるしかない】デザイン経営

デザイン経営が何たるかを知る前に、最も重要なこのタイトルの回収を行う。


特許庁が提言する「デザイン経営」と呼ぶための必要条件として、以下の2点が上げられている。

① 経営チームにデザイン責任者がいること

② 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

簡単に言えば、経営の上部にデザインを取り入れることが必要だということ。

そのためには、経営者がデザインに関して興味関心を持ち、取り入れるという意向を示すことが必要である。


デザイン経営については、自らが情報を求めなければ誰かが推奨してくれることは稀である。

なぜなら、デザイン経営の重要さを理解している内部もしくは外部デザイナーが経営者に対してその必要性を説くメリットがあまりにも少ないからである。

他人が経営者の考えを転換させるコストは極めて高い。

それだけの時間やコストをかけるのであれば、別のクライアントを見つける方が簡単だ。そうして、デザイン経営の重要性を知っている別の経営者と仕事をする方が、はるかに簡単で手っ取り早い。

つまり、自らが興味関心を持ち「取り入れるという意向」を示さなければ誰かが助けてくれる可能性は極めて低いということだ。



対象

デザイン経営を取り入れるべき対象はどのような企業か。

結論、業種を問わず、全事業者が取り入れるべきである。

また事業規模にも関わらず、個人事業主やフリーランスにも有用性を発揮する。


特に、以下のような課題を抱える事業者には際立って効果が表れる可能性が高い。

・販路が広がらない
・新規事業がつくれない
・下請けから抜け出せない
・優秀な人材が採れない
・会社の空気が悪い


「今日からすぐに」とはいかないかもしれないが、その準備は初めておくべきだろう。また、本記事を全て読んだうえで自社に必要ないと感じた場合は、危険信号かもしれない。そのため、しっかりと「自社に取り入れる意識」を持って読み進めていただきたい。



デザイン経営とは(入り口)

ではようやく、デザイン経営の表面に触れていく。

デザインは、企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。
それは、個々の製品の外⾒を好感度の⾼いものにするだけではない。
顧客が企業と接点を持つあらゆる体験に、その価値や意志を徹底させ、それが⼀貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。

このようなデザインを活⽤した経営⼿法を「デザイン経営 」と呼ぶ。

この文章を真に理解するだけで、デザイン経営の重要性が分かるだろう。


しかしまだ、デザイン×経営のイメージが湧かない人も多いかと思う。

「デザイン」という言葉自体が日本に入ってきてから日が浅いため、単にロゴやパッケージなどのビジュアルを良くするというイメージしかないだろうか。

もしかすると芸術のような、「理屈では語る事ができず、数字で表す事ができない幻想的なもの」というイメージすらあるのではないだろうか。


デザイン経営が意味するデザインとは、「正解の見えないコトに対して試行錯誤し答えを見つける過程そのもの」を指す。

つまり、単なるビジュアルイメージの改善に留まらないということだ。



デザインでの表現

デザインは、企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。

前項でデザインは表現する営みであると述べたが、表現と聞いて思い浮かぶ「広告」とはまた違う。

広告という枠を超え、人間が抱え込んでいる困難な問題をクリアにし、鮮明な形で伝えてゆくことがデザインである。

逆に言えば(広告という枠に捉われ)、モノを売ることのみを企む企業はやがて相手にされなくなり、滅亡していくと言える。


デザインとは、それ単体だけで「良い悪い」を判断できるものではない。

様々な事情や文脈を汲み取った結果の「最適解」を探すことである。

複雑な環境の中で「意図、意思、意味、意義」といった「意」を形にする仕事なのだと考える。逆に言えば、「意」のないところにデザインはない。


デザイン経営を取り入れる【step0】

デザイン経営の有効性は、これまで様々な識者が語ってきた。

ではデザイン経営を多くの中小企業が自社に活かすためにはどうすればいいだろうか。


私が提案するのは、自社にあった「入り口」から実践してみるということ。すべての会社が同じセオリーに従っても、なかなか効果は出ない

用意された手順通りに実施すればデザイン経営を取り入れることができるわけではないという落とし穴が、デザイン経営の複雑さや取っ付きにくさを表している。

しかし逆に、デザイン経営という意味を知らなくても無意識にデザイン経営ができている企業も存在いしているといった面白さもある。



デザイン経営を取り入れる【step1】

「デザイン経営」と呼ぶための必要条件
① 経営チームにデザイン責任者がいること
② 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

先ほど述べた、「経営の上部にデザインを取り入れること」がデザイン経営を取り入れるためのstep1と言える。


恐らくこのstep1で多くの経営者が躓く

どのように費用をかけ、チームを作り、活用していくのか。

この問題を解決するために、まずは全体を理解するところから始めたい。そうすることで上記した問題の答えが見つかり、ようやくstep1を始めることができると考えている。
このstep1で躓くことなく、ひとまず最後まで見て行ってほしい。


この全体を理解するという工程が分からず「何となくデザイン経営について知っている経営者」は、結局のところstep1すらクリアできずに「デザイン経営という流行り言葉」という程度の認識で終わる。



デザイン経営を取り入れる【step2】組織変革

step1で「経営の上部にデザインを取り入れること」を実施したら、次は組織全体にデザイン資源を浸透させていく。


組織変革のポイントとして、以下の3点が上げられている。

①デザインの形態化によって生み出されるべき新たな意味や価値の明示

②組織全体へのデザインへの関与

③コミュニケーションの媒介としての物や視覚的要素の整備

これらを総じてデザインマネジメントと呼ぶ。


【デザインのマネジメントとは】
デザイン資源を企業活動の中に有効に浸透させ、あるべき効果を引き出すために必要な、企業としてのデザインに対するポリシー、組織体制、具体的デザイナー体制、そして評価を含む、デザイン資源運用のための一連の知の体系である。

ここで少し難しくなったように感じるが、紐解いていくとシンプルな答えが見えてくる。


【①デザインの形態化によって生み出されるべき新たな意味や価値の明示】

もう少し噛み砕いて言い換えると、「デザインを用いて、組織をどのように変化・成長させるのかというゴールを明確に設計する。」ということだ。

先ほど、「経営者がデザインに関して興味関心を持ち、取り入れるという意向を示すことが必要である。」と述べたが、経営者がデザイン経営を行う意向を伝え、組織を編成し、その後手放しに資金を投じるだけでは何も始まらない。

経営者がその組織の中心となり、共に明確なゴールを設計していくことでようやく「デザイン資源の種」ができあがる。


【②組織全体へのデザインへの関与】

①で作り出した「デザイン資源の種」を全体へ浸透させていくことで、「デザイン資源」へと成長していく。

これには大変多くの手段が考えられるが、特に以下の3点が重要である。
・デザインポリシー(方向性、ガイドラインなど)
・デザインマネジメント組織とディレクター(CDO)
・デザインマネジメントシステム(評価基準、教育育成)

いずれも【①の段階】でしっかり経営者及びトップ層が「デザイン資源の種」について決めておかなければ、現場まで行き届けることはできない。

社内全体へ浸透するまでの道のりは非常に長いが、しっかり内部へと浸透させなければ、外部へ浸透させることはできない。


【③コミュニケーションの媒介としての物や視覚的要素の整備】

ここでようやく、多くの人がイメージするビジュアルデザイン(ロゴの刷新や起用キャラクターの変更など)へと着手する。

「良い感じにおしゃれな会社にしよう」と思う人がまず着手するのがこの工程かと思うが、「デザイン資源の種」がない状態でいくら変化しても、そこに「意」はない。

企業によっては【②の工程】と【③の工程】は順序を入れ替えてもいいが、組織変革を外部に告知する前に社内でよく話し合い、本当に進むべき方向性であるという確信を持つことが重要であると私は考える。
(後ほど詳細を記載)

ここまでをクリアできれば、自社の強みを理解し、ブランド力を向上させることができるだろう。



デザイン経営を取り入れる【step3】イノベーション創出

デザイン経営がもたらす恩恵の中で、ブランド力の向上に匹敵する程重要なことが、イノベーション(技術革新)を実現する⼒である。

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イノベーションを実現することで、以下の利点が考えられる。
・大きな経済的成長
・企業課題の解決と生産性向上
・企業規模にかかわらない市場独占の可能性
・国内外での市場競争の優位性獲得

イノベーションを実現する力は、企業存続のための重要なキーとなる。


イノベーションとは発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることだとされている。

なぜデザインにイノベーションを実現する力があるのか。

革新的な技術を開発するだけではイノベーションは起こらない。社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する


デザインは⼈々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。

供給側の思い込みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせる。
誰のために何をしたいのかという原点に⽴ち返ることで、既存の事業に縛られずに、事業化を構想できる。


つまりイノベーションによって得られる利点は、デザインが介在してはじめて実現するということである。

このような「デザイン経営」を実践するためには、企業において、複数
の取り組みを⼀体的に実施することが望ましい。例えば、デザイン⼿法
による顧客の潜在ニーズの発⾒や、 アジャイル型開発プロセスなどによ
り、企業のイノベーション⼒を向上させることができる。



デザイン経営を取り入れるstepまとめ

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デザイン経営を取り入れるstep1再び

これまで全体的なデザイン経営を取り入れる流れを確認したところで、「step1経営の上部にデザインを取り入れること」に戻る。

いざデザイン経営を取り入れるという段階で、どのように費用をかけ、チームを作り、活用していくのかという問題に再び向き合う。


これまでデザインについて学んだことがない人が「デザインを取り入れましょう」と言ってもなかなか難しい。

そのため初めのうちは、「デザインを取り入れる=デザイナーを巻き込む」という解釈が最も良いかもしれない。


ではどのようにデザイナーをビジネスに組み込むか・・・という話をする前に、「本当にデザイナーは必要か」について一度考えてみる。

冒頭で述べたとおり、デザイン経営が意味するデザインとは、「正解の見えないコトに対して試行錯誤し答えを見つける過程そのもの」を指す。

つまりデザイナーに求めている能力は、良いビジュアルデザインを制作することではなく、「答えのない課題に対してどのようなアプローチが適切か模索し、そのために情報を要素分解して理解し、本質に近づくことができる力」だと言える。

デザイナーとは観察の達⼈であり、顧客の潜在ニーズの発⾒する力がある。また、コトバにならないものをカタチにして開発サイクルを加速する力も持ち合わせている。

つまりデザイン経営を取り入れる上で巻き込みたいデザイナーというのは、良い作品を作り上げるビジュアルデザイナーではなく、分析力や言語化力を持ち合わせた人材ということだ。


ということは、そういった能力があればデザイナーである必要はないのかという疑問について、個人的には、デザイナーでなくてもよいと考える。

それは、デザイン経営とはデザイン(成果物)を作り上げるまでの過程をビジネスに応用する経営手法であるため、そういった分析力や言語化力を持ち合わせた人材であれば良いだろう。

しかし、最終的には視覚的な情報(ロゴの刷新や起用キャラクターの変更、マニュアル設計)へと変換する必要があるため、ビジュアルが得意なデザイナーを序盤から導入するという方法も間違いではないだろう。


これらを踏まえた上で、経営の上部にデザイナーを導入する方法として以下のパターン図が考えられる。

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このように、外部組織を用いてザイナーを入れて「やってみる」のも大事だが、最終的には、組織内部で思考できるデザイナーを入れて「やっていく」必要があるのではないか。



デザインへの投資効果

「デザイン経営」は、そのリターンに⾒合うだろうか。

各国の調査は「YES」であることを⽰している。欧⽶ではデザインへの投資を⾏う企業パフォーマンスについての研究が⾏われている。それらはデザインへの投資を⾏う企業が、⾼いパフォーマンスを発揮していることを⽰している。

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例えば、British Design Councilは、デザインに投資すると、その4倍の利益を得られると発表した。また、Design Value Indexは、S&P500全体と⽐較して過去10年間で2.1倍成⻑したことを明らかにした。その他の調査を⾒ても、「デザイン経営」を⾏う会社は⾼い競争⼒を保っていることがわかる。これがデザインを取り巻く世界の常識となっている。
⼀⽅で、⽇本の経営者がデザインに積極的に取り組んでいるとは⾔い難いのではないか。



デザイン経営の課題

これまで簡易的なデザイン経営を取り入れるstepを説明したが、実施後にも多くの課題が考えられる。例として特許庁が公開したデザイン経営の課題を記載する。

・経営陣の理解不足
・全社的な意識の不統一
・用語・理解の不統一
・人材・人事
・効果を定量化できない
・組織体制・評価指標ができていない
・ビジネスとの両立
・既存プロセスへの組込

詳細は特許庁公開の【「デザイン経営」の課題と解決事例】を参照ください。(最下部にリンクあり)


冒頭で、「経営者がデザインに関して興味関心を持ち、取り入れるという意向を示すこと」から始まると述べたが、それらは始まりに過ぎない。

本当の意味でデザイン経営を取り入れるには、社内で試行錯誤していく取り組みが重要であるということを、しっかり押さえておきたい。



共通の答え

デザイン経営について語る多くの人が、共通の答えを出している。

それは、デザインについての議論をオープンにし、広く意見交換することでデザイン経営は進化し、完成するということだ。

デザイン経営に関するいくつかの言葉を紹介する。

市民の詩人性が社会の美意識を作っていく。
特定の芸術家だけに閉じた”ハイアート”の世界を作るのではなく、より多くの人たちが表現するということで、美意識のある社会文化を目指したい。

この国には「デザイン教育」がもっと必要だと実感します。「デザインはあらゆる事象に関わる」ものであり「よりよいものを社会に生み出す」ために不可欠な思考と技術です。

デザイナーは美意識を拠り所にするしかない。
デザインは美意識の追求です。それは表面的な美ではなく、思想や意思を込めた意味での美意識です。それは哲学であり、倫理であり、人間らしさの希求です。

経営者はもちろんのこと、日本のデザインへの意識が底上げされたら、きっと今よりよい社会になると思います。

「デザイン経営の民主化」。
技術や市場規模の観点ではなく、「人」 を起点にビジネスを考える。



私から。

私たちは、「持続可能な企業作り」に力を入れている。

私たちは、自社が持続するための必要条件として、自社だけでなく取引先も共に勝てる仕組みを作る必要があると考えている。

企業の平均寿命が2-3年と言われる中で、どのようにすれば安定した利益を出し、存続することができるのかを常に考えている。

様々なアプローチを提言しているが、「デザイン経営」はその中心にあると言える。


どのような知識や技術があっても、取引先を勝たせようと思った場合には、決められたプラン内で業務を行うだけでは絶対にいけない。

良い意味で柔軟に。良い意味で徹底的に。

私たちは経営についての情報を日々更新している。

是非私たちと一緒にデザイン経営を取り入れていきましょう。



これから

デザインには、ここには記載できなかった多くの役割がまだまだ沢山ある。

今回の記事を読んだ方がこれをきっかけに、広く知識を集め、もっとオープンに情報が交換するようになれば嬉しく思う。



参考資料


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