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みどりいせきの感想

久々に小説を読んだ。大田ステファニー歓人という新人作家のみどりいせきという小説だ。色々な意味で問題作なので内容についてはあえて触れないでおこう。
まずは一人称で書かれた非常にクセの強い文体。口語をベースに、しかもかなり崩した若者言葉や隠語が多くて正直読みづらいのだが、慣れるとテンポの良い語感が癖になり思わず感情移入してしまった。
さらに緻密で執拗な情景描写。それも気候や物の質感、匂いや音など五感を総動員して表現され、それを受けた主人公の心情の変化や実感が文章を通じてありありと伝わってくる。絵的でありながら時間の経過も非常にリアルだ。
読み終わってまず感じたのはストーリーもまあ面白かったのだが、言葉の意味と音の関係性の特異さ。能記と所記のバランス取りが見事でそれらがタペストリーのように巧妙に折り重なり世界観に浸って読み進めるに従い、まったく違う次元に飛ばされるような高揚感を覚えた。
とにかくこの日から僕の中に春という強烈な登場人物が実体を持って立ち現れ、自分を構成する要素の一つとなり価値観を変容させるほどの影響力を及ぼすようになってしまった、そういう訳だ。

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