高山病予防の薬のもらい方

近場のヒマラヤ山脈にも、標高四千メートルを超えるところに道がある。
一週間後の旅行の目的地にも標高三千メートル以上の場所があるので、
高山病予防の薬を買いに行った。

今回はダラムサラの、「メンツィーカン（チベット医学暦法研究所）」というチベット医学の病院で自然由来のチベット丸薬を手に入れたが、
西洋医学の薬でも「ダイアモックス」という薬があるそうだ。

さて、高山病の薬は何という名前か分からなかったが、とにかく薬局へ行って説明すれば用意してくれるだろうと思い、メンツィーカン病院付属の売店へ先ず入った。
以前友人に頼まれて、肝臓の薬を買ったことがある。
高山病の薬も、一般向けに売られているだろうと思った。

ところが、売店の売り子さんは「ここには無いから、病院付属の薬カウンターへ言ってね」という。

「お医者にかからなくても、薬くれますよね？」と訊くと、
「さあ、分からない。」と笑いながら答えた。

病院の中に入ると、先ず受付のお兄さんがいて、
「何しに来たの？」と訊かれる。

「高い所に行った時に病気になりますよね？その薬、予防の薬をもらいに来ました。」
と何とか説明すると、お医者にかからないと処方ができないらしく、
診察登録ノート？に筆者の名前を書き込んだ。

「名前は？」と訊くので、
「どっちの名前が良いですか？」
「？」
「わたしはパスポートの名前とチベットの名前と二つあります。どっちが良いですか？」
「名前を言って。」

ということだったので、
「ロブサン・デチェン」とチベットの方の名前を言った。
「国は？韓国？」
「日本です。」
ということで、診察する時の名前はそれほど厳しく正確である必要はなかった。

空いていたので、建物の入り口すぐ横の部屋へすぐに通された。

病院は病人が行く所であるから、お医者さんは常に病人に対して仕事をしている。
薄いゴム手袋をはめた初老の先生は、少し疲れた様子だった。
脈診をされる時など、随分気を付けておられるのだろうなと思った。

「わたしは元気です。」
最初に言った。
「病気で来たのではないのですが、高い所に行った時の病気の薬、予防薬をもらいに来ました。」

先生はすぐに解ってくれた。
いや、入室する前に開いた扉の向こうで、あんなに大きな声で話していたのだから、全部聞いていたのだろう。
「どこに行くの？」と訊かれた。

「マナリと、タボと、ナコに行きます。」
「何日間くらい？」
「二週間くらいを考えてます。」

「わたし達は元気なので、基本は薬を飲まずに、高山病の症状が出たら服用しようと思います。」というと、
それで良いとおっしゃった。

そうして、先生はすぐ処方を書いて下さった。
薬は、具合が悪くなってきたと思ったら口に入れて、飴のようになめながら少しずつ溶かして飲んでも良いし、
丸薬をクラッシュして粉状にし、水と一緒に飲んでも良いとのこと。

具合が悪くなってからでも有効だそうなので、比較的即効性があるのだろう。

処方箋を頂いて、お会計を済ませ、薬を頂いた。
お医者の先生以外は、全て生活力のありそうなしっかりしたチベット人女性で、見ているだけで元気が出そうなレディースであった。

薬局のお姉さんも力強く薬の説明をしてくれた。
『これなら病気も治るだろう。』
と思わせるほどの力強さである。

結局、十日分の薬代と診療代、税込みで百七十三ルピーだった。
外国人だと少し高かったような気がするが、
『もしかして、安く（ローカル人値段に）してくれたのかな？』と思ったりしている。

薬は二種類十粒ずつで、計ニ十粒ある。

以前ラダックという山岳地方に行った時にも、海抜五千メートル以上の山越えがあった。
その時は薬も飲まず、現地の人が勧めてくれたブラックティー（ミルク無しの砂糖入り濃い紅茶）で凌いだ。

その時は二～三日前に既に高山病にかかっていて、頭も痛く歯も痛い最悪の状態が過ぎた後だったので、思っていたほど悪くはならなかった。
同乗していた台湾からの友人が、低地から急に高地へ来たせいか「眩暈がする」といって、車内で漢方薬を飲んでいたことを覚えている。

今回はメンツィーカンの薬と、日本の友人が送ってくれた粉末緑茶で山越えをしようと思う。

皆に心から、
感謝感謝感謝。

DECHEN
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