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もう一つのカーラチャクラ'

実際にカーラチャクラ・タントラの教えを保持し、実践し、結果を得ている修行者も、
チベット本土に多くいるという。

そのような修行者の一人、
現在インドにジョナン派の僧院(通称カーラチャクラ僧院)を設立し、インド・ジョナン派の座主をされている方に、主なニ法統の特徴、傾向をうかがったことがある。

前回のカーラチャクラ法統についても、その方にうかがった。

「ゲルクは論理、ジョナンは瞑想」

が、先ずおっしゃられた言葉。

ラ・ロツァワとド・ロツァワの二つのカーラチャクラ法統は、
クンパン・トゥジェ・ツンドゥによって統合されたと前回記したが、
https://note.com/dechenblog/n/n7a16dff8687c

それぞれの系譜を大切にする伝統ももちろんあって、ゲルク派は主にツォンカパが伝えたラ・ロツァワの法統を保持している。

ゲルク派といえば、問答を主にした論理学を通して、顕密の仏教に研鑽を積む学派として有名である。

実践の瞑想も大切にしているが、
論理的に教えの内容を解明することを得意とする、ある意味左脳的な派である。

それに対してジョナン派は、
「瞑想が好き」とのこと。

チベット本土の或るジョナン派僧院の中には学問を修める学堂があるとともに
その後ろには瞑想のための隠遁所があり、
経験を積んだ上師が指導をし
弟子は長期のリトリート(隠遁修行)を
僧院に支えられながら行えるという。

長期のリトリートを終えた修行者の中には
僧院を出て、山に入り、
更に瞑想修行を深める者もいる。
一生を瞑想修行についやす者もいる。

そのような修行者には、
親族親戚や麓の村に住む者が、時々食物などを差し入れ、
修行者本人も自身で水をくみ、食物をえる何かしらの方法をとって、瞑想修行を続けるそうである。

「だから何となかる。君も行ってみたら?」
と、別のお坊さんに誘われた。

そのように瞑想修行を重んじるジョナン派は
カーラチャクラという密教の教えを
説明するというよりは内面の成就を得るという方法で守ってきた。

僧団を大きくするための努力は
他の宗派ほどしていない様子である。

「瞑想が好き」というジョナン派らしい話をきいた。

中国内には、多くの少数民族も暮らしている。
漢民族であるなしをとわず、一般市民には仏教徒も多い。
チベット人ではない彼らが、チベット仏教の僧侶に法要を頼むこともよくあるそうだ。

ある家族が法要を頼まなければならなくなり、チベット仏教ゲルク派の或る僧院に連絡をとった。
僧の全体数が少ないため、遠方まで法要のために僧侶を派遣することはできないとのことだった。

そこでジョナン派の僧院に連絡をとり、法要のために僧を派遣してもらった。
その僧侶達は法要のための儀軌、経典を
朝から夜まで、食事のために僅かな休憩をとる以外、休みなく数日読み続けた。
招いた家族の方がびっくりするほどの真面目さだったという。

その家族は、その後もジョナン派の僧院に法要を頼むようになったそうである。

その話をきいた時、インド・ジョナン派座主の先生もそこにいた。
黙って軽くうなずいていたが、そうあるべきだと了解している様子だった。

コツコツと内面の実践修行に励むジョナン派らしいエピソードだと、筆者は思った。

カーラチャクラの教えを、主に瞑想修行という意識体験で守るジョナン派は、
右脳的といえるかもしれない。

他にもカーラチャクラの教えは、チベット仏教各派に伝わっている。
それぞれの偉大なる尊師方によって特徴があると思うが、ここでは浅学にして紹介することができない。

ご興味のある方は、
どうかこの深い教えの扉を開けてほしい。

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