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アイルランドD級ライセンス

 

 今回アイルランドに滞在していた理由の大きな一つがこのD級ライセンス取得。

 アイルランドといえば人口400万人の小さな国で、島の上半分は北アイルランドと言う(イギリス)国とシェアするような英語圏である。

 有名な選手と言えばロイキーン(マンチェスターU)やロビーキーン(トッテナム)。現在もユーロ予選では予選トップに位置し、プレミアリーグでもプレーする選手が多い国である。

 私自身がなぜこの国でサッカーを学ぶ事を選んだのかと言うと、ヨーロッパでの指導経験を得たかったからである。それも英語圏で。

 アイルランドの滞在が終われば日本で「英語で教えるサッカースクール」の立ち上げを考えていたので、どうしてもヨーロッパで英語でサッカーを教える経験を積みたかったのである。

 イギリスに行きたかったがビザが取れず、アイルランドでは運よく取得できたので1年間ワーキングホリデービザで滞在したのが2017年から2018年にかけて。その後もアイルランドの指導者ライセンス取得の為に行き来している。

 私がこの国で目指しているのはUEFA B級ライセンスが当面の目標。

アイルランド指導者ライセンスの仕組み

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上の図がアイルランド指導者ライセンスの仕組みだ。

特別にアイルランド国内プロリーグ(League of Ireland)で5年以上プレーした選手、又はそれ同等のリーグで選手キャリアを重ねた選手(アジア圏のリーグは該当しない可能性が高い)には飛び級でC級やB級からのチャレンジも可能である。

日本ではいきなりC級から取れるが、図のようにアイルランドではD級にいくまでにも様々な指導者コースを受けて行かないと辿り着けない仕組みになっている。

D級の下にあるPDP1、PDP2、ADULT INTROなどのコースはそれぞれ焦点を当てる年齢が違い、自分がどの年齢層を指導しているかによって自分で自由に選択して学ぶ事ができる。

それぞれPDP1は7時間のコース。PDP2は14時間などコースによってかかる時間が異なり、その合算で40時間に達して初めてD級のライセンスコースの参加資格が与えられる。

私はアイルランドに滞在していた時に40時間近くの講義をすでに受けていて、その後に何度か行き来しながら40時間にようやく辿り着いて今回のD級取得に至った非常に長い道のり。

他にチャレンジする日本人がいないのも理解できるかと思う。

アイルランドD級ライセンスとは何をするのか

今回受けたD級は1日で終わるものだった。朝9時半から終わったのは夕方4時前。いつも予定した時間より早く終わるのがアイルランドらしい。

主に指導の基礎的な事を、今まで受けたPDP1やPDP2で学んだ事と合わせて振り返っていくまとめ的なモノが多かったが、コース自体が「全員が学ぶ」と言う共通認識の中で行われている為、全員が参加するディスカッション形式が多かった。

逆に言えば、英語で発言する機会が一人一人ある為、英語力が問われるし、さらにアイルランド訛りの英語と言う壁も高い。が、それを乗り越えた先にあるものは大きいと思うし、やりがいもある。

午前の部でまず最初に行ったのが、5人1組に分かれたグループでの「自己紹介」➕「現役最強ベスト11選出」。

簡単に各自で自己紹介した後、世界のベスト11をグループで決めて発表。アイルランド人が選ぶベスト11はなかなかユニークで面白い。

その後も「フィットネスを上げるためのトレーニングメニュー」と言うお題でグループで練習メニューを考え発表したり、1日のトレーニングメニューの作成などもグループで話し合った。

何度もインストラクターが言っていたのは、より「リアリティ」のあるトレーニングメニューの構成をする事。その中に「コミュニケーション」と「プレー判断」が必ず生まれるものでなければいけないと言う事。

ただのパス練習ではパターン化していてコミュニケーションも同じ、プレー判断も毎回同じになってしまうので、コミュニケーションが生まれないと正確なプレー判断ができないようなメニューが理想であると話していた。

日本はまだまだパターン練習が多いのが現状で、実践により似た状況下でプレー出来るような設定を指導者側がセットアップして上げないといけないのだろう。

さらに印象的だったのは、若い指導者が積極的に参加していた事。17歳の子が3人、10代の参加者の5分の1くらいはいたように思う。それぞれ40時間以上のコースを受けた後にD級を受けているその意欲には感心。

意見もしっかりしていて素晴らしかった。

午後は、実際にアイルランドサッカー協会が推奨するトレーニングメニューをいくつか参加者を使って行った。

軽いウォームアップから、フィールド3分の1くらいのサイズでの6対6。スタートは必ずGKからビルドアップ。守備は攻撃側に問題を引き起こすような守備の働きかけを指導者が行い、それに準じて起こる攻撃時の問題をフリーズしながら解決策を提示していった。

そして最後はフィールド半分を使った6対6。

守備側はバック4➕2CMF➕GK、攻撃側は3CMF➕2WG➕1CF。

スタートはGKからで、ハーフウェイラインの両端と真ん中に2Mほどのゴールを設置してどう突破するか。守備側のビルドアップの練習ではなく、攻撃側のチームとしてプレッシングに重点を置いていた。特にファーストDFからの限定の仕方、追い込み方を徹底的に。

合言葉は「守備時はコンパクトに」。

これは縦幅だけではなく、横幅もだ。全てをコンパクトにすれば自ずとスペースがなくなり、相手のミスを誘発する確率が高くなる。キーは逆サイドの守備位置だ。必ず2人見れるような「ぼかせる位置」を取る事。決してマンマーク気味に近寄る事はしないように。

例えば、GKからRCBにボールが出る。RCBが前にファーストタッチをすればGOの合図。すかさずCFが右側からRCBの左を切るように弧を描いてプレス。RCBがRSBに出せば、守備側のRWGは攻撃側のLCBとLSBのどちらにもプレス行けるような位置を取ることが理想だ。

守備の鉄則は必ず逆サイドも中に絞り、2人を同時に見るポジションを取る事。そうすれば中がコンパクトになり、プレッシャーを受けた相手にパスミスやトラップミスを誘発する事が可能になる。

これはほんの基本的な事だが、他にもプレミアリーグの試合を事例に出したGKへのプレッシングや、マンC相手のプレミアチームの対策法なども示してくれた。

チーム力の底上げにはまず守備。攻撃ではない。逆に守備構成、能力がチームとして上がれば、自ずとその中で練習する選手達の攻撃力も上がるのだ。

攻撃ばかりの練習をしてもなかなか結果に結びつかないチームは、守備に力を入れて見るのがいいだろう。

D級の提出課題

そして最後に、D級からはただ受けただけでは合格とはならない。ここから提出しなければならない課題が各自に言い渡される。

今回はこの3つ。

1.  個人的SWOT分析

2.  プレーシステムのプレゼンテーション

3.  ある一日の練習プラン(16人から18人の選手がいるという前提で)

1のSWOT分析とは、マーケティングの際によく使われる手法の一つで、企業であれば「内部環境」「外部環境」をそれぞれカテゴリーを2つずつに分けて、4つの項目について分析。

「内部環境」→『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』というカテゴリーに分ける。
「外部環境」→『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』というカテゴリーに分ける。

これを自分の監督像に当てて個人分析を行うもの。

2つ目は自分が理想とするプレーシステムのプレゼン。そのシステムの特徴となぜそのシステムを好むかなどの個人的な考えをプレゼンしないといけない。

そして3つ目が練習プラン。もちろんプレーシステムに基づいての内容が求められる。

これでD級。

いきなり時間がかかりそうな課題を突きつけられたが、自分の指導論を整理する意味でも前向きに考えて取り組んでいきたい。

今回は簡単に先日受けたばかりのアイルランドD級コースをおさらいしてみたが如何だっただろうか。

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