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原監督 グータッチおじさんの青春

  ようこそ、もんどり堂へ。いい本、変本、貴重な本。本にもいろいろあるが、興味深い本は、どんなに時代を経ても、まるでもんどりうつように私たちの目の前に現れる。

 世代の違いなんてものはもともと歳を取らないとわからない。職場に自分よりはるか下の世代の人間が現れ、微妙なとまどいと新鮮な驚きを感じていく。下は高校卒業後の18歳から上は40~60代ぐらいまで。そんな多種多様の世代が、グラウンドというひとつの戦場で志を同じくして戦う。そういう意味では、プロ野球チームというのはおもしろい職場である。

 いまや「グータッチのおじさん」として若者に認識されている感のある巨人の原辰徳監督。監督にも若い時があった。いや、単なる若いだけのあんちゃんではなく、ジャイアンツの四番打者として華々しく迎えられた、さわやかでハンサムで野球がうまくて、そんな正真正銘のアイドルだった。その証拠がこれである。

 『原辰徳 青春そして音楽』(ラジオ日本・読売新聞社編・刊、1982年発行、入手価格200円)。

 原さんはドラフト一位で巨人に入団。1981年シーズン開幕からスタメンデビューを果たした。その年のシーズンオフにラジオ番組が企画され、翌年に本としてまとめられたのがこの本である。

 原巨人のルーツを探ろうとこの本を手に取ったが、驚くほど何も書いてなかった。

 ただ、ラジオというライブなメディアが元になっているだけに、その時代の空気を知るにはおもしろい。原さんの「おしゃべり」の合間にかけていく曲が泣かせる。

 『チャンピオン』(アリス)
 『夕暮れ時は淋しそう』(N・S・P)
 『唇よ熱く君を語れ』(渡辺真知子)
 『シーサイドラブ』(エアサプライ)
 『誰もいない海』(トワ・エ・モア)
 『ぼくの妹に』(加山雄三)……。

 そもそもこの昭和57(1982)年とは、どんな年だったのか。 

 ホテルニュージャパン火災、
  逆噴射機長・日本航空350便墜落事故、 
 にっかつ「くいこみ海女乱れ貝」公開、
  三越岡田社長「なぜだ」解任劇、
 「笑っていいとも!」開始、 
 中曽根康弘政権誕生、
 テレフォンカード発売。 

 「逆噴射」と「くいこみ乱れ貝」が乱れ飛ぶ、ちょっと変だけど、どこまでもまっすぐな時代。

 原さんの グータッチがどこか和風なのは、この、いかにも日本的な「まっすぐさ」のせいなのかもしれない。

  イチローや本田圭佑のような気の利いたセリフは入ってないけれど、この本には若き原さんが見つめていた時代の空気が入っていた。

 今回のもう一冊は、小林麻美著『ブルーグレイの夜明け』(河出文庫、昭和59年刊、入手価格105円)。

 「眠りからさめた私の隣りに
  もう あなたは いない 
  手をのばして あなたのぬくもりを探すけど
  白いシーツに 冷たい風が 吹き抜けるだけ」

 つぶやけばポエム、書いてもポエム、テーマを与えてもポエム。

 そこにあるのは時代の空気と美女の吐息。それだけで十分である。

                     (2014年 夕刊フジ紙上に掲載)

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