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(第25回)「宇佐八幡宮のモノレール」


 大分県宇佐市にある宇佐神宮は、全国に4万4000社ある八幡宮の総本社である。石清水八幡宮(京都・八幡)と鶴岡八幡宮(鎌倉)とともに、日本三大八幡宮とされる。皇室との関係も深く、一時は伊勢神宮を凌ぐほどの崇拝の対象になり信仰を集めた。神社の格等に関しては複雑なので、これ以上は割愛する。

 今回私が注目したのは、宇佐神宮のモノレールである。以前この連載で、神社仏閣の高勾配の階段について書いた。わたし自身、山梨の身延山久遠寺で大怪我をし、身に沁みて書いた回である。

 神社仏閣の信仰の基本は、きつく辛い階段を登り参拝する。そのこと自体が修行であり、信仰の気持ちを表す所作であるという基本的な考え方がある。だが、そうはいっても、超高齢化社会に観光立国。もう少し「楽をできる」エレベーター、エスカレーター、モノレールの類を導入するのはどうかと、地味に訴えたのである。

 宇佐神宮に参拝用のモノレールがあるらしいという噂を聞いたのは、ちょうどその頃だった。その後、なかなか訪れる機会に恵まれなかったが、今回、実際自分の目で確かめてみた。

 宇佐神宮は、小高い山(小椋山)の上に鎮座する上宮と麓にある外宮からなり、そのまわりに社殿が広がっている。参道を抜け最初の入場口から、何度も角を曲がるようにして、だんだんと聖域へとアプローチしていく構造がいい。その間は平らな広い道で歩きやすいが、大鳥居を抜け、いざ山裾へ差し掛かると急激に進みにくくなる。

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 山筋を縫うようにして参拝の道を歩む。まずは下宮で参拝を済ませ、外宮から連なった細い参拝路で上宮へと登っていく。(山形の立石寺や身延山久遠寺などに比べると)健康な人にはどうってことのない行程だが、高齢者や身体が不自由な方にはやはりきつい。外宮のみの参拝で諦めざるを得なかったケースもあるだろう。そこで、2013年に設置されたのが、このモノレールである。

 モノレールとはいっても、勾配に沿って敷設されたほんの短い距離のレールの上を、小さなゴンドラに乗って上がっていくというものである。それでも、そこそこの高度は稼げるので、実際の参拝には役に立つ。料金は無料。一般の人の利用は不可だが、ご高齢の方や障害のある方の介添に限り乗車することができる。

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西門に設置されたモノレール。人影はない。


 上宮での参拝を終え、一度山裾まで降り、敷地内に建てられた標識に従い、「モノレール乗り場」を目指した。外宮の入り口周辺から本来のコースを外れていく。ちょうど、上宮の裏手の崖下を目指すことになる。平坦な砂利道を進んでいくのだが、人のいる場所からどんどんと遠ざかっていく不安感もあり、かなりの距離に思えた。神宮敷地の西門と呼ばれる場所に設置されているのが、先述のモノレールである。

 残念ながら人が常駐しているわけではない。利用の際は事前に予約なり、問い合わせなりを済ませるのが常識ということなのだろう。もちろん、いままで参拝することの困難だった人々が参拝できるようになるという意味ではじゅうぶんに意味のあることだ。一般の人の「楽さ」や「手軽さ」が増すというのは、やはり望めないことのようだ。

 でも、こういう「セーフティネット」は絶対に必要である。一般社会の「常識」の数々が、まだまだこのモノレールを、人気のないところに設置させているけれど、その人のために、ちゃんと場を作る、ちゃんと席を設ける、そういう基本的なことは、社会が人を扱う上での最低限の礼儀だ。ルールさえ守っていれば、もちろん、どんな人がいたっていい。そして、それは観光地と言う場でおおいにミックスされる。やさしい新時代になってほしい。改めてそう願う。

〜2019年6月発行『地域人』(大正大学出版会)に掲載したコラムを改訂

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