見出し画像

子どもが「打順」を知るための本

 ようこそ、もんどり堂へ。いい本、変本、貴重な本。本にもいろいろあるが、興味深い本は、どんなに時代を経ても、まるでもんどりうつように私たちの目の前に現れる 

 「え? なんで、なんで?」。子どもはいろんなことを知りたがる。

 とくに昔は、「ガキのくせに一丁前の口を利くな!」とか「おとなの話に口をはさむな!」なんて親にどやされていたような「人権軽視」の時代である。

 さらに、いわゆる「技術の伝承」は、人から人、師から弟子へと伝えられていくような「崇高なもの」で、それはどこででも売られているような本に書いてあるようなことではないとされ、ときおり本屋で見かける「ハウツー本」の類は、どこか一段下に見られていた時代だったように思う。

 では、そんなに情報の少ない時代、しかもその「情報ヒエラルキー」の下部に位置していた当時の子どもたちは、その「知りたい」という気持ちをどうやって処理していたのだろうか。

 そんなことを考えている折り、私の手元にもんどってきたのがこの本、『野球入門 守備編』(監修長島茂雄・村山実、小学館、昭和58年発行、入手価格不明)(初版は昭和46年)である。

 私はこのシリーズをたしか「基礎編」「攻撃編」「守備編」と揃えていたが、さすがに古いので今ではあまり中古市場でも見かけないみたいだ。

 少し幼少の頃を振り返らせてもらう。

 九州の片田舎の小学生(低学年)だった私は、ある日、自分の仲間たちとどこかのチームで野球(ゴムまりを木の棒で打つ三角ベースの類)の試合をすることになり、当時身体の大きかった私が監督代わりで自軍の「打順」を決めることになった。そこで役だったのがこの野球入門である。

 「一番打者はリードオフマンと呼ばれ、打率の高い足の早い人を選ぶ」、「二番打者は送りバントのできる器用なタイプを選ぶ」、「三番、四番、五番打者はクリーンアップトリオと呼ばれ、塁上にたまった走者をホームに返す長打力を持つタイプ」など、おとなの世界では基本とされることを学んだ。

 それによってどんな打順が組まれ、どんな結果になったかは記憶にはないが、だが、子どもというのはその時点では精一杯に「おとな」であり、それなりに情報を欲し、吸収し、活かそうとしていたのだ。

 そんなことをしんみりと思い出してしまう。

 実業之日本社の人気シリーズ『なぜだろうなぜかしら』も、そんな「おとなであろうとする」子どもたちに多くの情報とロマンを与えた。

 「動物図鑑」「天体図鑑」などもそうだ。

 脳みそのシワも少なく情報の少ない子どもたちが、まるで子犬が骨型のゴム製のおもちゃをズタズタにしてしまうかのように、ボロボロになるまでそれらの本を読んだ。

 ふと、童心に帰る。とっくの昔に忘れていた「子どもの好奇心」を思い出す。そんなきっかけになるのも、このもんどり本の世界である。

 今回のもう一冊は『カルビープロ野球カード1973』(森美憲編、竹書房、平成13年発行)。

 懐かしさに涙ぐむ快著だ。

                (2014年、夕刊フジ紙上に連載)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?