「贅沢な骨」のフライヤー考察
1. なぜアイデアとして優れているか?
金魚とミキサーを掛け合わせることで死を連想させ、本来の機能とは違う意味を持たせる。
金魚は水槽にいるものだが、水槽をミキサーに変えることで、ミキサーの「粉砕する」という機能性が金魚の死を連想させるモチーフとなっている。
金魚は劇中の3人の登場人物であり、金魚だけ見ると一見穏やかだが、ミキサーがあることで3人の関係の危うさや、この関係が壊れて死を招く結果となるかもしれないギリギリさという恐怖が想像できる。
2. ビジュアル表現のよさは何か
ミキサーの機能性を逆手に取った狂気性のある表現
前述の通り、ミキサーの機能性もあるが、金魚の意味についても掘り下げたい。
金魚は観賞用として「飼育されている」イメージが強いゆえに、野生の闘争心などを連想させず、のんびりしているイメージがある。
また、お祭りなどでも「金魚すくい」は安価で楽しめ、もし取れなくても1匹プレゼントしてくれるなど、魚の中でも「飼う敷居が低く身近な存在」である。
その他の熱帯魚にすることも考えられるが、価格帯が高かったりおしゃれな印象で飼う敷居が高いため、金魚よりも「少しリッチ」な印象を与えてしまう。
この映画は日常を切り取った作品なので、「特に気取っていない、よくいる平穏な生活をしている人々」を演出するために、他の熱帯魚でもなく金魚を選定したのではないか。
またミキサーではなく、たとえば包丁であっても死を連想させるが、ビジュアルとしては安直すぎるし、包丁単体で死を連想させてしまうので面白みに欠ける。
掛け合わせることで、本来の機能とは別の意味が感じ取れるというところに表現の面白さがある。
3. 構図の妙は?
画角の真ん中に、最も目立つ金魚を配置し主人公的に見せ、その他の金魚は角度を変えることでサブキャラ的に見せ、違いを出している。
背景の柵の平行と、ミキサーの垂直さが交差し、中心の金魚への視線誘導につながっている。
金魚を際立たせるために、ミキサーのガラス部分には光を入れつつ、その周りは全体のトーンを落としている。ミキサーは、金魚より目立たずかつ背景に調和して輪郭を失わないような暗めのカラーを使用。
空、森、机を3分割した際に、空と机の割合が同じ程度の感覚になるようにし、横の線を作っている。ただ机は左の角を若干見せることで机であることを理解させる輪郭を残している。
4.フォントの特徴は?
細身の直線的かつ崩しがあるタイポグラフィで金魚の骨のような印象のあるタイトル文字に。
上部の英語はサブテキストの文字を目立たせつつ違和感なく入れるための飾り。
白文字で暗いエリアにテキストを入れることもできたが、メインとなるビジュアルの美しさを邪魔するため、空かつ文字を入れる表現で違和感なくサブテキストを目立たせたのだと思う。
5. 個人的な感想
普段使っているものを色々なスケール感で考えてみるとアイデアが広がるといういい例
不快な例で申し訳ないが、
例えばトングは、私達の感覚でいえば基本的に「なにかをつかむ道具」だが、カブトムシを間に入れたら、とたんに今にも潰してしまいそうな「殺す道具」としての意味を連想させてしまう。
道具やものを普段私たちが使う「機能的」な側面だけでなく、人でないものだったらなど、別のスケールでものを見ることで、シンプルながら尖ったクリエイティブを生み出せそう。
(尚、私はこの映画は見ておらず、ビジュアルから内容を想像しつつ、あらすじを見て話をなんとなく認識している程度の人間です、すみません。)
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